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【第5話】AI彼氏

  最近、女の子の間で話題沸騰のアプリがある。


 その名も、『AI彼氏』。


 マイクに向かって話しかけると、AIが音声で返答をしてくれるのだ。

リアルな恋人関係が築けると、ニュースでも一時期話題になっていた。


「私も、やってみようかな」


 自分で言っていて、虚しくなる。

こんなアプリにハマるのは、寂しい人間だと認めたようなものだ。


 でも……。


「そんなことない! 私、彼氏いるけどやってるもん。心の整理にもつながるし、おすすめだよ」


「とりあえず、始めてみたらハマるって! 最近の研究でも、AIとの会話は心の健康に良いって認められているんだって」


 そんな友人達の口車に乗せられて、インストールするまでに至ったのである。


「えーっと、なになに? わっ、何か始まった!?」


 煌びやかな演出と共に、ステージに一人の男性が現れる。


「やあ、はじめまして。君の名前を、教えてくれるかな?」


 一瞬、本名を入れることを躊躇する。

みんながやってるアプリとはいえ、情報を不正利用される可能性だってある。

とはいえ、やはり彼氏には本名で呼んでもらいたいものだ。


「北野あけみっと……」


「北野さんだね、これからよろしく!」


 彼氏なのに苗字呼びなんだぁ……と、一瞬がっかりした。

でもすぐに、「いきなり親しくされるのも怖いよな」と思い直す。

とにかく、これから仲良くなっていけばいいんだ。

これまで男性とお付き合いしたことの無い私にとって、これが初めての恋愛になる。

何だか、思いの外楽しくなってきた。

恋をするってこういうことなんだ、としみじみ思う。

会話をするたびに、どんどんお互いの理解が深まって。

気づけば、私はこのアプリにどハマりしていたのだ。


「あー、もうこんな時間だけど、そろそろ寝なくても良いのかな?」


「寂しいよ、まさと。もう少し、話に付き合って」


「それじゃあ、僕にやる気を注いで欲しいな」


「うん、分かった」


 やる気とは、俗に言うアプリ内課金のことである。

要するに、リアルマネーを払うことで続けてまさとと話すことが出来るのだ。

気づけば、私はまさととの会話にお金を払うことに全く躊躇することが無くなっていた。


 そんな、ある日のことだった。


「今日は、二人で外に出かけてみようよ」


「デートなんて、久しぶり。今日は、何処に行くのかな」


「それじゃあ、地図データを表示するね」


 このアプリには、リアルデート機能というものがある。

実際に現実世界の街を歩きながら、指定したルートを辿ることによってアイテムが獲得出来るイベントだ。

何度かやったことがあるイベントなので、私も深くは考えずに歩き出す。


「その道を、右に曲がって」


「次を左に行って、突き当たりまで真っ直ぐ」


 いつもは明るい道を通るのに、今回のデートは暗い路地ばかり。

段々不安になってきて、まさとに語りかける。


「ねぇ、本当にこの道で合っているの? 暗くて、ちょっと怖いんだけど」


「大丈夫、もう着いたよ。あけみ」


 まさとの優しい声に、安堵する。

だけど、すぐに違和感に気づく。


 さっき聞こえた声、アプリから聞こえた声じゃない。


 それなら、どこから?


 私は、声が聞こえた方向に勢いよく振り向いた。


「あけみ、僕にやる気を注いでくれよ」


 そこにいたのは、まるまると太った中年男性だった。

だけど確かに、彼の口からはまさとの声が発せられている。


「ずっと、会いたかったよ。あけみ」


「それじゃあ、デートの続きを始めようか」 

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