「ちょっと長くなったけど、どうだったかな?」
閻魔さまがクルクルと巻き物を片づけていく。
「私……知らないことばかりで」
何だか、頭の中が飽和状態。閻魔さまは「うんうん」と聞いてくれてる。
「あ、そういえば。秦広王さまは、どうしてあんなに怒ってたんですか?」
輪廻はみんなが繰り返すって話だったはず。それでも、いちばん初めの秦広王さまは「もう来るなと言っただろう」って怒ってた……。
「よく覚えてたね」
閻魔さまが目を丸くする。
「それはね。まだ“
「解脱?」
「そう。殺生をせず、煩悩を消せば輪廻の輪から外れることができるんだ。その先が極楽浄土」
閻魔さまは、巻き物を
ため息が出る。
煩悩を消すなんて。
「私にはできそうにないです……」
「どうしたの、急に落ち込んじゃって?」
閻魔さま至近距離から覗き込んでくる。
閻魔さま素敵。
素敵すぎ!
慌てて目をそらす。
「わ、私、煩悩の塊ですもの!」
うわーん!
閻魔相手に。
「そんなこと考えてたの? かわいーね、紗那ちゃんは」
閻魔さまの大きな手が私の頭に触れる。
──ほーら。人間て、かわいいよねぇ。
閻魔さまがタナカにかけてた言葉を思い出して、背筋が冷たくなった。いつもチャラい態度で発してる「かわいい」が、今は全然違う意味合いに感じられる。
身体が氷のように固まっていく。
「いいんだよ。
私の緊張状態を察してか、閻魔さまが優しい声音で言った。
「裁きはパフォーマンスみたいなもんだから」
パフォーマンスなの!?
いや、相当怖かったよ!?
「“解脱”できる方が特殊過ぎなんだよ。なんたって、長い歴史の中で一人しかいないんだから」
「一人だけ?」
「そ。お釈迦様だけ」
そりゃ特殊だわ──。
「でも……恥ずかしいです」
研修の前に浮かれてた自分が情けない。
「私、冥界ってテーマパークみたいって軽く考えてたんです。亡者が転生先の道に入るまで気づかなかった……」
閻魔さまはじっと聞いてくれている。
「亡者の次の人生を左右することなのに。それに……シュミレーションでは短縮されてたけど、亡者が進む道って実際はもっと長いですよね」
「そうだね。裁きと裁きの間隔は七日間だから」
閻魔さまが穏やかに答える。
あの霧の中を。足元に何があるかも分からないのに。
タナカは、すごく過酷な旅をしていたのだ。生きている以上、人は多かれ少なかれ罪を犯している。タナカだけじゃないんだ。
なのに私、タナカを
「素晴らしいよ、紗那ちゃん」
閻魔さまが熱っぽい目で言い、私の手を握った。
「誰にも言われずそれを理解するなんて。やっぱり、キミを冥界に招いてよかった」
超絶イケメン閻魔に見つめられ、手を握られている。
……煩悩万歳!!
私、来世も
※ご注意※
紗那ちゃんが受けた研修内容は「十王信仰」を参考にしました。
本作ではそれを簡略化し、さらに筆者の妄想をゴリゴリに塗りたくっております。
生きるために何かしらの殺生をしたり、さまざまな煩悩のある私たちは、本来はもれなく地獄行き。地獄で責め苦を負ったのち、平等王らが再審してくれるようです。
本作の超絶イケメン閻魔の裁きは激甘でやっております♡