救急車が病院に到着した頃には、既にあたりは真っ暗だった。今は白い廊下の向こうで、オペ中のランプが光ってる。
アコさんも、病院に駆けつけた“シュンちゃん”の家族も。私のことをあまり気にしていないようだ。それどころじゃないのだろう。
運命よ、変わって。
私があの場に来たことで、発見が少しでも早まったのなら。
“シュンちゃん”を助けて。
アコさんは呆然と座ってる。
真っ白なワンピースを土と血で汚して。
「関係者の方、中へ」
手術着のお医者さんが、深刻な表情で呼びにきた。ぎこちない足取りで、アコさんたちがオペ室に入っていく。
真っ白な廊下に、何かがチカッと光った。
「
ここに運ばれる時、“シュンちゃん”の衣服から落ちたのだろうか。
「シュンタ!!」
耳をつんざくような声にハッとなる。オペ室から漏れる慟哭。
「シュンちゃん、嘘だよね? ねえ、起きて」
アコさん……。
「起きてよおおぉぉっ!!」
アコさんが放り出していったバッグの傍に、指環を置いた。救急用の出入り口から外へ出る。
さっきは気がつかなかった。
山が近い田舎町の夜空には、満天の星。
──一緒にいたはずなんだ。
──車で展望台に向かっ……
事故死。
私、何も分かってなかった。
冥界には誰が来てもおかしくないんだ。
あの山の、星降る展望台で。
渡そうとしてたんだね。
指環の内側に刻まれた文字は。
“S to A”
シュンタから、アコへ──。
◇
「シュンタさん。事故に遭われたことは覚えていますか?」
冥界。畳敷きの空間の中央で、シュンタさんと向き合った。
「ああ、さっき思い出した。アコはどうなった?」
「奇跡的に、かすり傷で済んだようです」
シュンタさんはホーッと長い息を吐いて「良かった」と呟いた。
「……俺は?」
目を合わせられない。
「死んだのか?」
答えなきゃ。
伝えなきゃ。
それが、こんなに辛いなんて──。
「冗談やめろよぉ。大丈夫なんだろ?」
シュンタさんがおどけてみせる。
私は、首を横に振るのがやっとだった。
「ふざけんなよ!!」
シュンタさんの怒号が耳を突いた瞬間、私は畳の床に倒れ込んだ。
一拍遅れて理解した。
私、突き飛ばされたんだ。
「あんた、言ったよな? 間違いだって。大丈夫だからってよぉ!!」