ティーラはあの後、どうやって家まで帰ったかは分からない。気付いたら部屋のベッドに寝ていた……何もやる気が起きず、仕事が終わったときの汚れた服装のまま。
時計が朝の8時を告げる。
「18歳の誕生日、か……」
祝うことも、なにもする気が怒らずベッドにただ寝ていた。しばらくして「コンコン、コンコン」と、誰かが玄関を叩く音がした。いまはそっとしていて欲しい。誰にも会いたくない。ティーラは居留守を使ったのだけど、家に訪れた人は何度も玄関をたたく。
(……もしかしたら、リオン君が戻って来た?)
そう期待して玄関を開けた。そこには青い顔をしたリオンのお母さん、ミリおばさんがいた。おばさんはティーラの姿をみると詰め寄りってきた。
「ティーちゃん、ごめんね。うちの子がこんなことをするなんて……ほんとうに、ごめんなさい」
ミリおばさんの表情を見て、これは嘘ではなく、本当のことなんだと、さいど現実を突きつけられた。
「やっぱり、本当のことなんだ……リオン君に好きな人ができたのか。……でも、わけがわからない、ミリおばさん教えて……」
そう聞くと、おばさんは瞳を大きくさせた。
「リオンは何も言っていないの? ただ、ティーちゃんに好きな人が出来たと言い? 結婚を辞めるとを言ったの?」
ゆっくり、ティーラは頷いた。
「おばちゃん、リオン君の好きな人って誰ですか? 教えて!」
「ティーちゃんには、辛い話になるけどいい?」
「これ以上、辛いことなんてないです……」
わかったと、ミリおばさんはゆっくりと話してくれた。リオンが好きになった人はティーラも知っている、マント男爵の一人娘セジール。
彼女は2人で村で過ごしていると、何処からかやって来て。
『リオン、探したわよ。話があるってお父様が呼んでいたわ』
『それは本当ですか? ティー行かないと、また後で』
リオンが見えなくなってから、セジールは声高く笑い。
『嘘よ。ティーラとリオンが一緒にいるところを見ると、腹が立つの』
など、彼女はティーラに、たくさんの意地悪をしてきた。
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困惑しながらおばちゃんは、屋敷で働くメイドから話を聞いてきたらしく話してくれた。セジールはリオンが屋敷で働き始めてから気になったのか、寝室まで入り込んでいたそうだ。
初めは断っていたリオンだったが、すぐ彼女の豊満な肉体に魅了されたと。度々、明け方。セジールがリオンの寝室から出てくる所も見たとも、言っていた。
(1年前、リオン君のプロポーズの時にはすでに2人はそういう関係?)
「ひどい……好きな人ができたのなら、早く言ってくれればよかった。プロポーズまでして、結婚式をまえに言うなんて、そんなに私を傷付けたかったの?」
「ああ……ティーちゃん、ごめんなさい」
「いいえ、おばちゃんは謝らないでください、悪いのは二人です。リオン君の好きな人はセジール様なんですね……そうですかわかりました。私、仕事をやめます。いままでありがとうございました」
ティーラはミリおばちゃんに深く頭を下げた。おばちゃんはそう言い出す事が分かっていたのか、胸元のポケットから茶封筒を取り出した。
「これ、少ないけど……いままでのお礼と、慰謝料」
慰謝料……これからのこともあるから、ティーラは遠慮なく貰った。帰りぎわ、ミリおばちゃんは両親が写った写真立てを見て、悲しい表情を浮かべる。
「……カリヤ様、シラカ様に顔向けできないよ。ごめんね」
「謝らないでください。両親も仕方ないと言っていますよ。ミリおばちゃん、いままでありがとう。ヤナおじさんにもよろしく、いってください」
おばちゃんは何度も頭を下げて帰って行った。
それを見送り一人になると涙があふれた……そうならそうと、もっと早く言って欲しかった。
「……もう、これもいらない」
ティーラは今朝まで作っていたベールとブーケ、花冠をつかみ、ゴミ箱へと投げ捨てた。