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14.冥界のトップがお出ましです。


 インディアン・レッドのドレープカーテンを開くと、クラブのボックス席が現れた。



 オレンジ色の淡い照明のもと、カーテンと同色のベルベット調のソファが、低いテーブルを囲むように緩く円を描いている。



 「疲れた……」



 タナカがソファに座り込む。

 すると。



 「ご指名ありがとうございます。閻魔です」



 斜向はすむかいに閻魔さまが腰掛けていた。



 きゃあ、素敵。やはり顔の美しさはたかむらと一、二を争う。



 【はーい、死後三十五日目。閻魔王ね。誰も指名してねーけどな】



 ナレーション投げやりだなぁ。

 閻魔さまは冥界のトップだよ?



 「いけめん、ちゅうやつじゃのぅ……」



 ほうけるタナカ。



 「キミかわいいね」



 やめて、閻魔さま!

 ジジイ相手に何を言うの!?



 「そ、そんなに見つめんでくれ」



 照れるタナカ。



 【何の時間だ?】



 そうよ、何の時間なの!?



 「フフ。照れてる顔もかわいいよ。ほら、鏡を見てごらん」



 閻魔さまが懐から手鏡を取り出す。



 あ、これはいつもの。閻魔さまがご自分のイケメン度を確かめてる……。



 【出たっ、浄玻璃じょうはりの鏡!】



 え?



 閻魔さまがタナカに鏡を向ける。そこに映ったのは、今の老いたタナカではなかった。周囲を窺いながら、花柄のハンカチの香りを嗅ぐ少年。



 これってもしかして……生前のタナカの姿──?



 封筒からお金を抜き取り、パチンコ屋へ向かうタナカ。


 浮気相手①を口説くタナカ。

 浮気相手②と事に及ぶタナカ。

 浮気相手③の足にすがるタナカ……。



 閻魔さまの鏡は、いろんなタナカを映し出す。



 「た、頼む! やめてくれぇ」



 悶えるタナカ。



 そうだね。こんなの振り返りたくないよね……。



 【こちらの鏡は水晶でできており、亡者の生前の行いをくまなく映し出まーす】



 イケメン度をチェックする鏡じゃなかったんだ。



 【元は巨大な鏡だったため閻魔庁に置かれていましたが、時代を経てこんなにコンパクトになりました~】



 こんなにコンパクトにしちゃっていいの!?




 「ほーら。人間て、かわいいよねぇ」




 閻魔さまがゆっくりと言葉を継いだ。



 ゾッとした。いつものチャラい閻魔さまじゃない。目が笑っていないのだ。



 タナカを見ながら散々けなしてきたけど、私だってやらかした過去はある。嘘だって何度もついてる。亡者になって鏡を見せられた時、私は冷静でいられるだろうか。



 タナカを見てて分かった。何か後ろ暗い行動に出る時の人間の顔。すごく狡そうで悪そうで。


 申し訳なさそうで。


 人って、あんなに複雑な顔するんだ──。



 「お許しください、お許しください!」



 タナカはソファから飛び降りて閻魔さまの足元にひれ伏し、すすり泣く。



 「わしが愚かだった。ずっと後悔しとったんですじゃ……」



 タナカ……。ずっと罪の意識を感じてたんだ。



 「ふーん。分かっていながらやってしまう」



 閻魔さまがゆっくりとタナカの傍にしゃがんだ。



 「しょーがない存在だね、人間ていうのは」



 タナカのあごに手を添え、上を向かせる。



 やだーっ!!

 あごクイ!




 「フッ……泣き顔もかわいいね」



 とろけたような表情のタナカ。




 やめてーっ!!



 【お゛ェェッ!!】



 ナレーション!

 気を確かに!



 「さあ。おふざけはここまでだ」



 閻魔さまがソファに座り直す。



 「これから、キミの転生先を決めるよ」





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