目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
18.反省します。


 「ちょっと長くなったけど、どうだったかな?」



 閻魔さまがクルクルと巻き物を片づけていく。



 「私……知らないことばかりで」



 何だか、頭の中が飽和状態。閻魔さまは「うんうん」と聞いてくれてる。



 「あ、そういえば。秦広王さまは、どうしてあんなに怒ってたんですか?」



 輪廻はみんなが繰り返すって話だったはず。それでも、いちばん初めの秦広王さまは「もう来るなと言っただろう」って怒ってた……。



 「よく覚えてたね」



 閻魔さまが目を丸くする。



 「それはね。まだ“解脱げだつ”できずに輪廻を繰り返してるのかって意味だよ」



 「解脱?」



 「そう。殺生をせず、煩悩を消せば輪廻の輪から外れることができるんだ。その先が極楽浄土」



 閻魔さまは、巻き物をもてあそびながら言う。極楽って、天国みたいなところでしょ?



 ため息が出る。

 煩悩を消すなんて。



 「私にはできそうにないです……」



 「どうしたの、急に落ち込んじゃって?」



 閻魔さま至近距離から覗き込んでくる。



 閻魔さま素敵。

 素敵すぎ!



 慌てて目をそらす。



 「わ、私、煩悩の塊ですもの!」



 うわーん!

 冥界こんなところまで来て煩悩に振り回されるなんて。



 閻魔相手に。



 「そんなこと考えてたの? かわいーね、紗那ちゃんは」



 閻魔さまの大きな手が私の頭に触れる。



 ──ほーら。人間て、かわいいよねぇ。



 閻魔さまがタナカにかけてた言葉を思い出して、背筋が冷たくなった。いつもチャラい態度で発してる「かわいい」が、今は全然違う意味合いに感じられる。



 身体が氷のように固まっていく。



 「いいんだよ。冥界ここのヤツらは、人間の性質をちゃーんと分かってる」



 私の緊張状態を察してか、閻魔さまが優しい声音で言った。



 「裁きはパフォーマンスみたいなもんだから」




 パフォーマンスなの!?

 いや、相当怖かったよ!?




 「“解脱”できる方が特殊過ぎなんだよ。なんたって、長い歴史の中で一人しかいないんだから」



 「一人だけ?」



 「そ。お釈迦様だけ」




 そりゃ特殊だわ──。




 「でも……恥ずかしいです」



 研修の前に浮かれてた自分が情けない。



 「私、冥界ってテーマパークみたいって軽く考えてたんです。亡者が転生先の道に入るまで気づかなかった……」



 閻魔さまはじっと聞いてくれている。



 「亡者の次の人生を左右することなのに。それに……シュミレーションでは短縮されてたけど、亡者が進む道って実際はもっと長いですよね」



 「そうだね。裁きと裁きの間隔は七日間だから」



 閻魔さまが穏やかに答える。



 あの霧の中を。足元に何があるかも分からないのに。



 タナカは、すごく過酷な旅をしていたのだ。生きている以上、人は多かれ少なかれ罪を犯している。タナカだけじゃないんだ。



 なのに私、タナカをけなしながら見てた──。




 「素晴らしいよ、紗那ちゃん」



 閻魔さまが熱っぽい目で言い、私の手を握った。



 「誰にも言われずそれを理解するなんて。やっぱり、キミを冥界に招いてよかった」



 超絶イケメン閻魔に見つめられ、手を握られている。



 ……煩悩万歳!!

 私、来世も冥界ここで働きまっす──!





 ※ご注意※


 紗那ちゃんが受けた研修内容は「十王信仰」を参考にしました。


 本作ではそれを簡略化し、さらに筆者の妄想をゴリゴリに塗りたくっております。


 生きるために何かしらの殺生をしたり、さまざまな煩悩のある私たちは、本来はもれなく地獄行き。地獄で責め苦を負ったのち、平等王らが再審してくれるようです。


 本作の超絶イケメン閻魔の裁きは激甘でやっております♡







コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?