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4.続・えらいところに来ちゃいました。


 「……ってワケで、俗世と冥界を行き来できるのは紗那ちゃんで二人目なんだ」



 延々と続く畳敷きの空間を少し行ったところにある応接セットに案内された。



 ターコイズブルーの布が掛けられたソファ。布の端には房がついている。



 分厚い一枚板のテーブルを挟んで、私は閻魔さまの話を聞いているところだ。



 平安の頃、小野篁おののたかむらが冥界と俗世を行き来して閻魔さまに仕えていたという伝説は事実だった。



 その人物が目の前にいるなんてにわかには信じ難い。当の本人は、閻魔さまの隣にふんぞり返ってテーブルに足を投げ出している。



 「あの事故がきっかけで能力が目覚めたみたいだね」



 トラックとの接触事故……。



 閻魔さまは膝の上で手をくみ、思いを巡らす私をじっと見つめて言った。



 「事故のはずみで冥界と繋がる道ができたんだ。その鞄に」



 ゴクリと唾を飲み込む。



 閻魔さまが指差す鞄。

 就活に使ってた鞄。



 今も私の隣に置いてあるけど、なんか直視できない。



 「篁は井戸を通って来てたけど、便利な時代になったよね。鞄さえ持ち歩いてたら、いつでも冥界こっちに来られる」



 閻魔さまはそこで一息つくと、背もたれに上半身を預けた。

 そこへ、




 「あるじ、失礼致します」




 カフェエプロン姿の女の人が、黒色のマグカップを持って立っている。



 血の気を失ったように青みがかった肌。

 でも、それを差し引いても綺麗な人だ。

 パープルの艶ある髪を腰まで伸ばしたスレンダー美人。



 自分がパジャマ姿であることを改めて恥じた。



 スレンダー美人が腰を屈め、閻魔さまの手にマグカップを渡す。

 そこで、私は見た。



 綺麗な髪の間から、髪色と同じパープルの角が一本生えている。




 (さすが冥界……)




 ボタンを二つほど外したブラウスから、スレンダーな割に豊かなバストがチラ見えしてる。胸ポケットにつけたネームプレートには、



 “獄卒ごくそつ”と──。



 「ああ、いつもありがとう」



 閻魔さまが片手を上げて流し目を送ると、獄卒ちゃんはポッと頬を赤らめて走り去った。



 これ、ほんとに夢じゃないのかしら。

 思わず頬をつねってグリグリ回す。



 「何をしておるか、阿呆あほう



 久方ぶりに聞いた声に反応すれば、ふんぞり返った篁が目だけこちらに向けている。



 ほんと愛想ないし、人のことをバカにした態度だよね。……顔は綺麗だけど。



 「閻魔さま。その飲み物、何ですか?」



 私は篁を華麗にスルーし、閻魔さまに話しかけた。閻魔さまは質問には答えず、ニヤリと笑ってカップをこちらに傾ける。



 突如、青緑色の炎が上がった。迫り来る熱波。



 「な、何!?」



 背けた顔を恐る恐る元に戻せば、カップの中でマグマのような赤黒い液体がうごめいている。何も力を加えてないのに、ドロドロと波打っているのだ。



 閻魔さまが無言でカップをあおる。

 上下する喉仏がセクシー。



 謎の液体を飲み干し、満足そうに息をついた閻魔さまはペロリの口の周りを舐めた。



 「フフ。これは煮やした銅さ」




 何を煮やしたって?




 「俺って、冥界のリーダーとして超たくさんの亡者の皆さんを裁いてるじゃん?」



 閻魔さまは、悩ましげに眉間に指を置く。っていうか、そのマグカップ何製?



 「その罪深さから、いつもコレ飲まされてて。大変なんだ、喉と内臓がただれちゃって」




 怖い。




 「でも逆に、この感じにハマっちゃってね」



 目がイッちゃってる。



 「相変わらず悪趣味な奴だ」



 篁が目を閉じたまま呆れたような声を出す。




 二人とも普通の男の人に見えるけど、やっぱり違うんだ。俗世の常識とかけ離れているのは美貌だけじゃない……。




 ほんと、えらいところに来ちゃったよ──。





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