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12《初任務》

初日の濃厚体験から1週間。


DPAのプログラムとして用意されているエージェント用の研修に加えて、斎藤が独自に課したものも並行して行っていた。



DPAのプログラムには、

007やミッションインポッシブルなどとは違い、銃の扱いや人を殺す技などの物騒な訓練はない。


ただ、秘密結社というだけあって科学技術は最新のものを使っている。


映画の中のアイテムにも引けを取らない、ある種の秘密道具たち。

それらの使い方は徹底的に叩き込まれた。



実技訓練のほか、これまでの事例や、トラブル回避のために先輩エージェントたちがとった対応策などを知識としてこれでもかと詰め込んだ。



更にそれらとは別に、斎藤が独自に考案したモールス信号を応用した瞬きと視線を組み合わせて意思疎通を図る暗号。


そして自身の身を守るための、対武器を想定した格闘術。

そして古武術の動きをベースに編み出した、独自の歩法の訓練が追加された。



特にこの歩法は、正中線を意識し、体重移動や歩幅、視線、適度な脱力など様々な要素をかけあわせたもので、

極めれば人の視界内にいても認識されにくく、警戒されずに接近できる高度な技術だった。



しかし、そんな特殊技術が一朝一夕で身につくわけもなく、毎日これを練習するよう課題を出された。




——— 任務の準備を終え、2人は車で現場へと向かう。


助手席でソワソワしている周平を他所に、斎藤は車に搭載されている通話システムで『オペ室』へと連絡した。



各エージェントには一人ずつ担当オペレーターがいる。

斎藤の担当は五十嵐由美という33歳の美人オペレーターだ。



ピピッという音とともに通信がつながる。


「やぁ由美ちゃん、今日の任務概要を教えて~」


周平は思わず2度見した。

また目の前で別人へと変身を遂げた。

それも今回は声色のみで。



五十嵐はターゲットの説明を始めた。


「ターゲットは寄木遊真 32歳。ボクシングでインターハイ出場経験あり。プロボクサーとして一時期活動していたが、一般人相手に大怪我を負わせ、それが原因でライセンスを剥奪された。そんな男が違法サイトからサバイバルナイフ2本と、違法改造が施されたスタンガンを購入したことが判明。細胞監視システムにアラートが発せられたため、今回お2人に監視していただくことになりました。概要は以上になります」



最後に五十嵐は周平に声をかけた。


「松本さんは初任務ですね、何かあればサポートしますので遠慮なくお声がけください」



突然の指名に、油断していた周平は座ったまま背筋を伸ばした。


「ハ、ハイ!松本です。よろしくお願いします!」


そう言いながらパネルにむかってお辞儀をする。



五十嵐はその反応に笑っている様子だった。

周平は耳まで赤くしてお辞儀の姿勢のままでいる。



「そんじゃ、由美ちゃんありがとねー!今日も頼りにしてるよー!」


斎藤はそう声をかけて通信を切った。



「さて、初任務にしては思ったより嫌な状況で回ってきたな」



斎藤は緊張する周平に声をかける。


「いいか、俺たちは警察じゃない、ターゲットが犯行を起こすことが大前提だ。目の前で人が傷付けられても、止めに入ったり間違っても犯行前に確保しようなんてことは思うな」



これは昨日までの研修だけでなく、DPAに入ったとき、一番初めに教わったことだ。


だが、新人エージェントの中にはそれを理解していても、自らに備わる正義感を抑えられず止めに入ろうとする者が時々現れる。



頭ではわかっていても身体が反射的に動いてしまうことがあるが、それを無理矢理にでも抑える必要がある。


自分の抑え方をいかに早く身に着けるかが、ルーキーが最初にぶつかる壁だった。



心がその耐性を手に入れるまでの間に、耐え切れず自ら命を絶ってしまう者も少なからずいる。

中にはシニアでも、心を病んでしまう者も珍しくない。



正義感とはこれまで生きてきた中で、少しずつ積み重ね形成されてきたものだ。

ある意味その価値観が自分そのものといえる。



それを否定しなければならないということは、これまでの人生を、自ら否定するということと同じで、心に相当な負担をかける作業となる。



改めて斎藤に言われ、周平は自身に与えられた役割の重さを再認識した。



緊張を和らげるかのように斎藤は話し始めた。


「緊張するのに忙しそうなところ悪いけど、現場までまだ時間かかるからDPAのことについて、研修じゃ教えてくれないことも話してやるよ。創設時と現在のDPAは目的が異なるってことを知ってるか———? 」

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