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一話 よくある探偵の仕事

 こじんまりとしたカフェのような店内、四人がけのテーブルで向かい合うのは三人の女性。


「それでぇ、どのようなご要件で?」


 おっとりとした声で向かいの座る女性に尋ねるのはティネケだ。新人のラロックはティネケの隣で黙ってその様子を見ている。


 問いかけられた女性――ボタンは目の前に置かれたお茶に目を落としながら、重い口を開く。


「最近……彼氏の……」


「あらぁ、ゴミ掃除の依頼ねぇ」


「違えだろ⁉️」


 にこやか〜に頬に手を当てるティネケに戦慄の表情でツッコミをいれるラロック。


 依頼人のボタンは冷や汗を垂らしながら、帰ろうかなあ、と既に思い始めていた。


「え……あの……」


「それでお嬢さん、続きを話してくれんかの?」


「は、はい――ってヤギが喋った⁉️」


 見かねてやってきた局長ヤギが二足で立ち上がりテーブルの上に前足を置いてい

る。どうやら話を聞く姿勢だそうだ。


 ボタンが少し落ち着いたのを確認すると、ラロックが問いかける。


「様子がおかしいってのは?」


「はい。今は彼と一緒に住んでいるんですけど、最近……ここ一ヶ月ほど帰りが遅くて。理由を問いかけてもはぐらかされるんです……」


「拷問して聞き出しましょぉ?」


「ティネケは黙っててくんねえかな⁉️」


 涙目になっているボタンをなんとかなだめるラロック。


「んで、なんてはぐらかされんだ?」


「聞かなくていいわよぉラロックちゃん、どうせ浮気でしょうし」


「まだそうと決まったわけじゃねえだろ」


 ここ探偵局だよな? 困っている人の依頼を解決する場所だよな? という疑問をの見込むラロック。


「えっと、彼が遅い時間に帰ってきた時に、どうして遅かったの? って聞いたんです……」


「ならなんて?」


「『う、ううう浮気なんかじゃないよ!』と……開口一番に」


「浮気じゃねえか!」


 スパンっ、とテーブルを叩いたラロックが吠える。


「物に当たったらだめよぉ、ラロックちゃん」


 ティネケが優しくたしなめるがラロックは不服そうな顔をする。


 浮気調査はよくある探偵の仕事だ。だが、これは調査の必要性がないだろう、十中八九浮気だろうと、新人探偵局員のラロックは思う。


「でも、彼のことを信じたくてっ、それでっ」


 泣き出してしまったボタンの言葉を、局長ヤギが引き継いだ。


「この場所を見つけた……じゃな?」


 泣きながらも頭を縦に振るボタン。


「どういう意味だ?」


 ボタンの事情は分かったが、それと同時に分からないこともある。


「説明していなかったかのう?」


「されてねえよ」


 そうじゃなあ、と局長ヤギは呟く。


 ボタンは今、ティネケに慰められて話を聞ける状況ではない。ボタンが落ち着くまで話をしよう、と前置きしてから局長ヤギは語りだす。


「簡単なことじゃよ。この場所へと繋がる扉は困っている人の前に現れる。ただ現れるのじゃが、見つけられるかどうかは別なんじゃよ」


「困っていても、自分から動かねえ限りここには来れねえってことか?」


「そういうことじゃの。困り事の大小関係なく自ら動く者しかここには辿り着けんのじゃ」


 ラロックがそうであったように、と局長ヤギは締めくくる。


 軽く顔を顰めたラロックがボタンの方を見てみると、ある程度落ち着きを取り戻したようだ、これならば話しが続けられそうだな、と判断。


「んで、結局あたしらはどうしたらいいんだ?」


 話の流れからやることは分かっているが、大事なのは依頼者の意思だ。


 ボタンは深呼吸しながら、ゆっくりと力強く声を発する。


「彼が……彼が浮気していないかを、調査してください!」


 初めは瞳が揺れていたが、言い切る頃にはその瞳はまっすぐラロックを見つめていた。


「わあったよ、そんじゃ詳しい話聞かせてくれ、行動パターンとか」


 こうして新人探偵局員ラロックの最初の仕事が始まるのだった。

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