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9.出だしから怖いです。


 「もう来るなって、あれだけ言っただろうがよ!」



 これ、もしかして秦広王しんこうおう? 怒り狂ってるみたいだけど。



 小麦色の肌。ウルフカットを鮮やかなグリーンに染めて……いや地毛?


 半裸に、白のラインが入った赤ジャージ。勾玉みたいな形の重そうな耳飾りをつけてる。耳たぶちぎれない?


 俗世にいたら絶対近づきたくないんだけど……。やだ~、よく見ればワイルド系のイケメンじゃない! 趣味の悪さがもったいないなぁ。



 鍛え上げられた身体も素敵!

 目のやり場に困っちゃう。



 【こちら、初七日に裁きを行う秦広王です】



 あ、やっぱり。



 【困惑する亡者・タナカ。それもそのはず。彼はここに来るのが初めてで、なぜ怒られるのさっぱり分かりません】



 確かに。



 【まぁそれについては、のちほど】



 気になるなぁ。



 「まったく」



 秦広王さまは毛皮が敷かれた岩の上にどっかりと胡座あぐらをかき、ロープの束を手に取った。傍らでは、赤い火がパチパチと音を立てながら不穏に揺らいでいる。



 怖い。タナカさんも震え上がってるじゃん。



 「で。テメェ、俗世で“殺し”はしてねえだろうな?」



 「ととと、とんでもない! そんなことしとりゃしませんですじゃーっ!」



 タナカさんは、地べたに額をこすりつける。



 「あぁん!?」



 秦広王さまがやおら立ち上がった。タナカさんの頭を無理やり起こさせると、ロープを首にグリグリと押しつける。



 「ぎえぇ」



 タナカさーん!



 「テメェは、蚊その他の虫を数え切れねーほど殺してる。それに、その歳まで生きてたんなら肉と魚をたんまり食ってるだろうが。あぁ?」



 自分が生きるための殺生もダメなの?



 厳しい。っていうか、知ってるのにあえて質問するなんて意地悪すぎるでしょ。



 【亡者・タナカにメンチを切る秦広王であります】



 なんてガラの悪い王なの。



 「ヒイィ、お許しを」



 【亡者・タナカ、半泣きであります】



 やめてあげて。



 「まあいい。ここでの裁きは終了だ」



 秦広王さまはタナカさんの首根っこを掴むと、どかっと木の板に乗せた。



 「とっとと行きやがれ。もう来るんじゃねえぞ!」



 秦広王さまバンとタナカさんの背中を叩くと、木の板が猛スピードで滑り出す。




 「ヒ──!! お助けをーっ!」






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