うまくいく組み合わせ――
身振り手振りから豪快なせいかにそう明言されて、筧二はあからさまにギクッと背すじを震わせた。咳き込んで誤魔化そうとするも、時既に遅し。
横に並んだせいかが肩に腕を回してきて、筧二と共に後ろを向いた。
「どしたの。狼狽する要素、あった?」
「狼狽? まさか。してない、してない」
(早くもお前に見抜かれたんじゃないかと、心配してるんだよ)
宮下部に、望夏との仲を吹聴しないよう頼んだあとだから、余計に慎重になる。
せいかはどこまで勘付いているのかわからないが「怪しィな~」と、意地悪く言う。
「組み合わせって。男と女の意味じゃなく、弁護士と事務員としての、って話だからね」
「も、もちろん俺も同じ認識でいる」
「安城。御蔭は我が一課誇る勝利の女神なんだから。2人きりの職場で、ふしだらなことなんかしてないでしょうね――」
「当たり前だろ!」
と成り行き上、粋がってはみたものの。
筧二は息をつき、幾分冷静な気持ちでメガネのブリッジを上げた。
「……ただまぁなんだ。ひとりの女性として失礼のないよう、扱いたいとは思ってるよ」
独白を聞いたせいかが「――ねえ安城、今のってどういう――」などと口走るより、ほんの少し早く――
「あの~……お二人とも仲が良かったんですね。知りませんでした」
筧二たちの背後でためらいがちに、望夏が口を開いた。
「仲? いや、そんな、極めて普通さ」
あわてて筧二は横にいるせいかと距離を置く。せいか自身も、ハハハハと大口を開けて笑い飛ばした。
「仲良く見えた? コレとはねェ、実は大学のゼミからの腐れ縁なんよ」
「因縁の間違いだろ辻合。辞書を引け」
筧二は素早く訂正を求めた。しかしどこかほのぼのと、望夏が「ああなるほど、法学部で一緒だったんですか」と相槌をうった。
せいかが話を続ける。
「司法試験クリアした年がお互いバラバラだったし、安城は別のとこで働いてたから同期入社でもないんだけどね。かつては机を並べて共に学んだ間柄ってわけさ」
望夏がまた感心したように、初耳です~! と、頷いた。せいかの笑顔が満足気により深まる。
「じゃ、そういうことで。今日も元気ハツラツ働こうね。――安城」
さっと手を振り去ろうとした彼女が、筧二の肩口を掴んだ。なんだよ、と振り払おうとした矢先、
「事務員を雇用してる立場だろうと勘違いは困るからね。御蔭の補佐を必要としてる弁護士はたくさんいるの。くれぐれも、公私混合しないように」
耳元で鋭く、ささやかれる。筧二は金縛りを経験しているかの如く、全身が動かせなくなった。表情を失っている間に、せいかは颯爽と敷地を後にしていた。「先生……先生!」
すぐ脇から望夏の呼ぶ声で、我に返る。筧二は平然を装って「スマン」と詫びた。
「君を迎えに来たんだった。行こう、始業の時間だ」
特に会話もなく、2人でオフィスまで引き返してゆく。燦々と光が降り注いでいたはずの上空は、わずかな時間に雲が増え曇天に変わっていた。