ミチルが意識を取り戻し目を開けると、辺りはまだ真っ暗だった。
おや?これはもしかしたらさっきの森の可能性もあるぞ?
ミチルは目をぱっちり開けてまず地面を確認する。
「道路!」
残念、石畳だった。
だがそれなら城下町の可能性がある。
ミチルは顔を上げて周りを確認した。
「街……?」
ミチルが立っている道路の脇にはズラリと店が立ち並んでいる。明かりが灯り、音楽などが聞こえていた。
はて、あの城下町で音楽なんて鳴ってただろうか。人は忙しく歩いてザワザワしていたけれど。
「んー……?」
ミチルはその街並みをよく観察してみた。当然だが看板の文字は読めない。ならここは異世界のまま。よし第一関門突破。
しかし、歩く人々の雰囲気が少し違う。
薄着の若い女性。酒瓶を手に持ったままフラフラ歩くおじさん。鳴り響くダンスミュージック。
「あれえ?ここって……」
高校生を脱したばかりのミチルには察しがつかなくても仕方なかった。
しかし、ミチルが知っている城下町の所帯臭さがここには全くないことはわかった。
酒と煙草と泪と女。
そう、ここは歓楽街。立ち並ぶ店は例外なくオトナのお店である。
「酒場!」
ミチルが知るファンタジーワードで最も合致したのはそれだけだった。
ゲームだったら訳知り顔の渋いおじさんが聞いてもいないのに重要な情報を与えてくれる勇者の拠り所だ。
だが、これはゲームではない。隣に道具屋も薬草屋もない。酒場の隣は酒場、その隣も酒場酒場酒場だらけ。
ドンガラガッシャーン!
「ひいっ!」
完璧なSEを背負って、真っ赤な顔をしたおじさんが店の中から吹っ飛んできた。
「何すんだ、馬鹿やろう!」
「バカヤローはそっちでしょ!うちはお触り厳禁だよ!とっとと失せな!」
「チッ、なんだよ、いいじゃねえかちょっとぐらい……」
おじさんはのっそりと立ち上がり、酒瓶を煽ってフラフラと闇に消えていく。
「ザ・歌⚪︎伎町!」
ミチルは恐怖で震え上がってしまった。
街並みはカウボーイとか保安官がいそうな古い酒場街だが、ミチルには現代のあの街が思い出されていた。
ちなみにミチルは実際⚪︎舞伎町には行ったことがないので先入観で叫んでいる。
やばい。危険だ。別の意味で。
とにかくここから遠ざかろうとミチルが決意した時にはもう遅かった。
「よお、あんたいくらだい?」
「へ?」
酒臭い息を吐きながら、知らないおじさんがミチルに馴れ馴れしく話しかけてきた。
「見ない顔だねえ。でも可愛いじゃないの。そんな変な格好して、スキなんだねえ」
「な、ななな、なんのことでしょう!?」
「じゃあ、行こうか。可愛いから言い値でいいよ。今夜は勝ったからさ、懐あったかいの」
何に勝ったの!?柔道!?
ミチルはおじさんに肩を抱かれた瞬間ゾワゾワと気持ち悪くなった。
「は、離して!」
「またまたあ、そういうプレイかな?いいねえ、達者なんだねえ」
「ヤダヤダヤダ!離せえっ!」
ミチルは無我夢中で抗った。このままではこのおじさんにぱっくんちょされる。
「ジェーイ!!」
ああ……オレのぽんこつナイト。
助けて……。
「はいはい、そこまでだよ。オジサン!」
少し軽薄な声とともにミチルは腕を引っ張られた。
あっという間におじさんの腕の中から剥がされる。
「!」
おじさんの代わりにミチルの肩を抱いたのは、全然知らないけれど超絶イケメンだった。