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【第7話】草刈り機

 ジリリリリ、ジリリリリ。


「あ、おはようございます」


 近所のお婆さんが、草刈りをしている。

お母さんが声をかけたけど、聞こえないのか何にも答えない。


 ジリリリリ、ジリリリリ。


 丸い刃のついた草刈り機が、伸びすぎた草の頭をちょんぎっていく。

私は震えが止まらなくなって、お母さんの後ろに隠れたんだ。

剥き出しになった刃が、私の首も刈り取ってしまうかもしれない。

そう思うと、その場にいられなくなって。

お母さんの手を離して、一人で家まで駆けたんだ。


「待ちなさい!」


 お母さんの制止する言葉も聞かずに、走り続ける。

やがて、草刈りの音が聞こえなくなって。

ようやく安心して、立ち止まる。

周囲を見回してみると、辺り一面の田んぼに囲まれていた。


 家への道で、間違いない。

でも、お母さんがいないからいつもと全然違う道に見えたんだ。


 カーカーカー。


 カラスの鳴き声が聞こえたと思ったら、私の顔に何かが当たる。

ぽとりと落ちた、その姿を見てギョッとする。

それは、首の無いトンボだった。

道端の地蔵も、田んぼのカカシも、空を飛ぶカラスも。


 みーんな、首がない。


 ジリリリリ、ジリリリリ。


 遠くから、草刈り機の音が聞こえてくる。

それも、一つじゃない。

あっちもこっちも、どこに耳を向けても聞こえてくる。


 ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ。


 お婆さんが、たくさんいた。

みんな、草刈り機を持っている。

逃げ場所なんて、何処にも無い。


 ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ。


 草刈り機を持ったお婆さんが、私の周囲をまあるく取り囲んだ。

そして、首筋に金属の冷たい感触が。


 ジリリ……。

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