「だりぃな、七回も審査されんのかよ」
シュンタさんは
今、応接スペースで十王の裁きについて説明し終えたところだ。
「俺、アコに出会う前、相当やらかしちゃっててさ。やっぱ地獄行きになんのかな?」
ガシガシと頭をかくシュンタさん。
「それは十王次第ですが……。基本的に、ちゃんと人間のことを考えてくれてる方々ですよ。ちょっと怖い思いもするかもしれないけど」
研修を思い出しながらお伝えすると、シュンタさんは「へえー」と感心したような顔をする。
「転生先によっては、生まれ変わる前に俗世の方々に会える機会もあります。お盆とかね」
「そか。遠いとこまで来ちまったんだな、俺は」
しんみりとした空気が流れた。お盆に会えると言ったって、実体あるものとして帰れるワケじゃない。シュンタさんも、それを分かっているのだろう。
「十王ブラザーズは全員信じられないほどのイケメンです。一見の価値はありますよ」
研修の情報を披露すると、シュンタさんは「なに言ってんだよ」とケラケラ笑った。
「……世話んなったな」
笑いが途切れたところで真面目なトーンになる。
「事故現場に行ってくれたんだろ?」
シュンタさんが気遣わしげに私の足元を指差した。
ビジネススーツは所々ほつれ、パンプスには泥が。
「見た目ほどひどくないんですよ」
「突き飛ばしたりして悪かった」
私が答える傍から、シュンタさんは頭を下げる。
「気にしないでください」
私の未熟さが招いたことだ。それが原因でシュンタさんを混乱させてしまった。
「アコのこと、よろしく頼む」
私を真っ直ぐに見るシュンタさんの目に、光るものがある。
「お任せください」
私は、その願いを真っ直ぐに受け止めた──。
◇
初七日まで、シュンタさんはこの空間で待機することになる。同じく待機中のおばあちゃんのグループと仲良くなったようだ。
輪の中心で、一生懸命おばあちゃんを笑わせるシュンタさん。それでも。
「ごめんな、アコ。怖い思いさせちまって……」
一人で夢枕のブースに立つ彼の横顔は、とても寂しそうだった。
ヤンチャなところもあるけど、とても純粋で優しい人。彼が心配するような地獄行きにはならないだろう。初盆には、きっとアコさんの元へ……。
冥界には、誰が来てもおかしくない。
俗世へ帰れるか否かは、彼が持つ羽扇次第──。
「篁さま」
篁は、珍しく自席に座らず畳敷きの空間を歩いて回っている。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「フン」
私が頭を下げると、篁はいつもの調子で言った。
「わざわざ舞い戻るとは物好きな奴だ」
本当は逃げたかった。シュンタさんに死を告げに戻るのが怖かった。でも。
「私、お仕事続けようと思います。篁さまの後を継げるように」
自分の役割を見つけたから。
「勝手にいたせ」
そう言った時にはもう、篁は背を向けている。
私の役割。
人の思いを繋ぐ──。
でも、今だけ。
篁の大きな背中に走り寄った。
「うわああぁぁん!!」
今だけ。ほんの少しだけ。
背中を貸してほしい。
そうしたら、悲しい運命にも向き合えるようになるから。
引き離された二人の思いを、繋げるから……。