どうして、みんな簡単そうに出来るんだろう。
僕は、何をやっても不器用で。
箸すら、まともに持てなかった。
だからいつも、手を使ってご飯を食べていたんだ。
お母さんもお父さんも諦めて、家では許してくれていたけど。
外では箸を使って食べなさいと、注意された。
昼休みに、みんなが遊び始める頃。
僕は、給食を食べていた。
先生は、いつも決まって言うんだ。
「残さず食べなさい」って。
みんなと一緒に遊びたくて、頑張って食べるけど。
間に合わなくて、配膳室に食べ残しを捨てに行く。
とても惨めで、悲しかった。
それから何度も何度も、挑戦するけど。
いつまで経っても、箸を綺麗に持つことが出来なくて。
僕はみんなとは違うのだと、ようやくそこで気づいたんだ。
大人になってからは、色んな工夫をするようになって。
食事はおにぎりとか、食べやすいものを。
自動車ではなく、電車やバスを使うようになった。
仕事も、難しいことに挑戦するのはやめた。
結婚することも、家を持つことも諦めて。
初めのうちは、上手くいった。
でも、段々虚しくなってくるんだ。
こんなに頑張っても、普通の人間にすらなれないから。
僕みたいな人間は、それ相応の生き方しか出来ないんだ。
「アガッ……グギギ……」
身体が、動かない。
最後の最後で、また失敗してしまった。
僕は、死ぬことすら上手に出来ない。
遠くから、救急車の音が近づいてくる。
薄れゆく視界の中で、ただひたすらに誰かに謝り続けた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
病院の個室に、賑やかな声が響く。
不器用な僕には、生きる資格が無いと思っていたけど。
今では疎遠だった友達や、両親に囲まれて幸せに暮らしている。
何もしなくて良くなって、随分と楽になった。
身体は捻じ曲がり、自由に動かすことは出来ないけど。
みんなが、ようやく僕を認めてくれたんだ。
窓越しに見える世界は、以前より色鮮やかに見えた。