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【第3話】うまくいかない

 どうして、みんな簡単そうに出来るんだろう。


 僕は、何をやっても不器用で。

箸すら、まともに持てなかった。

だからいつも、手を使ってご飯を食べていたんだ。

お母さんもお父さんも諦めて、家では許してくれていたけど。

外では箸を使って食べなさいと、注意された。


 昼休みに、みんなが遊び始める頃。

僕は、給食を食べていた。

先生は、いつも決まって言うんだ。


「残さず食べなさい」って。


 みんなと一緒に遊びたくて、頑張って食べるけど。

間に合わなくて、配膳室に食べ残しを捨てに行く。


 とても惨めで、悲しかった。


 それから何度も何度も、挑戦するけど。

いつまで経っても、箸を綺麗に持つことが出来なくて。

僕はみんなとは違うのだと、ようやくそこで気づいたんだ。


 大人になってからは、色んな工夫をするようになって。

食事はおにぎりとか、食べやすいものを。

自動車ではなく、電車やバスを使うようになった。

仕事も、難しいことに挑戦するのはやめた。

結婚することも、家を持つことも諦めて。


 初めのうちは、上手くいった。

でも、段々虚しくなってくるんだ。

こんなに頑張っても、普通の人間にすらなれないから。


 僕みたいな人間は、それ相応の生き方しか出来ないんだ。


「アガッ……グギギ……」


 身体が、動かない。

最後の最後で、また失敗してしまった。

僕は、死ぬことすら上手に出来ない。


 遠くから、救急車の音が近づいてくる。

薄れゆく視界の中で、ただひたすらに誰かに謝り続けた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


 病院の個室に、賑やかな声が響く。

不器用な僕には、生きる資格が無いと思っていたけど。

今では疎遠だった友達や、両親に囲まれて幸せに暮らしている。

何もしなくて良くなって、随分と楽になった。

身体は捻じ曲がり、自由に動かすことは出来ないけど。

みんなが、ようやく僕を認めてくれたんだ。

窓越しに見える世界は、以前より色鮮やかに見えた。

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