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二話 探偵の魔法実演

「んじゃ行ってくるわ」


 ボタンに話を聞き終えたラロックは、早速ボタンの住む世界へ向かおうとする。


「ラロックちゃん、一人で大丈夫?」


 仕事内容は浮気調査、なぜだか男が嫌いらしいティネケを連れていくと調査対象がお亡くなりになってしまう。


「一人でやらせてくれ、頼むから!」


「熱心な新人じゃのう」


 局長ヤギについて来てと言ってみたが「神があまり関与してはならんのじゃよ」と断られてしまった。じゃあなんでこの仕事してんだよ、と言いたかったがそこはこらえたラロック。


「あの……大丈夫でしょうか?」


 ボタンが不安げに尋ねるのも仕方がない


「ラロックよ、いきなり胸ぐらを掴んで問い詰めるのは辞めるのじゃよ」


「しねぇよ!」


「でもぉラロックちゃん乱暴だからぁ」


「ちゃんと乱暴する相手は選んでんだよ!」


 このままでは埒が明かない、そう判断したラロックはボタンを連れてドアを開くのだった。


                 ◆


 探偵局の出入り口のドアは各異界と繋がっている。


 外に出るとそこは、数多の大きな歯車が空を埋め尽くしており、ちぐはぐに並ぶ建物は所々錆びた金属外壁にパイプが蔦のように絡みついていた。


 世界全体が薄暗いのだが、行き交う人々は皆明るい顔をしていた。


「ここがあんたの世界か?」


 ラロックが今しがた出てきた建物を興味深そうに観察しながら尋ねる。


「はい、そうです。ちょうど今は夕方ですね、みんな仕事が終わって家に帰る途中です」


 ボタンはそう言って、行き交人々を眩しそうに見つめる。


「だから全員明るい顔してんだな」


「そうなんです。家に帰れば家族や恋人、大切な人が迎えてくれる。そう思えばみんな自然と表情が明るくなってしまうんです」


「大切な人、ねえ……」


 ラロックは顎に軽く曲げた指を当て目を細める。


「……まあいいか。んじゃあんたの彼んとこに向かうぞ。まだ家には帰って来ねえだろ?」


「はい、ちょうど終わって、帰る準備をしている頃でしょうか?」


「そんじゃ、その職場に行ってから後をつけるか」


 ラロックは軽く言っているが、依頼者であるボタンは不安で一杯だった。


 知らない方がいいのかもしれない。そんなことを思っていた時もあったが、覚悟を決めて依頼したのだ。


「お願いします」


 力強く頷くボタンを見て、ラロックは小さく深呼吸をする。この依頼の結果次第ではボタンがひどく傷つくことになるかもしれない。依頼者であるボタンは覚悟の上だろうがどうしても気にしてしまう。絶対に依頼は遂行できるのだからなおさらだった。


「よし、案内頼む」


 その小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか、ボタンを軽々と背負って屋根へと飛び上がったラロックは魔法で姿を消す。


「あの……目立ってしまうんじゃないですか?」


「心配ねえよ、魔法で姿消してっから。ただの人間にゃぜってえバレねえ」


「魔法、ですか……?」


「この世界にはなかったって言ってたよな。これが魔法の力だよ」


 そう言ったラロックは、人が行き交う道へと飛び降りる。


 そして、歩いている人の目の前で手を振る。


「ちょっと、危ない⁉」


 驚きの声を上げるボタンであったが、すぐにその口を閉ざす。


 ラロックが目の前で手を振っても、歩く人物は本当になにも見えていないのだろう。そのまま前に歩き進む、衝突する直前にラロックが避けたため衝突は免れた。


「大丈夫なんだよなあ。ほら、これが魔法ってやつだ」


 再び屋根の上へ飛び上がったラロックだったが、その姿すらも誰にも注目されていなかった。


「凄い……」


 ボタンは」実際に魔法を目の当たりにして開いた口が塞がらないようだった。


「まあこんな感じで色々できんだよ、これで安心して尾行できるだろ?」


「は、はい」


 かなり身長の低いラロックが、大人のボタンを背負っているというなんともおかしな姿も誰にも見えない。


「あんま遊んでると見失うからな、もう行っていいか?」


 魔法に驚くボタンを見て、嬉し気なラロックが仕事に戻ろうとする。


「あ、はい。あっちです。壁に大きな歯車が付いている工場があるはずです。そこが彼の働く場所です」


 ボタンが指さすのは、歩いて来る人が多い方向だった。


「うっし、しっかり掴まってろよ!」


 方向を確認したラロックは屋根の上を駆け出すのだった。

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