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第11話

「よかったらこれを着て、僕のシャツで悪いけど……」と話して、ライオンさんは大きなシャツをティーラに渡すと、キッチンに居るからと部屋を出ていった。


 一人になった部屋で渡されたシャツを着ると、あまりの大きさと、質の良いハーブの香りに驚く。


「この香り、ライオンさんからもしていた」


 それを思い出すだけで、ティーラの頬に熱が篭る。

 だって、リオンとは手を繋いだことしかないから。


 リオンの「大切にしたいと」その言葉を信じていた。

 だけど全部リオンの嘘だって、子供ができるくらい、リオンはセジールと深く付き合っていた。


(……リオンの嘘つき)


 昨夜は状況が、状況だったけど……ティーラは男性に抱きしめられて眠ったのは初めての経験。彼の温かさに優しさを思い出して、シャツを抱き締めるように掴んだ。


「グゥ……」


 静かな部屋にお腹の音が響く……これも、キッチンにいる彼に聞こえた? そんなことを考えて恥ずかしくなったけど。言われた通り部屋を出て、左に進みキッチンを見つけた。その中から、ライオンの楽しげな鼻歌が聞こえてきた。


 ライオンはティーラがキッチンに来たことが分かったのか、料理の載ったお皿を持って、こっちを振り向き笑った。


「丁度いい時に来たね。さぁ朝食を食べよう。入ってきて」


「はい」


 キッチンの中は木造とタイルのモダンな造りで、中央には食事用のテーブルが置かれていた。そのテーブルの上には焼き立てのパンに目玉焼きにベーコン、サラダにスープがのっていた。


(いい匂い、美味しそう)


「どうしたの? 遠慮せず座って」

「は、はい」


 ティーラが座ると反対側に付けていたエプロンを取り、2人が座れそうな、大きな椅子にライオンは座った。


「さあ、遠慮せずに食べて」


「いただきます」と、パンを取りかじる……んんっ、パンがほどよく良く焼けていて、バターがたっぷり塗ってある。スープも卵にほうれん草で優しい味付け。


「おいしいです」

「それはよかった」


 お腹が空いていたからか手が止まらない。そんな様子のティーラをうれしそうに見つめて、ライオンも朝食を食べ出した。お腹が膨れて余裕がでてきて気付く。……誰かと、食事をするのは久しぶりだと。ふと目の前に居る彼が"リオン"と被り、硬く目を瞑った……その直後にカタッとフォークの音がして目を開けた。


 前に座る彼の琥珀色の瞳がティーラの変化に気付き、何か言いたげに見つめだけど、何も言わずに食事を再開した。優しいから「本当はどうしたの?」と聞きたかったかもしれない。だけど、彼に聞かれてもティーラはなにも言えない。


 だから……


「んん、美味しい」


 口いっぱいに料理を頬張り笑った。その様子に少し驚きの目をしたけど。ライオンも「口元にソースついてる」と目を細めてくれて、会話が弾んで楽しい朝食になる。朝食が終わり彼紅茶を入れてくれた、お礼を言うと、元の椅子に座り口をひらいた。


「いまから、少し君のことを聞くね。僕の名前は獣人族のレオだ、君は?」


 そう聞かれてティーラは名前を言うために椅子から立ち上がり、彼のシャツを掴み頭を下げた。


「レオ様、私はティーラと言います。……ただの田舎者の娘です」


 とティーラは男爵と家名は付けず、レオ様に名前を伝えた。


「田舎者の娘?……ティーラさん、そんなにかしこまらないで。こんな大きな屋敷に住んでいるけど、僕は貴族でもなんでもない。様なんてつけなくていいし、頭も下げなくていいよ」


「え、レオ様は貴族ではないのですか?」


「ああ、仕事で仕方がなく、この屋敷に住んでいるだけ。ほんとうにしがない獣人だよ」


 とレオは答えた。

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