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12.予想外でした。


 タナカさんがテント入り口の布をかき分けると、中は真っ赤な薔薇で埋め尽くされていた。



 手前に大きな水晶玉を乗せた台。

 その後ろで、誰かがソファに座っている。



 アラビアの踊り子さんみたいな装束を纏った超美人が、絹糸のような銀髪をくゆらせながら微笑んでいる。



 装束はテントと同じ瑠璃色。ピンク色の蛇を首飾りのように巻きつけ、膝の上では影みたいに真っ黒な猫が背を丸めている。その姿は、とても神秘的だ。



 この美しいお方が宋帝王そうていおうさま?



 【鼻の下を伸ばす亡者・タナカであります】



 真面目にやりなよ、タナカさん!



 宋帝王さまは何も言わない。


 膝の上の黒猫がストンと地に足を下ろし、しゃなりしゃなりと薔薇の間を進む。タナカさんの周りをぐるりと回ると、宋帝王さまの膝に戻って「にゃっ」と一声。すると。



 「やだァ~。あんたも好きねぇ~」



 ニカッと大口を開ける宋帝王さま。まさかの酒やけ声とオネエ言葉!



 【宋帝王は邪淫じゃいんの罪、つまり性に関する裁きを行います。ちなみに、亡者が女性の場合は蛇が寄ってきますよ】



 何も入ってこない!



 宋帝王さまは可笑しそうに続ける。



 「アンタ九歳の頃、初恋のミヨちゃんのハンカチ盗ったわね? たまに取り出して匂いを嗅いでた」



 「ぐわぁ」と頭を抱えるタナカさん。



 超黒歴史。

 散々だな。



 「さらに、大人になってからは3回も浮気してる!」



 おい、タナカ!!



 「相手を引き止めるためにめっちゃ貢いだわね。も~、性欲丸出しぃ~」



 地獄に堕ちろ、タナカ!



 「うわあぁ、お許しをぉーっ!」



 泣きながら薔薇の中にひれ伏すタナカ。

 奥さんに謝れ。



 「結局はフラれたみたいね。まったくおバカなんだからぁ~」



 もっと言ってやってください!



 宋帝王さまは黒猫に運ばせた帳面を一瞥すると、そこにムギュッと唇を押し付けた。帳面には綺麗なキスマークが。



 宋帝王さまが手を離すと、帳面はフワフワと漂ってタナカの手元に……その瞬間、辺りはまた霧で覆われた。






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