やがて望夏が元のように、ハンカチから顔を上げた。何事もなかったと言わんばかりに、ひまわりに似た笑顔を浮かべている。
「へへ、ごめんなさい。辻合先生と筧二さんの掛け合いを聞いていたら、なんだかうらやましくて。何かあるんじゃないかと疑っちゃいました」
もっと気兼ねなくしゃべれる関係を、私も目指せばいいんですよね。そう語って自身を励まし、望夏はより笑みを深める。
筧二は差し出されたハンカチを机に置き、その手で彼女の手首を握った。
「―――望夏。もっと、近くに」
熱に浮かされているような気分のまま言って、筧二は細身のブラウスの背中ごと腕の中に引き寄せた。
「あっ……」
彼女は一瞬眉を跳ね上げ、唇をわずかに開いた。頬を染め、素直に筧二の目の前に立つ。
筧二はチラと部屋の奥、天井の角に設置された防犯カメラに目をやった。今いる金庫の前だと画角に入ってしまう。
――こっちへ。
かすれた声を掛け、床のカーペットにくずれ落ちるように、ゆっくりとデスクの影へと倒れ込んだ。
「け、筧二さ」
顔を上げた望夏の頬をやさしく捕まえ、唇にそっとキスを落とす。
数秒後、筧二は唇を離した。彼女の目を見て伝える。
「君が安心できるなら、何度でも、こんな風にしたいと思う」
じゃあ、と望夏が口走る。
「あと100回くらい」
筧二はさすがに照れ臭くなって、口元に拳を当てゴホッと咳をした。しかし気合いを入れ直す。熱い息を吐いて、笑った。
「望むところだ」