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13.いつまで続くんですか?


 濃い霧の中に、何か浮かび上がった。

 撮影スタジオに似てる。



 大きな三角のテーブルに、向かい合わせで椅子が二脚。そこだけにスポットライトが当たっている。



 「ようこそ、五官の館へ」



 突然、人が現れた。テーブルにもたれてこちらを見つめている。



 茶髪の毛先を多方向に遊ばせた塩顔のイケメンだ。袖を少し折り曲げた黒シャツに細身のデニムパンツ、素足にローファー。



 「今度は何じゃ……」



 不安そうに呟くタナカ。



 【死後二十八日目、五官王ごかんおうです。主に妄言、嘘について裁きます】



 五官王さまは椅子の一つに座ると、「どうぞ」とタナカを促した。テーブルに肘をつき、顔の前で手を組んでタナカに鋭い視線を向ける。



 「あなた、嘘をついていませんか?」



 タナカに問いかける五官王さま。



 いけ好かない感じだと思ってたけどやっぱりイケメン。腕に浮いてる筋が素敵。



 「う、嘘などついとらんです」



 そんなこと言ったらマズいんじゃないの?



 「黒目が左右に揺れてる。これは嘘をついている証拠だ」



 五官王さまに指摘され、慌てて目を逸らすタナカ。



 「利き手と同じ側を見るってことは何か言い訳を考えていますね」



 メンタリスト系!




 「も、もうやめてくれーっ!」



 タナカは辛そうに両手で顔を覆った。



 「いいのかなぁ。手の動きとかでも色々バレますよ」



 このイヤな感じ、嫌いじゃない!

 私も手のひらで踊らされてみたい!



 「あなたがこれまで犯してきた悪事の裏には必ず嘘があるはずだ」



 五官王さまが目を細める。



 そーだよ、タナカ。浮気してる時とか、奥さんにたくさん嘘ついたんじゃないの?



 「セット、オープン!」



 五官王さまがパチンと指を鳴らすと、後ろの壁が倒れた。



 「な、何じゃこれはぁ」



 タナカが椅子から転げ落ちる。壁の後ろには、理科の実験なんかで使う“上皿天秤うわざらてんびん”。



 の、超巨大バージョンが鎮座していた。



 一つの上皿に、大人が十人は軽く乗れそうな大きさだ。片方の上皿には巨大な分銅ふんどうが乗っており、天秤は極端に傾いている。




 【おーっと! ヤバいことになってまいりました!】




 ナレーションは完全に面白がっちゃってる。



 五官王さまがタナカを指差した。するとタナカは宙に浮き、フヨフヨと空いた上皿へ……。すると、とんでもないことが起こった。




 上皿に乗ったタナカ。老いた痩せぎすの身体が、巨大な分銅を軽々と押し上げた──。



 天秤の傾きは逆転。タナカの上皿が下、巨大分銅が乗った上皿は遥か上だ。



 「これが、あなたの嘘の重さだ」



 五官王さまが帳面を突きつける。タナカが声もなくうずくまったところで、辺りはまた霧に包まれ始めた。



 あー、五官王さまも見えなくなっちゃった。素敵だったのに。



 なんか、嘘つくの怖くなってきちゃったなぁ。



 それにしても長い研修だ。

 いつまで続くんだろ。



 「次は俺の出番だよ」



 閻魔さまの声で我に返る。



 そうよ。

 裁きといえば閻魔さまだ。



 楽しみになってきた!





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