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22.まだまだ未熟でした。


 そうだ。私、確かに言った。

 この人に「大丈夫だから」って。



 ──阿呆が。



 たかむらが言ってた意味がやっと分かった。私が現地へ飛んだところで、運命は変わらないんだ。



 知らなかった。安請け合いをしたつもりはなかった。



 ……言い訳だ。

 私は怖かった。



 生命力にあふれ、ひたすら真っ直ぐに誰かを愛する若者。そんな彼の、死の宣告に立ち合うことが。



 「俺はまだ、こんなとこに来るわけにいかねえ! アコと一緒になるんだよ!」



 俗世では流れなかった涙が頬を伝った。痛みを感じないはずの冥界なのに、ものすごく胸が痛い。



 「どうしてくれんだ!!」



 シュンタさんが拳を振り上げる。



 「その辺にしておけ」



 いつの間にか、シュンタさんと私の間に篁が立っていた。大きな背中を見上げる。



 どうして庇うの? そのまま殴られた方がマシだった。阿呆って言われた方が。



 「そなたの運命さだめと、この者は関係ない」



 「なにがサダメだ! そんなもん認めてたまるか!」



 シュンタさんが、振り上げた拳で篁に殴りかかる。篁は、それを軽く受け止めた。



 「このままでは悪霊化する」



 篁の手の中で、シュンタさんの拳は力を失っていく。



 「クソッ! どうすりゃいいんだよ、分かんねえよ……!」



 シュンタさんは篁の足元に泣き崩れた。



 「そなたも聞いておけ」



 篁が身体の向きを反転させる。涼しい横顔はいつもと変わらない。



 「冥界ここには、万に一つも間違いはない。これは運命さだめである」



 篁は、肩を震わせて嗚咽を漏らすシュンタさんの傍らに跪いた。



 「せめて、そなたらしくあれ」



 分からないといった表情のシュンタさんに向かって、篁は続ける。



 「永遠とわまみえること叶わずとも、俗世に残る者が知る、そなたのままであれ」



 「アコが知ってる……俺……?」



 シュンタさんは、涙に濡れたままの顔を上げた。



 「そなたの心残りは何だ?」



 「アコの、幸せだけだよ」



 篁は大きく頷いた。そして、羽扇で私を指し示す。



 「この者、見ての通りの阿呆であるが……冥界ここと俗世を行き来できる。そなたの願いを聞き、不安を消してくれようぞ」



 戸惑っているシュンタさんに向かって、私はしっかりと頷いてみせる。もう、目はそむけない。



 「心は決まったか」



 静かに問う篁に、シュンタさんは「はい」と応じた。



 篁がゆっくりと羽扇を翳す。シュンタさんが大きく一つ、深呼吸する。



 「よう励んだな」



 篁の声音が、少し柔らかくなったような気がした。シュンタさんが目を閉じる。



 目の前が滲んだ。



 しっかり見届けるんだ。

 冥界の案内人として。




 「大往生であるぞ」




 篁が羽扇を振った──。




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