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19.お迎えが来ました。


 「私、お仕事がんばります」



 見つめ返してくれる閻魔さま。なんて素敵なの。私、閻魔さまのためならどんどん残業しちゃう!




 「遅い」




 ふいに背後から声ががかかった。



 「たかむら。わざわざ迎えに来たのかよ」



 閻魔さまは私の方を向いたまま、ゆっくりと手を離す。振り返ると、ソファの背後に立っているのは小野篁おののたかむらであった。



 「どうした? 珍しくイラついてるな」



 篁に見向きもせず足を組み、可笑しげな声を上げる閻魔さま。


 え? 篁っていつもこんな感じじゃなかったっけ?



 「……」



 「分かった、分かった。邪魔者は退散しますよ」



 閻魔さまは、欧米人みたいに手のひらを上に向ける。



 「じゃあね、紗那ちゃん。また様子見に来るから」



 そう言って手を振ると、閻魔さまの姿はパッと消えてしまった。ホント、神出鬼没だなぁ。



 「サボるな」



 一言発すると、篁はスラリとした背をこちらに向けてさっさと歩いていく。



 「研修だって言ったじゃないですか!」



 思わず追いかけて反論した。自分の仕事が増えるからって八つ当たりしないでほしい。



 篁がつと足を止める。

 背中は私に向けたまま。




 「……手を握り合うことがか?」




 見てたわけ?



 そんなの知らない。閻魔さまが勝手にしたことだ。



 「閻魔さまって、誰にでもあんな感じじゃなんじゃないですか?」



 言いながら納得した。獄卒ちゃんともいいムードだったし、タナカにまで「かわいい」って言ってたもの。



 「きっと、サービスしてくれてるんですよ」



 「行くぞ」



 答えずにスタスタ歩き出す篁。



 もー。研修終わったら帰ろうと思ってたのに!




 ◇



 研修を終えてから、二人の迷い人を中央の席へお連れした。冥界の詳細を知る前とは、やはり気分が違う。



 とはいえ、そろそろ定時だ。

 帰ろうかな、と思った矢先。




 「えぇっ!? おい、何なんだよ!?」




 振り向けば、金髪にピアスの男性が尻もちをついている。年齢は私と同じくらいか、もう少し上か……。



 今日、なんか変。

 立て続けに若い人が来てる。



 「大丈夫ですよ」



 男性のそばに駆け寄って声をかける。



 「とりあえず上司のところに……」



 「おい、どうなってんだ!? 助けてくれよ!」



 男性がガシッと私の腕に縋った。



 あれ……?

 おかしい。



 昏倒しただけの人は、身体が透けてて直接触れないはず。さっきのポニーテールの女の人もそうだった。



 なのに。



 この男性、──。





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