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第五十九話

「この辺り、間違いなく図面と一致します。しかし、妙だと私は思います」

 廊下を進んでいる最中、リーゼが提言した。

「リネーハ大図書館のインフラとして、この糸の通路が整備されたのであれば、私達はリネーハ大図書館内に付随している地図から把握できたはずです」

「そうだね。それに図書館にしっかりとかけられていた『治安』の術も気になる。ただかけられているだけならまだしも、二年間誰も術の維持をしてる様子もないのに、こんながちがちにかかっているのは変だ。どうあってもこの先の部屋に、部外者は立ち入ってほしくないと、そう言ってるように見える」

「それだけ重要なものが見つかればいいんですがね」

 廊下を抜けた先、管理人の部屋だったのだろうか、私室らしき造りをしていた。

「なんというか――何の変哲もない部屋だね。埃塗れで、日当たりもないけど」

「図書館に住んでたのかな、昔の管理人さんは。おかしな話だね」

 パラレルスは、言いながら家具を手当たり次第、探り始める。まるで家探しのようだ。

「図書館に住むとは相当な本好きと見えます。本が尽くすべきはそのような人かと」

「リーゼ、主観がほとんどの感想喋るなら黙ってて」

 改めて見渡しても、普通の寝泊りができそうな部屋、という以上のことはない。

「家だったら確かに鍵をかける。確かにそうする。でも、こんな手の込んだ仕掛けを作る意味はないよね。それに、なんでこのインフラが今も機能してるのは訳が分からないな」

 この部屋の調査は一人いれば十分だろう。しばらくぼーっと警戒を続けていると、パラレルスが何かごそごそとクローゼットの中を探り始めた。

「パラ。糸職人姉妹だからって服まで漁らなくてもいいんじゃない?」

「いや、それが――なんかここ、妙なんだよ――」

 パラレルスの身体は小さく、この大振りなクローゼットの中に埋まってしまいそうだった。まだ私がレーチヤに居たころ、クローゼットを使って隠れる遊びをよくしていた。それも服がたくさんかかった物が好ましい。そうすると、一度開いた程度では見つからないと言った寸法だ。

 こうやって背の低いパラレルスがクローゼットに対峙すると、あの方法はとても有用だったんじゃないかと思える。間違いなく、身体を完全に埋め込んでしまえる。ただ問題なのは、このクローゼットが埃っぽく、パラレルスが服を探るほどに、糸くずだとかが舞っていくのだ。

「それにしても、私もなにか妙だと思います」

「主観まみれじゃないなら聞いてあげるけど」

「今回は事実に基づいた推測なのですが、この大図書館の造り――なんか、変というか」

「私室がある時点で変だとは思うんだけど」

「ええ。でもそれは違和感じゃないんですよね。図面と照らしても問題ないのに」

「なんだか、はっきりしないね。あんたらしくない」

「なんでしょう。私もそう思っています。ただただ重要なことに気づいていないような――」

 私の目の端で金色の糸がきらりと漂っていった――。

 金色の――糸――?

「パラレルス! 離れて!」

 そう声を荒げたのは、リーゼであった。私は驚いたが、その言葉を伝えようと口を開いた。

「パラ――!」

 クローゼットの方を向いて、彼女を呼ぼうとした。

 だが、そこにはすでにパラレルスはいなかった。

 急いでクローゼットの中を見たが、最初見た通り、何の変哲もない。埃が舞い、ただ服が大量に掛けられているだけ。

「ナナ! 今パラレルスがどうなったか見てた!?」

「わ、私にはいきなり消えたようにしか見えなかったです――」

「リーゼ――今、何があったかわかったのか?」

 手元の彼女は少し言いよどんだ。

「わからないです――ただ――嫌な予感がしたんです――ぞわっと昇ってくるような――メルン、パラレルスが危ないです、そんな気がするんです。絶対に追わなければ――!」

 クローゼットを探ると、その奥に金色に光る糸が見えた。間違いない。さっき移動に使った糸と同じものだ。だが、パラレルスは詠唱をしていない。それ以前に気づいていたのなら、知らせてくれたはずだ。それが彼女に出来なかったということは――。

「メルン! 私から願いは取り出せませんか! 私は――私は――!」

 リーゼから青い欠片が浮かび上がってくる。死に瀕した訳でもないのに、ひどく強い願い。どうして生命ある本が、こんな力の願いを、この場面で出せるのか、理由を考えている時間はない。

「炎は導、煙は本質――」

 ――私は――私は――失えない――私の――。

「あなたの想いが、あなたを救わんことを――」

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