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23.それでも私、このお仕事続けます。


 「だりぃな、七回も審査されんのかよ」



 シュンタさんはたかむらに“宣告”を受けてからは次第に落ち着き、だいぶ表情も柔らかくなった。素直じゃないところもあるけれど。



 今、応接スペースで十王の裁きについて説明し終えたところだ。



 「俺、アコに出会う前、相当やらかしちゃっててさ。やっぱ地獄行きになんのかな?」



 ガシガシと頭をかくシュンタさん。



 「それは十王次第ですが……。基本的に、ちゃんと人間のことを考えてくれてる方々ですよ。ちょっと怖い思いもするかもしれないけど」



 研修を思い出しながらお伝えすると、シュンタさんは「へえー」と感心したような顔をする。



 「転生先によっては、生まれ変わる前に俗世の方々に会える機会もあります。お盆とかね」



 「そか。遠いとこまで来ちまったんだな、俺は」



 しんみりとした空気が流れた。お盆に会えると言ったって、実体あるものとして帰れるワケじゃない。シュンタさんも、それを分かっているのだろう。



 「十王ブラザーズは全員信じられないほどのイケメンです。一見の価値はありますよ」



 研修の情報を披露すると、シュンタさんは「なに言ってんだよ」とケラケラ笑った。



 「……世話んなったな」



 笑いが途切れたところで真面目なトーンになる。



 「事故現場に行ってくれたんだろ?」



 シュンタさんが気遣わしげに私の足元を指差した。



 ビジネススーツは所々ほつれ、パンプスには泥が。すねには血が滲んでいるけれど。



 「見た目ほどひどくないんですよ」



 「突き飛ばしたりして悪かった」



 私が答える傍から、シュンタさんは頭を下げる。



 「気にしないでください」



 私の未熟さが招いたことだ。それが原因でシュンタさんを混乱させてしまった。




 「アコのこと、よろしく頼む」




 私を真っ直ぐに見るシュンタさんの目に、光るものがある。



 「お任せください」



 私は、その願いを真っ直ぐに受け止めた──。




 ◇



 初七日まで、シュンタさんはこの空間で待機することになる。同じく待機中のおばあちゃんのグループと仲良くなったようだ。



 輪の中心で、一生懸命おばあちゃんを笑わせるシュンタさん。それでも。



 「ごめんな、アコ。怖い思いさせちまって……」



 一人で夢枕のブースに立つ彼の横顔は、とても寂しそうだった。



 ヤンチャなところもあるけど、とても純粋で優しい人。彼が心配するような地獄行きにはならないだろう。初盆には、きっとアコさんの元へ……。



 冥界には、誰が来てもおかしくない。



 冥界ここには万に一つも間違いはなく、足を踏み入れた者はもれなく小野篁おののたかむらの宣告を受ける。



 俗世へ帰れるか否かは、彼が持つ羽扇次第──。



 「篁さま」



 篁は、珍しく自席に座らず畳敷きの空間を歩いて回っている。



 「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」



 「フン」



 私が頭を下げると、篁はいつもの調子で言った。



 「わざわざ舞い戻るとは物好きな奴だ」



 本当は逃げたかった。シュンタさんに死を告げに戻るのが怖かった。でも。



 「私、お仕事続けようと思います。篁さまの後を継げるように」



 自分の役割を見つけたから。



 「勝手にいたせ」



 そう言った時にはもう、篁は背を向けている。



 私の役割。

 人の思いを繋ぐ──。



 でも、今だけ。

 篁の大きな背中に走り寄った。




 「うわああぁぁん!!」




 今だけ。ほんの少しだけ。

 背中を貸してほしい。



 そうしたら、悲しい運命にも向き合えるようになるから。

 引き離された二人の思いを、繋げるから……。






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