今から五年前、ティーラの両親が亡くなって一年経った頃、彼らは屋敷へとやってきた。メイドが屋敷の応接間に案内して話を聞くと、彼らは両親と共に事業をしていたと話しをはじめた。
この領地で代々毛織物を営む、両親から一度もそんな話を聞いたことがないと困惑するティーラと、側にいたお父様の執事、メイド達も同じ表情を浮かべている。
(マント男爵? はじめて聞く名前だわ……でも、この書類の文字は、リースお父様の文字に似ている)
彼らの話を聞いていくと。ティーラが成人前で、まだ子供だからと言い始め。屋敷、領地経営を我々に任せなさいとも言った。
ティーラは驚きで声を荒げた。
「い、嫌ですわ。なぜ? 見ず知らずのあなた達に、ここの領地を任せなくてはならないのですか? ここには私を手伝ってくれる、お父様の執事とメイド達がおります」
しかし彼らは。
「そんなもの役に立たない。それに子供のお前では何もできないだろう?」
「そうよ。わたくしたちに任せなさいな」
ティーラが子供だからなのか、上からの物言いに狼狽えたが、精一杯首を振った。
「いやです、余計なお世話ですわ! 自分の力で、やりますのでお帰りください」
ティーラが強く言うと、相手も強気に出てくる。
「何? せっかくの私たちの親切を棒に振るきか? フン、君の両親もそうだったな――親子揃って」
「なんですか、いきなりやって来て、亡くなった……両親の悪口を言うのですか?」
彼の話す内容に腹を立て反論したが、ティーラが子供の戯言と取られた。これならどうだ? と男爵が背広の内ポケットから手紙を出すとティーラに見せた。その手紙の内容は「自分達に何かあったら、あとを頼む」と両親が男爵に宛てた手紙だった。
(……お父様の手紙?)
その当時のティーラは子供過ぎた……彼らが持ってきた契約書、両親の手紙が全て、マント男爵によって偽装されたものと気付かなかった。両親を失ったばかりで悲しみにくれる――ただの十三歳。ティーラには執事、使用人の他に頼れる親戚も大人の知り合いもおらず、やってきた大人に捲し立てられ、半ば奪われる様にして彼らに領地経営を任せてしまった。
(心配だけど……あんな、上から物を言われると怖いわ)
だけどティーラは勇気を振り絞り、彼らに一つだけ条件をつけた。それは十三歳のティーラが十八歳になったら、領地を返して貰うというものだ。その書類もマントが弁護士を呼んで制作した。ティーラは屋敷にそのまま住み、家庭教師を雇い、近くの学校に通いながら領地勉強を五年間するつもりだった。
それは徐々に上手くいくなくなる。彼らはお父様の執事、メイド達を次々と難癖をつけ辞めさせ、自分の屋敷から執事とメイドを呼び寄せた。しだいにティーラの味方は誰もいなくなる。
――そして、
「あなた、ムカつく」
マント男爵の一人娘、同じ歳のセシールよりもティーラは成績がよかったらしく、しまいに彼女に嫉妬されるようになった。それからセジールはティーラと一緒は嫌だ、食事も一緒は嫌。あれもこれも、ティーラと一緒は嫌だと言い出す始末。
それを我慢して一年が経ち、マント男爵との暮らしにも慣れてきた。何事もなく五年間がすぎて欲しいと、願っていたティーラの願いは消える。
ある日、セジール様は私物が無くなったと騒ぎはじめ、ティーラが彼女の物を盗んだと言った。
――その話は嘘だ。
執事、使用人の証言と、マント夫婦も自分の娘セジールの嘘だとわかっていたがこれ幸いと。邪魔なティーラを追い出せると、娘のセジール様を信じるフリをした。
弁護士との話し合いでも、ティーラは反論したが話は覆らず。十四歳のティーラは領地のルース村へと追いやられた。
彼らと弁護士はグル、ただの没落寸前の男爵貴族だったと知らずに。