「へえー……なるほどね」
金髪イケメン、もといアニー・ククルスはミチルの話を興味深そうに聞いていた。
「君のいた世界は500年後なんだぁ」
「いや、それっぽいってだけです。ボクの世界の500年前にはカエルレウムとかルブルムなんて国ありませんでしたから」
ミチルはアニーとの会話の中で、ルブルムが国名であることを知った。ちなみにこの街はダリアと言うらしい。
「うーん、つまりどういうこと?」
「いや、僕もわかんないんです。パラレルワールドかなあ?」
文字や魔法じみた現象を除けば、確かにここは地球の昔の文化を持っているように思えた。
いや、地球人が想像し得るファンタジー世界だと言った方がしっくりくる。
「ぱられる……?」
アニーは首を傾げてばかりで、それがミチルには申し訳なかった。
「んん……ボクの世界の考え方で平行世界って意味なんですけど。同じ世界がいくつもあって、少しずつ違う世界が存在する、みたいな?」
「へー!不思議な考え方だね、初めて聞いたよ」
こっちもベスティアとか初めて聞きましたが。
などと言っても仕方ないので、ミチルはアニーにこの街のことを聞いた。
「この街……ダリアでしたっけ。どういう街なんですか?」
ジェイのいたカエルレウムの街と比べると、ここは治安がよくない様に思えた。酒場だらけで、夜はいいとしても朝になったらどうなるのだろう。
「そうだねえ、ま、カッコつけても仕方ないから素直に言うけど、一言で言えば見捨てられた街。かな」
「見捨てられた?誰に?」
ミチルが聞くと、アニーは眉を下げて笑いながら言った。
「カエルレウムに、さ」
「え?」
どうしてここでジェイの国が出てくるんだ?
ミチルが聞き返すとアニーは自嘲気味の笑みを浮かべて言う。
「今から100年くらい前、ルブルムは原始的な村の集合体だった。だけどそこに海を渡ってカエルレウムの探検家がやってきたんだ」
受験勉強を終えたばかりのミチルには、それがどういう意味なのかはすぐにわかった。
侵略されたのだろう。
「カエルレウムの文明はルブルムを遥かに凌駕していた。侵略、征服され、属国になるのに時間はかからなかった」
「つまり、ここはカエルレウムの植民地ってことですか」
ミチルは単に勉強してきた単語を使っただけだったが、それはアニーの顔を曇らせた。
「君、はっきり言うね。容赦ないな」
「あ!すいません!」
バカ!本人を目の前にしてなんということを!
ミチルはすぐに頭を下げた。恩をあだで返してしまった。とんでもないことを言ってしまった。
ミチルは気まずくて顔を上げられなかったが、アニーの声は優しかった。
「いいよ、いいよ。君の世界でもそういうのがあるんでしょ。でも君は直接関わらない平和な生活をしてきたんだろうね」
「ほんと、すいません……」
平和ボケした日本人で申し訳ないです。
恐縮しきりのミチルに、アニーは殊更明るく言ってのけた。
「まあ、侵略の憂き目にあった人達はもう生きてない。俺なんかの世代じゃあカエルレウム人の血も混じってるし、生活は便利になったからね。そんなに卑屈な人ももういないよ」
──気を使われた!
暴言を吐いたのに、イケメンに気を使わせてしまった!
そこまでされてはいい加減に態度を直さないと却って失礼だ。ミチルは意を決して顔を上げた。
「ね?だから落ち込まないでよ」
──!!
ふわりと笑ったその顔は慈愛に満ちていて、まさに国民の彼氏級!
えげつないほど輝く顔に、ミチルは目眩がしそうになった。
「うん?どうしたの?顔が赤いけど、泣きすぎて熱でも出た?」
「ま、まさか!赤ん坊じゃないんだから!」
あーたがイケメン過ぎるせいでしょうが!とはさすがに言えない。ジェイにも言ったことはない。
しかし、目の前のアニーはミチルの顔をじっと見てとんでもないことを口にする。
「だよね。でも可愛いな、君。俺のタイプ」
は──……?
ミチルの目眩は悪化してしまった。