タナカさんがテント入り口の布をかき分けると、中は真っ赤な薔薇で埋め尽くされていた。
手前に大きな水晶玉を乗せた台。
その後ろで、誰かがソファに座っている。
アラビアの踊り子さんみたいな装束を纏った超美人が、絹糸のような銀髪をくゆらせながら微笑んでいる。
装束はテントと同じ瑠璃色。ピンク色の蛇を首飾りのように巻きつけ、膝の上では影みたいに真っ黒な猫が背を丸めている。その姿は、とても神秘的だ。
この美しいお方が
【鼻の下を伸ばす亡者・タナカであります】
真面目にやりなよ、タナカさん!
宋帝王さまは何も言わない。
膝の上の黒猫がストンと地に足を下ろし、しゃなりしゃなりと薔薇の間を進む。タナカさんの周りをぐるりと回ると、宋帝王さまの膝に戻って「にゃっ」と一声。すると。
「やだァ~。あんたも好きねぇ~」
ニカッと大口を開ける宋帝王さま。まさかの酒やけ声とオネエ言葉!
【宋帝王は
何も入ってこない!
宋帝王さまは可笑しそうに続ける。
「アンタ九歳の頃、初恋のミヨちゃんのハンカチ盗ったわね? たまに取り出して匂いを嗅いでた」
「ぐわぁ」と頭を抱えるタナカさん。
超黒歴史。
散々だな。
「さらに、大人になってからは3回も浮気してる!」
おい、タナカ!!
「相手を引き止めるためにめっちゃ貢いだわね。も~、性欲丸出しぃ~」
地獄に堕ちろ、タナカ!
「うわあぁ、お許しをぉーっ!」
泣きながら薔薇の中にひれ伏すタナカ。
奥さんに謝れ。
「結局はフラれたみたいね。まったくおバカなんだからぁ~」
もっと言ってやってください!
宋帝王さまは黒猫に運ばせた帳面を一瞥すると、そこにムギュッと唇を押し付けた。帳面には綺麗なキスマークが。
宋帝王さまが手を離すと、帳面はフワフワと漂ってタナカの手元に……その瞬間、辺りはまた霧で覆われた。