「ティーラさんの両親は?」
「いません。五年前に……」の続きの言葉を遮り、レオは深く頭を下げた。
「続きは言わなくていい。……ごめん、変なことを聞いてしまったね」
「レオさん、気にしないでください」
「ごめん。……お茶が冷めてしまったね」
もう一度謝ると、レオさんはお湯を沸かしにテーブルを離れてキッチンに立つ。彼の大きな背中に緩やかに動く尻尾を眺めて思う。
(レオさんは優しい。私は……ほんとうに優しい人に助けられたのね)
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新しいお茶が入り、レオさんは話を再開させた。
「ティーラさんはどこからこの国に来たの? ゆっくり、話せるだけ話せばいいよ」
「……はい」
レオさんの質問のどこから来ただった。ティーラは隣国ロートル大陸の北の奥にある、マント領にあるルース村から来たと話した。マント領? ルース村? と首を傾げるレオ。そうだろう、マント領の小さなルース村のことを知る人は少ない。
「小さな村だから……知らないと思います」
「ごめん。そうだ地図を持ってくる」
ちょっと待っていてと、レオさんはキッチンから出て行った。数分後、丸められた地図を片手に戻ってくると、テーブルに広げて地図を指差しした。
「ここが今僕達がいるエルデ国。隣国、北部のマント領……あれ、ティーラさんがいった場所はアンドレイ領とは書いてあるけど……マント領は載っていないね」
そうだろう、アンドレイ領はマント領に変わる前の領地の名前だ。まだ地図の更新が出来ないないから、名前が違うのだろう。
「アンドレイは昔の領主名前で……今はマントに変わっています」
「え、ああ……僕の持っていた地図が古かったんだね」
レオはそうかと頷いた。
「ティーラさんが隣国からここエルデ国へ来た。……僕は仕事上、ティーラさんのことを上に伝えなくてはならない。エルデ国が保有する森に入ってしまったからね」
「あ、私……」
もしかして捕まるの? 捕まって、強制的に元の場所に帰される……それは嫌だ。なら、お金もまだある、別の国へゆけばいい。
「レオさん。私、ここを出て別の国へ行きます」
「え、別の国? ティーラさんはやまらないで。上に伝えると言っても、僕のところに来たメイドがあやまって、森に入ってしまったと伝えようと思ってる」
「メイド?」
「うん、ちょうど一人雇おうと思っていたんだ。ティーラさんはボクの家でメイドとして働く気はない? 君は僕の姿を見ても驚かなかったから、どうかな?」
うかがうように、レオさんはティーラを見た。
ほんとうは別の国に行くのは怖い。ここでメイドとして雇ってもらえるのなら、ここで働きたい。
(レオさん優しいし、もう少しそばに居たいかも)
「私、掃除、洗濯、料理が出来ます。よろしくお願いします」
笑って、レオさんに伝えた。