ジリリリリ、ジリリリリ。
「あ、おはようございます」
近所のお婆さんが、草刈りをしている。
お母さんが声をかけたけど、聞こえないのか何にも答えない。
ジリリリリ、ジリリリリ。
丸い刃のついた草刈り機が、伸びすぎた草の頭をちょんぎっていく。
私は震えが止まらなくなって、お母さんの後ろに隠れたんだ。
剥き出しになった刃が、私の首も刈り取ってしまうかもしれない。
そう思うと、その場にいられなくなって。
お母さんの手を離して、一人で家まで駆けたんだ。
「待ちなさい!」
お母さんの制止する言葉も聞かずに、走り続ける。
やがて、草刈りの音が聞こえなくなって。
ようやく安心して、立ち止まる。
周囲を見回してみると、辺り一面の田んぼに囲まれていた。
家への道で、間違いない。
でも、お母さんがいないからいつもと全然違う道に見えたんだ。
カーカーカー。
カラスの鳴き声が聞こえたと思ったら、私の顔に何かが当たる。
ぽとりと落ちた、その姿を見てギョッとする。
それは、首の無いトンボだった。
道端の地蔵も、田んぼのカカシも、空を飛ぶカラスも。
みーんな、首がない。
ジリリリリ、ジリリリリ。
遠くから、草刈り機の音が聞こえてくる。
それも、一つじゃない。
あっちもこっちも、どこに耳を向けても聞こえてくる。
ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ。
お婆さんが、たくさんいた。
みんな、草刈り機を持っている。
逃げ場所なんて、何処にも無い。
ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ。
草刈り機を持ったお婆さんが、私の周囲をまあるく取り囲んだ。
そして、首筋に金属の冷たい感触が。
ジリリ……。