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【第4話】ひたりひたり

 アスファルトを長靴で歩くたび、少し遅れて音が鳴る。


 人の気配がかき消えるほどの、叩きつける雨の中。

ひたりひたりと、その音だけがやけに鮮明に聞こえるんだ。

塾の帰り、いつもの道を歩いているだけなのに。

頬を流れる水滴が、すっと身体の体温を奪っていった。


 怖くなって、少し駆け足になる。


 だけど、ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。

変わらないリズムで、音は鳴り続けるんだ。


 早く、家に帰りたい。


 早く、家に帰りたい。


 早く、家に帰りたい。


 どれだけ思っても、時間は過ぎ去ってくれなくて。

頭も身体も疲れ切って、次第に足取りは重くなる。


 ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。ひた……。


 立ち止まってみると、音は止んだ。

途端に、安心感が胸いっぱいに広がった。

それでも、まだ家には着いてない。


 この雨が、いけないんだ。

 雨宿り出来る場所を探そうと、辺りを見回したところで気づく。


 ここは、どこだろう。


 見慣れない土地で、一人きり。

歩いてきた道を引き返そうと思っても、足元ばかり見ていたせいで帰れない。


 もう、いやだ。


 ひたり。


 もう、いやだ!


 ばしゃり。


 もう、いやだ!!!!


 ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃ。


 目が覚めると、天井を見上げていた。

見慣れない部屋で、点滴に繋がれて一人きり。


 ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。ひたり。


 管の中を落ちる点滴の音だけが、鳴り響いていた。



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