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第7話

 次の日の朝早く起き、ティーラは髪をお団子にして白のワンピースを着込み、使い古しの肩掛け鞄とお気に入りのブーツを履いた。玄関にリオンにもらった婚約指輪を置き、写真たての両親に頭を下げた。お父様、お母様、ティーラは旅にでたまま、二度とこの地には戻らない。


「……領地を守れず。置いていって、ごめんなさい」


 ティーラは振り向く事なく、村をでて近くの大きな街まで歩き、隣国行きの相乗り場所に乗り込んだ。


(馬車代と国境代を払ったわ。あとは終点まで乗っていればいい)


 ティーラはゆっくり発車した、相乗り馬車から住み慣れた土地を眺め「さよなら」と小さく呟いた。



 +



 相乗り馬車は国境を超えて終点、隣国のカナ街に泊まった。時刻は夕方でこの街で一泊して、早朝から目的のイーデン森を探そうとティーラは決め、街を探索して楽しもうと思った。


(村を出たことがなかったから、見るものすべて楽しいわ)


 商店街を歩き、雑貨屋で魔石を使用するランタンに驚き、ソーセージを使ったこの土地の料理。ティーラはこのとき、隣国の言語を勉強していて良かったと思った。


 次に書店に向かい。森の位置を調べるために、この土地の地図を買った。


(この地図を頼りに、イーデン森を探しましょう)


 宿屋に戻り地図を確認した。ティーラが目指すイーデンの森は、ティーラがいまいるカナの街から東にあることがわかった。


(ここから相乗り馬車になって、ジャケの街で降りればすぐね)


 明日になったらお父様とお母様に会えると信じ、ティーラは眠った。次の日、お昼に出るジャケ街行きの、相乗り馬車にティーラは乗り込んだ。


(シャケの街まで3時間かぁ。もうすぐ会えるね)


 うとうと居眠りをして、夕方前に目的のジャケ街へと着いた。地図を確かめると、ティーラが目指すイーデンの森はこの街から、さらに東へと歩くらしい。


(すぐ、向かわないと夕方になるわ)


 ジャケの街を出てティーラは東へと歩く。途中に見える小麦畑、大麦畑の大きさに、うちの村よ畑よりも大きくて、穂も大きいと驚く。しばらく歩き大きな、立ち入り禁止の森を見つけた。


 ――ここが天国へ行ける、イーデンの森? 立ち入り禁止だけど。ここまで来たのだもの両親に会いたいわ。


 ティーラは立ち入り禁止の、森へと足を踏み入れた。

 だが森に入って直ぐに後悔する、ひんやりとした空気、日も暮れて足元は見づらく……心細く、怖い。周りの木々でさえ迫ってくる様に見えた。


「……リオン君」


 余りの怖さに来るはずの無い、リオンを呼び苦笑する。

 ――でも、好きだったの。

 ティーラにはあなただけだった。


「バカ、リオン! 騙すなんて酷いよ。好きだった、愛していた。あなたと一緒になりたかった……あなたと共に生きて、幸せになると夢見た時間を返して!」


 あの時に言えなかった想いを叫び、ティーラの声が森に木霊した。もう一度、息を吸い込み吐き出す。


「さようなら、リオン君……セジール様と子供と必ず幸せになりなさいよ!」


 毎日洗濯をして、既に真っ白じゃ無くなったワンピースの端をティーラは掴み。


「このワンピースはねぇ……結婚式に着たくって、頑張ってお金を貯めて買ったの」


「結婚資金だって、少しだけど貯めた」


「領主になったあなたを支えるために、料理、洗濯、苦手なお裁縫だっておぼえたわ――それらが全部、無駄となった……あーあ、疲れた」


 近くの木に腰を下ろすと同時に目蓋が重くなる……ああ、これで……ティーラは二度と目覚めなくてもいいやと、目を瞑った。

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