ロトール大陸の北の奥にあるアンドレイ男爵領は、5年前に男爵クレクス・マントがおさめる領地へと変わった。
その領地の中にある、小さなルース村に住んでいる村人は羊飼いが多い。羊飼い達は羊から羊毛をはぎ、毛糸を作り、毛織物を織り他の国に卸し。また羊肉、骨はスープに内臓はハムやソーセージに加工して、羊乳で羊バター、チーズも作り日々生活している。
春には菜の花が黄色い花を咲かせ。夏にはひまわり、秋は山の紅葉が楽しめて、冬には雪が降り、白銀の世界が一面に広がる――四季折々が楽しめるスール村。
いまルース村は8月の短い夏の時期が終わり、じきに秋がやってきて朝晩は肌寒くなる。そのルース村の中央に建てられた平屋建ての一軒家。とうに暖炉の火が消えたひと部屋のベッドの上で毛布にくるまり、押し寄せてくる疲れ眠気と闘い。男爵から平民になった私――ティーラ・アンドレイは縫い物をしていた。
(寒くて手がかじかむ、眠い……でも、ねちゃダメ)
あともう少しだと自分に言い聞かせて、手を動かし、最後のひと針を縫い裏生地に玉結びをした。一応……出来上がった。あとの手直しは仕事から帰ってきてすれば、完成だ。
「ふうっ、疲れたぁ〜」
肩を揉みながら、ホッとベッドの上でひと息をついた束の間、部屋の柱時計が"ボーン、ボーン"と五回の鐘を鳴らした。
(え、もう朝の5時? ……仕事に行く時間だわ!)
ティーラは使っていた裁縫具箱を急いで片付け、姿見の前で後ろに束ねていた茶髪の髪をほどき、頭の上でお団子にした。
北国ほ朝でも冷えるから、寒さ対策は必要。
壁にかけてあったモコモコ帽子をかぶり、耳当てをする。次に破れた箇所を何度も直したワンピースの上にコートを羽織り、首に手作りのマフラーを巻いた。
仕事へ向かう準備が終わり。
「おはよう、リーフお父様とカーラお母様、仕事にいってきます」
タンス上の両親に朝の挨拶をして、部屋を出て、履き慣れた革のブーツを履き。家の施錠して、古びたレンガ道を足早に仕事場へと向かった。
「あら、ティーちゃんおはよう。さいきん寒くなって来たね」
お隣に住む、サヤおばちゃんだ。
「おばちゃん、おはようございます。ほんと、寒くなってきましたね。そうだ、この前に頼まれた手編みの膝掛けが出来たので、仕事終わりに持って行きますね」
「ほんとうかい……ありがとう、ティーラちゃん」
サヤおばちゃんとの挨拶済ませて、ティーラが村の中を進めば。
「ティーちゃん、おはよう」
「あ、キカさんおはようございます。その、花柄のマフラー、使ってくれているんですね」
「ああ、花柄が可愛くてね。お気に入りだよ」
「また何かあったら、遠慮なく言ってください」
「ありがとう」
「ティーラ、おはよう」
村のみんなから、朝の挨拶が飛んでくる。
それは昔、ティーラの両親は領地主で男爵だった。
小さい領地だから、それほど裕福ではなかったけど。日々、穏やかに暮らしていた。しかし、ティーラが十ニ歳の頃、両親を流行病で、相次いで亡くしてしまった。
大好きだったお父様とお母様が亡くなり……悲しむティーラを村の人々は励ましてくれた――村の人たちには感謝しかない。