濃い霧の中に、何か浮かび上がった。
撮影スタジオに似てる。
大きな三角のテーブルに、向かい合わせで椅子が二脚。そこだけにスポットライトが当たっている。
「ようこそ、五官の館へ」
突然、人が現れた。テーブルにもたれてこちらを見つめている。
茶髪の毛先を多方向に遊ばせた塩顔のイケメンだ。袖を少し折り曲げた黒シャツに細身のデニムパンツ、素足にローファー。
「今度は何じゃ……」
不安そうに呟くタナカ。
【死後二十八日目、
五官王さまは椅子の一つに座ると、「どうぞ」とタナカを促した。テーブルに肘をつき、顔の前で手を組んでタナカに鋭い視線を向ける。
「あなた、嘘をついていませんか?」
タナカに問いかける五官王さま。
いけ好かない感じだと思ってたけどやっぱりイケメン。腕に浮いてる筋が素敵。
「う、嘘などついとらんです」
そんなこと言ったらマズいんじゃないの?
「黒目が左右に揺れてる。これは嘘をついている証拠だ」
五官王さまに指摘され、慌てて目を逸らすタナカ。
「利き手と同じ側を見るってことは何か言い訳を考えていますね」
メンタリスト系!
「も、もうやめてくれーっ!」
タナカは辛そうに両手で顔を覆った。
「いいのかなぁ。手の動きとかでも色々バレますよ」
このイヤな感じ、嫌いじゃない!
私も手のひらで踊らされてみたい!
「あなたがこれまで犯してきた悪事の裏には必ず嘘があるはずだ」
五官王さまが目を細める。
そーだよ、タナカ。浮気してる時とか、奥さんにたくさん嘘ついたんじゃないの?
「セット、オープン!」
五官王さまがパチンと指を鳴らすと、後ろの壁が倒れた。
「な、何じゃこれはぁ」
タナカが椅子から転げ落ちる。壁の後ろには、理科の実験なんかで使う“
の、超巨大バージョンが鎮座していた。
一つの上皿に、大人が十人は軽く乗れそうな大きさだ。片方の上皿には巨大な
【おーっと! ヤバいことになってまいりました!】
ナレーションは完全に面白がっちゃってる。
五官王さまがタナカを指差した。するとタナカは宙に浮き、フヨフヨと空いた上皿へ……。すると、とんでもないことが起こった。
上皿に乗ったタナカ。老いた痩せぎすの身体が、巨大な分銅を軽々と押し上げた──。
天秤の傾きは逆転。タナカの上皿が下、巨大分銅が乗った上皿は遥か上だ。
「これが、あなたの嘘の重さだ」
五官王さまが帳面を突きつける。タナカが声もなく
あー、五官王さまも見えなくなっちゃった。素敵だったのに。
なんか、嘘つくの怖くなってきちゃったなぁ。
それにしても長い研修だ。
いつまで続くんだろ。
「次は俺の出番だよ」
閻魔さまの声で我に返る。
そうよ。
裁きといえば閻魔さまだ。
楽しみになってきた!