そうだ。私、確かに言った。
この人に「大丈夫だから」って。
──阿呆が。
知らなかった。安請け合いをしたつもりはなかった。
……言い訳だ。
私は怖かった。
生命力にあふれ、ひたすら真っ直ぐに誰かを愛する若者。そんな彼の、死の宣告に立ち合うことが。
「俺はまだ、こんなとこに来るわけにいかねえ! アコと一緒になるんだよ!」
俗世では流れなかった涙が頬を伝った。痛みを感じないはずの冥界なのに、ものすごく胸が痛い。
「どうしてくれんだ!!」
シュンタさんが拳を振り上げる。
「その辺にしておけ」
いつの間にか、シュンタさんと私の間に篁が立っていた。大きな背中を見上げる。
どうして庇うの? そのまま殴られた方がマシだった。阿呆って言われた方が。
「そなたの
「なにがサダメだ! そんなもん認めてたまるか!」
シュンタさんが、振り上げた拳で篁に殴りかかる。篁は、それを軽く受け止めた。
「このままでは悪霊化する」
篁の手の中で、シュンタさんの拳は力を失っていく。
「クソッ! どうすりゃいいんだよ、分かんねえよ……!」
シュンタさんは篁の足元に泣き崩れた。
「そなたも聞いておけ」
篁が身体の向きを反転させる。涼しい横顔はいつもと変わらない。
「
篁は、肩を震わせて嗚咽を漏らすシュンタさんの傍らに跪いた。
「せめて、そなたらしくあれ」
分からないといった表情のシュンタさんに向かって、篁は続ける。
「
「アコが知ってる……俺……?」
シュンタさんは、涙に濡れたままの顔を上げた。
「そなたの心残りは何だ?」
「アコの、幸せだけだよ」
篁は大きく頷いた。そして、羽扇で私を指し示す。
「この者、見ての通りの阿呆であるが……
戸惑っているシュンタさんに向かって、私はしっかりと頷いてみせる。もう、目は
「心は決まったか」
静かに問う篁に、シュンタさんは「はい」と応じた。
篁がゆっくりと羽扇を翳す。シュンタさんが大きく一つ、深呼吸する。
「よう励んだな」
篁の声音が、少し柔らかくなったような気がした。シュンタさんが目を閉じる。
目の前が滲んだ。
しっかり見届けるんだ。
冥界の案内人として。
「大往生であるぞ」
篁が羽扇を振った──。