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5.就職できたみたいです。


 たかむらに憎まれ口を叩かれても、閻魔さまはカラカラと笑っている。



 「なんかこの人、部下の割に態度悪いですよね」



 だって、篁は閻魔さまに仕える立場だったワケでしょ?



 「分かる? こいつ酷いんだよ! 生きてる時からこんな感じ!」



 閻魔さまが同情を求めるように前のめりになる。



 調べたところによれば篁って、お上に対してもひるまなかったらしいもんね。俗世も冥界も関係なく、己を通してきたのだろう。



 「軽薄な奴め。さっさと要件を済ませ」



 篁が横目で閻魔さまを睨む。



 「はいはい。もー怖いな、篁ちゃんは」



 閻魔さまが肩をすくめ、私に向き直る。





 「というワケで、緑川紗那ちゃん。キミを、小野篁の後継者に指名しま~す」





 え……。

 今、チャラい態度で凄いこと言わなかった?




 「えええぇっ!?」



 「あれ? 篁から聞いてない?」



 閻魔さまが不思議そうな顔をする。



 「聞いてないっ!」



 「言った」



 はあぁ〜??


 隣を見遣れば、篁は涼しい顔で耳を掘っている。



 あ。



 もしかして、病室の枕元でなんか言ってたアレのこと!?




 「あんな言い方で分かるかっ!?」



 説明不足が過ぎる!



 「あ~、そういうのって、なんか篁っぽいよね~」



 閻魔さまが呑気に笑い、篁はうるさそうにそっぽを向く。



 「まあ、後継者と言っても当分は二人で仕事してもらうから」



 閻魔さまは、ここでスッと真顔になった。やっぱりこの世のものとは思えないイケメン度。



 「時代の移り変わりと共に亡者の方々も変わってきてる。裁く側の力量が問われるんだよ」



 経営者みたいなこと言ってる。



 「冥界もアップデートが必要なんだ」



 閻魔がスーツ姿ってことは、これまでもアップデートを繰り返したんだろうな。足を組み、瞳を野心でギラつかせるセクシー閻魔。




 「紗那ちゃん。現代を生きながら冥界に来られるキミは、我々にとって貴重な人材なんだよ」




 ドキッとしたのはイケメンに熱っぽい目で見つめられたから、だけじゃない。




 【緑川様の今後のご活躍を──】




 通算百通の“お祈りメール”が頭をよぎる。



 冥界なんて、ホントは怖い。でも。



 型に嵌めた言葉じゃなく、閻魔さまは心から私の能力を買ってくれているように思えた。



 「それとも、もう就職決まっちゃったかな?」



 閻魔さまがしょんぼりと肩を落とす。

 篁が鼻で笑った。



 「フ。聞くまでもない」



 「忙しいわ!」と返せないのが辛いところだ。




 「あの……お給料ってもらえるんですか?」




 恐る恐る聞いてみる。



 「その点なら心配ないよ」



 閻魔さまがパアッと笑顔になった。



 「俺を祀ってる寺社はけっこう多いんだ。その中に“第一閻魔神社”(※)ってとこがあってね」



 その第一閻魔神社の神主の家系は代々特殊な力を持っており、閻魔さまと交信することが可能だという。



 「給料はそこから出そう。初めはそんなにたくさん払えないけど」



 そ、そんな神社があるんだ。お給料出してもらうなんて申し訳ない……助かるけど。



 金銭面の問題も、あっさりクリアしてしまった──。




 「決まりだね」




 私の様子を見ていた閻魔さまが手を差し出す。

 躊躇ためらいつつ膝から手を浮かせると、グッと引き寄せられる。



 超絶イケメン閻魔と握手してしまった。

 大きくてあたたかい、閻魔さまの手。




 「フン。せいぜい励むことだな」




 ふんぞり返ったままの篁。

 直属の上司には難ありか。



 でも、とりあえず。




 就職が決まった。




 (※)架空の神社です。




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