『ティー世界には多くの人種がいて、たくさんの言葉と、優しい人がたくさんいるんだよ』
両親は領主みずから隣国へ行商に行って、よく仕事の話をティーラにしてくれ、その土地の絵本もたくさん買ってきてくれた。
ティーラは両親が買ってきてくれる絵本が好きで、両親が隣国から帰る日を心待ちにしていた。その中で、ティーラの一番のお気に入りは金色毛玉の冒険だ。家を出るとき、カバンに入れて持ってきた。
『大好き、お父様、お母様』
『私達もティー、お前が大好きだ!』
優しい両親……できるならもう一度、会いたい。そう願っていたら両親に会えた。2人は優しく名前を読んで、私を両手で優しく抱きしめてくれた。
このまま、私も連れて行って。
離れたくないと言った私に。
『ティーラ、負けるな』
『私の愛しい子。ティーラ、幸せになって』
と言った。だけど、その言葉に頷くことができない。
『幸せ? ……私の幸せは両手からこぼれ落ちてしまったわ……それなのにどうやって、幸せになれというの?』
お父様はリオンを思い出して泣く、ティーラの涙をふき。
『幸せがこぼれ落ちたのなら、そこからまた貯めればいい……貯めて、貯めて幸せになりなさい。私達はお前の幸せだけを願ってる、ずっと見守っているよ』
『諦めないで、私達の愛しきティー』
ずっと会いたかったお父様、お母様が薄れていく。
『いや、待って、待ってよ、私を置いて行かないでぇー、ひとりにしないで!』
手を伸ばしても2人には届かなかった。
両親を呼んで泣き叫ぶ、ティーラに別の感覚がおそった。
……
………っ?
あ、あれ、温か……い…?
……
「……んっ」
モフモフしていて柔らかい? 目を覚ましたティーラは、柔らかな金色の毛に包まれていた。
「もしかして、天国かしら?」
あのイーデンの森は天国に続いていたから、久しぶりに両親にも会えた。その柔らかな金色にを埋めると、その金色はモゾモゾ動く。
「悪いが、ここは天国ではない……よかった、目を覚ましたんだね?」
ティーラに向けて、早口に何か話した。
「き、金色……」
「金色?」
「金色毛玉が言葉を喋ったわ? ……喋る、金色の毛玉?」
手を伸ばしモフモフする。
世の中には、不思議なこともあるのね。
「ハァ? し、しゃべる金色毛玉? ……違うから、よく僕を見て」
また早口で何か喋る。
「僕を見ろ?」
昔に読んだ。大好きな"金色の毛玉が冒険する"絵本に書かれていた文字が、この金色の毛玉が話す言葉と同じ。子供の頃は絵だけではなく文字も読みたくて、両親に買ってもらった辞書をひきながらゆっくり絵本を読んだ。
家庭教師を雇い勉強したから、今はすらすらと話せる。
ティーラは金色の毛玉をよく観察すると、頭にふさふさな耳、大きな口に牙、立派なたてがみがあった。
この毛玉は服を着ていなくて、大きな手で私を包み込んでいる。そしてお尻には大きく揺れる尻尾があった。
「あ、あなた物語に出てくる、ライオンさん、みたいだね」
そう言うティーラに、毛玉は笑って。
「ハハハッ……そうだ、僕は獣人族のライオンだ」
「獣人ぞく? ライオン……?」
なぜが、あの森で眠ったら……金色で大きなライオンに優しく抱きしめられていた。