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第6話『こういう時は、パーティを組むのが吉』

 やっとのことで開放された。


 そんでもって、昨日のうちにめちゃくちゃ走って次の街に来たのはいいものの……俺以外の冒険者も既にたどり着いていたようだ。

 期待に胸を膨らませてはいたが、もしかしたら俺が最速ではないかもしれないという懸念は頭の端にあったのが的中してしまった。


 俺は学生でありながら探索者もやっている。

 兼業なんかしていない人は俺よりも時間を使えるから、こうなってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。。


 今その人達と対面しているのだが、俺含み全員が顔をしかめている。


「適正レベルは超えているのに、ここから先に行く場合はボスを討伐しなければならない、か」


 俺は事実を述べる。


「それはそうなんだけど、なんだかねぇ……」

「この際だからレベルを公表するけど私はレベル20よ。みんなもそれぐらいなんじゃない?」


 同じゲームをしている同士だというのに、隠し事をするのはどうしてかと思うだろうが、それは『みんなで仲良くやろう』という人達に限る。

 そういったプレイヤーで大半を占められているわけだからそれが普通だけど、俺達のような"最強"や"最前線"を意識しているような人間は違ってくる。


 情報は金、情報は命なんて現実味のない話ではなるが、俺達にとってはそれが重要。


「僕はレベル26です」

「俺はレベル32だな」


 うっわ、高すぎんだろ。

 でもまあ……こればっかりは仕方がないか。

 現実のレベルが関係しているわけだし。


「俺はレベル24です」


 この街に来た時は俺だけだと思ったし、レベルを2も上げたから心に余裕があったのに、正直ちょっとだけ落ち込む。


 しかし今はレベルで張り合っている場合じゃない。

 この場にいる全員が思っていることを、剣と盾を持つ渋めのお兄さんが代弁してくれた。


「この際、プライドなんて言っていられる状況じゃない。だろ?」


 俺含んで誰も肯定しないが、誰も否定しない。

 つまりは、沈黙は肯定。


「こんなところでうだうだしていたら、他の奴らもここまでたどり着いてしまう。なら、俺達は一時休戦としてパーティを組んで攻略するべきだ。違うか?」

「俺もそう思っていました」


 俺は流れに乗って話に賛同した。

 まさにその通りだから。

 一人では攻略できそうになかったからには、協力してボス攻略をするしかない。


「他の人はわからんが、とりあえずパーティを申請しておく。嫌なら断ってくれて構わない」


 お兄さんはシステムウィンドウを操作し、俺らに申請を飛ばす。


 俺は即承諾。


 他の人は、先程の様子から少しだけ悩むのかと思っていたが、思いのほか俺と同じだった。


 盾と剣――ガガッド。

 両手杖――リラーロ。

 弓――クラキキット。


 の三名が視界端に追加される。


「それじゃあよろしく」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「僕が手を貸すんだから、敗北は許されないよ」


 これは大きく出たな、メガネ少年。

 レベルは俺より高いのはもう証明されてしまっているが、俺は覚えているぞ。

 現実世界でレベルが高ければ、同期した瞬間にレベルが急上昇するが、逆に考えれば現実世界でレベルが低くてもゲーム内で必死にレベルを上げれば同じことだ。

 もしもゲーム産のレベルだった場合、威張っていられるのは今のうちだけ。


 お姉さんはどうなのかは知らないけど、少なくともこのお兄さんは風格的に現実産だと謎の根拠を抱いてしまう。


「さて、まずは各々が掴んだ情報提示からだ」

「じゃあ俺から。表示レベルは15で、強さ的には1対1でも討伐可能でした。でも、討伐した後すぐに同様のモンスターが2体出現してきたので撤退しました」

「私も同じ。1対1で討伐することはできたんだけど、あんなに動き回るやつを2体動時に相手するのは無理だったわ」


 お姉さんも大体は俺と同じ道を辿ったらしい。


「ぼ、僕は2体まで倒したよ。あんなの楽勝だったけど、さすがに3体目は無理だった」

「やるじゃねえか。弓でそんなに倒せるってのは相当な腕だな」

「そりゃあそうさ。だからさっき言ったろ? 僕の邪魔だけはしないでくれって」


 俺達は「おぉ」と口を揃えた。


 キャラの見た目なんて偏見でしかないんだけど、丸メガネに垂れ目、若干のおかっぱ頭に細身という、天啓的なひ弱キャラとしかみていなかった。

 そんでもって、弱キャラ特有の見栄を張るために若干顎を上げて胸を叩く仕草。

 からの、距離が近いのにそこまで声を大きくする必要がある? と疑問を抱く声量。


 強キャラではない特徴のオンパレードが、まさかの見当違いだったとは予想外だ。

 やっぱり、人は見た目によらずとは言うが、本当にその通りだったとは。

 俺も、今後は相手を偏見で決めつけるのはやめないとな。


「じゃあこうしていても時間がもったいないから、とりあえず行ってみるか。一応、確認だけしておきたいのが、俺と剣少年が前線、姉ちゃんと弓少年が後方って配置でいいよな? まさか、変態はいたりするのか?」

「俺はそれで大丈夫です」

「ええ、私もそれで大丈夫よ」

「弓だっていうのに、前線で戦うようなバカがいるはずはない。何を言っているんだ?」

「まあそれもそうだな。んじゃ、行くか」


 ん?

 まさかだとは思うが、この眼鏡少年は……。


 歩き出した瞬間、お兄さんが何やらウィンドウ操作をし始めたと思ったら、珍しく両手を使っている。

 大体そういう動作が必要なのは、メッセージシステム系のものだ。


 すると、


『突然で悪い。返信はしなくていいから、このまま何もないかのように歩いてくれ』


 というメッセージが俺に届いた。


『あの姉ちゃんのことはわからんが、あの少年には何も期待するな。あれはたぶん使い物にならん可能性が高い』


 やっぱりそういうことか。

 俺とお兄さんが共通認識しているのは、あの少年が俺達のようなプレイヤースキルを持ち合わせていないということ。


 プレイヤースキルっていうのは、戦闘センスなんて言われたりもする。

 なにもチートの類ではない。

 様々な経験や勘を頼りに、相手の攻撃を読んで回避したり反撃したり立ち回ったりすることだ。

 システム外スキル、なんて言い方もある。


 それを知っているからこそ、わかることがある。

 基本的に弓を扱うようなプレイヤーっていうのは、遠距離武器であるからと初心者に好まれる傾向にあるが、逆に玄人や俗に言う変態にも好まれる。

 そして、そういった彼らの立ち回り方には、ほとんど一貫して、中間距離から飛び出して近距離または俺ら前衛と同じ至近距離で戦う。


 お姉さんはそれを知っているかわからないが、俺とお兄さんはそれに気づいた。


『なあ少年、現実のダンジョンではどれぐらい動けるんだ? おっと悪い。返信するなと言ってたのにな。すまんすまん』


 その言葉を最後に、お兄さんは俺の方に振り返ってニカッと笑った。


 このお兄さん、コミュニケーションの達人か?

 もしも最前線のライバル同士じゃなければ、こんな人がリーダーのパーティに所属したかったな。


「そろそろだぞみんな。最後に言っておくが、撤退の指示は俺が出す。いいな?」

「大丈夫です」

「問題なしなし」

「別にそれでいいんじゃないかな」

「じゃあ、最前線の実力を思う存分に発揮するぞ」


 この感覚、久しぶりだな。

 現実のダンジョンではほとんど味わうことができない高揚感。


 俺は今、これから始まるボス攻略に物凄く興奮してる。

 だってボスだぜボス!

 ゲーマーだったらわくわくするだろ!?

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