森は今日も静かな夜を迎えるはずだった。九月の中頃を過ぎてくると朝晩は急激に冷え込んでくる。この、イーデン森は国が保有する為、一般人の立ち入りは禁止となっている。
なぜ、立ち入り禁止なとかというと。
大昔、魔女が住んでいた森。
所々に魔女が育てた植物、実験した跡が残る危険な森。しかし、人々には天国へ行ける森だと噂がたっているが。現実は魔女が残した魔法陣を踏んだ者、魔女が育てた木の実を食べてしまって幻覚を見ただけ。
――誰も天国へなどいけない。
その魔女が残した植物、研究を狙う不届き者もやってくる。イーデン森の南側の入り口には一般人避けに『立ち入り禁止』と書かれた看板が立ち、森をぐるりと囲む様に魔法の仕掛けが施してある。
『君に任せる』
国の偉い連中は森へ来たくなく、投票で勝手に選ばれ、僕が管理者となった。この巨大な森を1人で守ることは出来ないから、魔法が使える仲間に頼んでやってもらった、魔石をはめ込んだ腕輪が緑色に光を放った。
「緑色か……一般の人間が森に迷い込んだな…」
赤は武器を持った危険人物、武装しなくてはならない。今回は一般人か……時は夕暮れ時。天国へ行くつもりか? 早くそいつを見つけないと、凍えてしまうだろう。
――よく、こんな時期に入ったものだ……。
いや待てよ。この時期を選んだのか? そんな事はないとは思いたいがな。管理をする森でそんなことは許さない、見つけて説教するぞ人間。
僕は足を止めて、クンクンと鼻を鳴らす。
「どこだ? 森に入った人間はどこにいる……? 手遅れになる前に見つけてやる」
魔女の研究を避けながら、トゲが付いた枝や草木を気にもせず、森の中を匂いを頼りに探した。イーデンの森に入ってから十分くらい経ったか? もう一度鼻を鳴らすと甘い匂いが鼻を擽る。
この甘い匂いか? ん、匂いが濃くなった場所は近いな。
「どこだ…」
僕は辺りを見回し匂いを嗅ぐ……見つけた。魔女が植えた食べると腹を下す、カナンの木の下だ。駆け寄ると木の側でぐっすりと眠る、薄手の白のワンピースを着た女の子を発見した。素早く近付き連れて行こうと、僕は女の子の体に触れた。
「……はっ!」
冷たさと同時に違うものを感じた。ドクドクと、うるさい鼓動に身体中の毛が立つ……まさか? この女の子がボクの? この歳になって、初めての感覚に正直いって僕は狼狽した。
いかん、いかん早く連れて帰らないと、このままではこの女の子は危険だ。僕は持ってきた保温シートを出して女の子を包み込むと、胸に抱えて元来た道を急ぎ足で屋敷へと走った。