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21.運命って何ですか?


 救急車が病院に到着した頃には、既にあたりは真っ暗だった。今は白い廊下の向こうで、オペ中のランプが光ってる。



 アコさんも、病院に駆けつけた“シュンちゃん”の家族も。私のことをあまり気にしていないようだ。それどころじゃないのだろう。



 運命よ、変わって。

 私があの場に来たことで、発見が少しでも早まったのなら。



 “シュンちゃん”を助けて。




 アコさんは呆然と座ってる。

 真っ白なワンピースを土と血で汚して。



 「関係者の方、中へ」



 手術着のお医者さんが、深刻な表情で呼びにきた。ぎこちない足取りで、アコさんたちがオペ室に入っていく。



 真っ白な廊下に、何かがチカッと光った。



 「指環ゆびわ……」



 ここに運ばれる時、“シュンちゃん”の衣服から落ちたのだろうか。




 「シュンタ!!」




 耳をつんざくような声にハッとなる。オペ室から漏れる慟哭。




 「シュンちゃん、嘘だよね? ねえ、起きて」




 アコさん……。




 「起きてよおおぉぉっ!!」




 アコさんが放り出していったバッグの傍に、指環を置いた。救急用の出入り口から外へ出る。



 さっきは気がつかなかった。

 山が近い田舎町の夜空には、満天の星。




 ──一緒にいたはずなんだ。



 ──車で展望台に向かっ……




 事故死。




 私、何も分かってなかった。

 冥界には誰が来てもおかしくないんだ。



 あの山の、星降る展望台で。

 渡そうとしてたんだね。



 指環の内側に刻まれた文字は。



 “S to A”



 シュンタから、アコへ──。





 ◇



 「シュンタさん。事故に遭われたことは覚えていますか?」



 冥界。畳敷きの空間の中央で、シュンタさんと向き合った。たかむらは自席に沈み込んでいる。



 「ああ、さっき思い出した。アコはどうなった?」



 「奇跡的に、かすり傷で済んだようです」



 シュンタさんはホーッと長い息を吐いて「良かった」と呟いた。



 「……俺は?」



 目を合わせられない。



 「死んだのか?」



 答えなきゃ。

 伝えなきゃ。



 それが、こんなに辛いなんて──。



 「冗談やめろよぉ。大丈夫なんだろ?」



 シュンタさんがおどけてみせる。

 私は、首を横に振るのがやっとだった。




 「ふざけんなよ!!」




 シュンタさんの怒号が耳を突いた瞬間、私は畳の床に倒れ込んだ。



 一拍遅れて理解した。

 私、突き飛ばされたんだ。




 「あんた、言ったよな? 間違いだって。大丈夫だからってよぉ!!」





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