「ほへ……」
「はい、キミの行き先は人間道。ギリだよ? キミ、けっこうエグいことしちゃってたから」
閻魔さまは、腰を抜かすタナカに行き先を告げた。
「は、ははーっ!」
一拍遅れて理解したらしいタナカは、涙を流しながら床に額をこすりつける。
「もう一度、徳を積み直しておいで」
閻魔さまは帳面にスタンプを押すと、タナカに手渡した。
「まだ細かな手続きがあるから、四十九日までは待ってね」
閻魔さまの美しいお顔が霧に煙る。ああ、素敵だったぁ。
霧が晴れたら、そこは草原だった。青空のもと、誰かがレジャーシートを広げて座ってる。
ゆるやかな風に猫っ毛を揺らしながらこちらに手を振るのは、童顔のワンコ系男子だ。かわいい。
【死後四十二日目を担当する
へえ。確かに優しそうだもんね。
狭いレジャーシートに並んで座る変生王さまとタナカ。微妙な光景だけど、一生懸命に話を聞く変生王さまが素敵。
「それは大変でしたね。あなたの事情もよく分かりますよ」
目に涙を溜めるタナカの禿げ頭をぽんぽんしてあげる変生王さま。頬を染めるタナカ。
やめて。
「あなたにだけ特別に教えてあげましょう。向こうに、三つの道が見えるでしょう?」
変生王さまが示す先には、のどかな風景の中に確かに三股に分かれる道が見えた。
「あの道は、どこから行っても極楽浄土に繋がります。行くなら今のうちですよ」
そんな逃げ道あんの!?
“極楽浄土”という言葉に惹かれたのか、タナカが立ち上がる。
「本当に、ええんでしょうか!?」
にっこりと頷く変生王さま。
「恩にきます!」
タナカが走り出すと。
突然雷鳴がとどろき、のどかな風景が一変した。
辺りは暗く、草原はただの砂地に。三つの道も見えない。
「バカが見~る~」
今の……誰?
タナカが振り返ると、そこにはマイルドな笑顔のワンコ系男子はいなかった。目を邪悪に光らせ、人を小馬鹿にするように口角を吊り上げた……これが、変生王さまの本性──。
「アンタさぁ、ボクの前にも裁きを受けてきたんだろ? なのに何も分かってないみたいだね」
鼻から息を吐く変生王さま。かわいく整った顔立ちはそのままなのに、当初の優しさは皆無だ。
「ホントに反省してるなら、こういうのは慎むべきでしょ」
上げて落とすタイプ!
「じゃ、書いとくね。引っかかりましたよ、と」
帳面にペンを走らせる変生王さま。周囲は再び霧が立ち込める。
ああ、怖かった。初めからブチ切れてる秦広王さまの方がずっとマシに思えてくるよ……。
霧が薄らいでくると、また何か見えてきた。室内みたい。ここ……病院の、診察室?