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食事会3.

 望夏ははっとした顔つきになり、何度か瞬きを繰り返した。そして、息を呑む仕草を見せたあと、筧二に対してしっかりと頷いた。

 了解の返事と見なし、筧二は1つ咳払いをする。


「僕……いや俺は見ての通り、特に女性の機微には不慣れな点が多い。かつ勢いまかせに始まった関係で、御蔭くんには不安もたくさん与えていると思う」

 でも、だから、だからこそ。

「俺にはまだ、力強く君の手を取る資格がない。ならば、恋人から始めたいんだ。もちろん結婚を前提として」

 望夏との絆を築くために、恋愛の初歩から歩んでいきたいと願っていた。

 勉強に費やし、失った青春を取り戻したいといった、ぬかるんだ焦りに支配されているわけではない。

(そもそも俺が選ばれなければ、意味がないけれど)

 今後もきっと、失態を見せるであろう自分に、応えてくれると言うのなら。筧二も望夏を全力で大事にしたいのだ。

 望夏は話の内容を咀嚼するように、淡々と尋ねた。

「恋人から始める、って。たとえば、どんな風に?」

「この前は、ふいに筧二先生と言われて、面食らってしまったけれど……会社の外では、名前で呼び合うようにしていきたい」

「呼んでみて」

「望夏」

 筧二の心臓は痛いほど高鳴っていたが、初の呼び捨ては言った本人の耳にも、心地良く響いた。望夏の瞳が心なしか輝く。

「もう1回」

「望夏」


 つまり、と、彼女は切り出す。

「会社の外で呼び合うってことは、退勤後か、休日のデートでって意味ですよね」

 筧二は首がもげるかと思うくらい、激しく頷き返した。

「私、仕事中にうっかり、口に出さないよう注意しないと。よろしくお願いしますね、筧二さん」

 さっそくさらりと名前を呼んで、望夏は表情をゆるめた。対照的に、面食らって息を呑む筧二。

「私のことはずっと『御蔭くん』って、苗字でばかり呼んでくるんだもの。名前なんてこれっぽっちも、覚えてくれてないんだと思ってました」

「いいいいい、いいや、それはない!」

(あきれるほど毎日、頭の中でシミュレーションしてきたさ!)

 社内では規律を守りたい性格と、照れくささがまさって、呼びたくても呼べなかった。

「なんかいいなぁ、先生……ううん、筧二さんって律儀で。あの夜もそうでした」

「あの夜?」

「私たちがキスした夜ですよ」


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