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23《証拠》

周平から手渡されたタブレットには、自分が小説家として世に出るよりもずっと前からの調査報告書が入っていた。



オムツが取れる前から、幼稚園、小学生、中学生、高校生と長年の記録がフォルダにキレイに整理されていた。


そこには調査報告書として日報が写真とともに添えられている。


そこに保存されている写真は明らかに隠し撮りをしたとしか思えないアングルばかりだ。



少なくとも実家や親戚の家で、この手の写真を見た記憶はない。




しかし、物心つく前の写真だが、中にはかすかに記憶に残っているものもあった。


例えば、家に祖父母が遊びに来たときの写真や、七五三、家族旅行など。


写真を見ると、断片的な記憶が蘇る。


もう少し成長したものでは、

友達と秘密基地を作って遊んでいたときの写真もあった。


実は、そこは人の家の敷地内で、見つかった時にめちゃくちゃ怒られたこと。


教室で友人と大喧嘩して、壁に穴をあけて先生にこっぴどく叱られたときのこと。


記憶にない他愛もないものから、この様に印象に残っている出来事まで、全てが記録されていた。


仮にこれが偽物なら芸が細か過ぎる。



日報も軽く目を通すが、

小学生の頃は、何時に友人と喧嘩をしただとか、一日のうち笑顔でいた時間が合計何分間だとかの観察日記のようなものだった。



こんなものを大の大人が毎日調査していたのか...

つまんなすぎて担当者が可哀想すぎるだろ、と思わず心の中でツッコんでしまった。



仮に自分がこんな任務を任される立場だとしたら、数時間で音を上げて、3日で発狂し、4日目には退職する。



中学生になると報告書の内容も多少変わってくる。


だが、決してそれは楽しいものではなかった。


告白して振られただとか、先生に反抗して親を呼ばれただとか、その時先生に対して投げかけた暴言等も記録されている。


いわゆる黒歴史といったものが詰まっていた。


更に、薄々勘付いてはいたが、

四六時中監視されていたのだから夜の営み(ソロプレイ)の記録まで事細かにされていた。


ご丁寧に開始後何分で果てたかまで、、、

さっきまでの黒歴史ががかわいく思えてきた。



一体何人がこれに目を通したのか...

いや、考えるのはやめよう。


フィクションであってくれと心の中で祈った。



その後もザっと見ていくと、最近のものもある。

日報は一週間ほど前のものが最後で、それ以降は写真のみの記録になっている。


目の前の男が言っていた、引き継ぎをした日付と重なる。



最近の日報には裕介が作った食事の内容や栄養素、想定カロリーなども細かく書かれていた。



どうやら裕介の飯はビタミンAとCが不足しがちらしい、今度教えてやらないと。


相変わらず呑気なことを考えながら目を通してきたが、

これだけの証拠を見せられて、秘密結社の存在を信じないことの方が逆に難しくなってきた。



一番新しいフォルダを開くと、そこにある一番新しい写真は、まさかのついさっき家を出る直前のものだった。


ついさっきまで見られていたというのにはさすがの望も鳥肌が立った。




見終わると深呼吸をし、タブレットを返却した。



その間、周平は静かに待っていた。


初めは神妙な面持ちだったかと思えば、笑いを堪えたような表情だったり、眉をしかめたり、目が泳いだり。



長年自分が監視対象でプライバシーの欠片も無い人生だったという報告書を、何でこの人はこんなにも楽しそうに読めるのかが不思議でしょうがなかった。


もし自分がその立場なら、半狂乱でタブレットを床に叩きつけてもおかしくない。


それなのにこの男は、まるでアルバムを見返しているかの様に楽しそうに見えた。




そんなことを考えていると、望が口を開く。


「俺がヤバい組織に監視されていたってことはわかったけど、そんなヤバい組織の陰謀を一般人である俺に知らせてどうしろっていうんですか?」



またもや、周平の予想とはだいぶ違う言葉が返ってきた。



てっきり慌てふためき、助けを懇願してくるかと思っていたが、思った以上に的確な質問を投げかけてきた。



しかし、もうこの程度の想定外は想定内だ。



「確かに国内で逃げきるのは不可能といっていい。できることなら海外、特にこの組織の手が及んでいない地域なら、アナタを逃がせるかもしれない」


望に脱出プランの概要を伝えた。




すると、またもや意外な答えが返ってきた。


「ん〜、ちなみに俺が確保される日付や場所ってのは、あなたの権限である程度コントロールできるものですか?」



「ええ、ある程度は…やはり突飛な話すぎて信じてもらうのは難しいですか?」



「信じるだけの材料が揃ってるってのは理解しています。でも、だからこそです。

だからこそ、そんな巨大な組織の陰謀を一般人と、一職員だけで出し抜けるとは思えない。なら俺は捕まる前提で、残された時間を有効に使いたい」





——— 事実は小説よりも奇なり、という言葉を誰が残したかは知らないが、恐らくここまでの「奇」は想定していなかっただろう。



そんなことを考えながら、望は飲み会の予定を決めるかの様に、"自分を"確保する日時と場所を指定した。

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