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第7話『順調順調――でも最後は、やっぱり』

 ボスエリアまで到着した。


 といっても、通常のモンスターが出現するエリア端にある壁にできた、くぼみ程度の場所。


 じゃあ別に討伐しなくてもいいんじゃないかって思うかもしれないが、何が悲しいってマップ上には何も表示されていないのにもかかわらず、見えない壁によって進行が阻まれてしまう。


 でもどうしてそこからボスを討伐しなければならないかというと、ご親切に、壁へぶち当たるとシステムメッセージでエリアボス【ハンターウルフ】を討伐してください、と出てくるからだ。

 その結果、ボスの方向へ向かう俺達は話し合うことになった。


「なあ少年。名前の読み方って何が正解なんだ?」

「ああ、ごめんなさい。わかりにくいですよね。ワドって読みます」

「なるほどな。さんきゅー」


 各々が武器を構える。


「じゃあ行くか、ワド」

「はいっ」


 ガガッドさんが突撃。

 俺は右斜め後ろを走る。


 名前は【ハンターウルフ】と立派なものがついているが、中型犬から大型犬になった程度でしかない。

 攻撃方法も至ってシンプルで、突撃・頭突き・噛みつきだけだ。


「はっあ!」


 ガガッドさんは盾を強引にぶち当てる。


「ワド!」

「はい!」


 盾で弾かれたハンターウルフは、顔を左側に向けている。

 そこを見逃さず、俺も飛び込んで剣を突き刺す。


 突き刺さる感触。


 しかし、こんな一撃では倒すことができない。


「バクステ!」


 ガガッドさんの指示通り、俺は後方へ跳ぶ。


「はぁっ!」

「いけっ!」


 再び盾を頭にぶち当て、大きな隙を作ってくれた。

 俺も先ほど同様に飛び込み、剣で二撃斬りつける。


 そして、今度は2人で後方に跳ぶ。

 なぜなら、後方からの弓と魔法が飛んできたからだ。


 直撃後――光となり割れ散った。


「よし、ここまでは順調だな」

「はい。ここからですね」

「今の戦闘を観てわかったが、俺達は前後を警戒する必要がある」

「そのようですね」

「ワド、1体を任せてもいいか」

「大丈夫です」


 やり取りが終わると、ガガッドさんは大きな声で次の指示を飛ばす。


「次からは2人で1体ずつだ! 俺とリラーロ。ワドとクラキキットだ!」


 その後すぐに【ハンターウルフ】2体が壁に空いていた穴から潜り出てきた。


「さあ、ここからだ」


 ガガッドさんは気を利かせてくれて、この場から離れて行く。


 さて、ここからが問題だ。

 さっきの後方から飛んできた攻撃を、俺とガガッドさんは回避するしかなかった。

 パーティを組んでいるのだから、同士討ちのようなものは発生しないが、攻撃の軌道に入ってしまうと視界不良になったり攻撃自体が消えてしまう。


 つまり、あの2人は連携なんて言葉をどうやら知らないらしい。


 だからといって、それを指摘してややこしくなるのはごめんだ。

 とりあえず集中しないとな。


『グルル』


 おうおう、お仲間がやられたから獰猛な牙をむき出しにして怒ってやがる。


「おい! 前衛なんだからさっさと行けよ!」

「――そうだな」


 俺は地面を蹴り、前へ進む。

 ガガッドさんみたいに盾はないし、あんな力技をできる力量もない。


 だから俺は。


「ふんっ」


 ハンターウルフが飛び掛かってくるのを目視し、スライディングして下を通過。

 その流れで腹部を斬りつける。


 でもこんな攻撃だけじゃ倒すことはできない。


 互いの位置が入れ替わる。


 俺・ハンターウルフ・クラキキットという感じで挟み込めているから、攻撃のチャンスではある。

 だが、逆を言えばこの状況でクラキキットが攻撃を仕掛けてしまうと、ヘイトがそちらに向いてしまう。

 立ち回りを知っている玄人なら問題ないだろうが、先ほどから観ている感じ、それをやったら大変なことになる。


「今だ!」


 やはり、そうなってしまうのか。


『グルァッ!』


 背中に攻撃を受けたハンターウルフは、向く方向をすぐに変え、俺に背を向ける。


 そして、


『グラァ!』


 クラキキットへ突進を始めてしまう。


「お、おい! 前衛なんだから早く助けろよ!」


 どうやっても間に合わない。


『グルルルルル』

「ひ、ひぃ! 早く助けにこいってば!」


 幸運にも弓がハンターウルフの口に挟まり、攻撃を防げたようだ。


 ここまでくればただ背中を晒しているのを利用し、右から一撃、そこから反して二撃。


 しかし更に俺としては嬉しいことに、ハンターウルフは余程あいつが憎いのかその牙を話そうとしない。

 なら、ここからはただ一方的に攻撃を続けるだけだ。


 右。

 左。

 右。

 左。


「お、おい! 早く助けろよ! 何をやっているんだよ!」

「攻撃」

「はぁ!?」


 なんともシュールな光景であるが、こんな楽にボスモンスターを倒せるなら最高じゃないか。

 いや、胸の高鳴りなんてどこかに消え去ってしまったから、最高ではないな。


 ――ほどなくして、討伐完了。


「はぁ……はぁ……はぁ……お、おい! 何の役にも立たなかったんだから、起き上がらせろ!」

「ん? 腰でも抜けたのか?」

「なんだと! 馬鹿にしているのか!」

「そんなに元気なら1人で立てるだろ。女の子でもあるまし」

「くっ!」


 そんなことより、あっちは――。


「おーう、そっちは終わったか?」

「お手伝いに来たわよー」

「大丈夫です。こちらも終わりました」

「あらどうしたの? 何かあった?」

「いいえ、無事に討伐出来ました。心配していただきありがとうございます」

「あらあらいいのよ。今はパーティメンバーなんだし」


 このお姉さん、いいなぁ。


「んじゃあ――名残惜しいが、俺達はここでお別れだな」


 楽しかった時間が終わってしまった。


「俺達はこれからまたライバルに戻る。またすぐに会うかもしれないが、その時は仲良しこよしってわけにはいかない」

「そうですね」

「もう少しだけ一緒にパーティを組みたかったわ」

「まあ、そん時は自分で仲間を集めるんだな」

「ふむぅ」


 残念そうにしているリラーロさん。

 その気持ちは俺も同じだ。


「じゃあ、解散」


 システムウィンドウが空中正面に出て、解散の文字が表示された。


「それでは皆さん、短い間でしたがありがとうございました」


 俺は深々と頭を下げる。


「じゃあまたどこかでな」


 ガガッドさんは次の街の方向へ駆け出す。


「じゃあみんな元気でね~」


 お姉さんは最初の街の方へ戻って行く。


「おい! おいってば!」


 この人はこのままで、いいか。


「よし、俺も行くか」


 俺はガガッドさんと同じ方向へ駆け出し、次の街へと足を進める。

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