あおむけに倒れた。なのに全然痛くない。そして、目に映る光景に驚愕した。
一面、
雲、だよね?
こんなの、日本画とかでしか見たことがない。
「そういえば私、鞄に……」
鞄に手を入れたら引っ張られたんだ。
ゆっくりと体を起こせば、うろうろと動き回るたくさんの人たちが目に入った。お年寄りが多いみたい。迷ったようにキョロキョロしていたり、畳に寝転がったりしている。
床一面の畳は一枚一枚が大きい。畳の縁は漆黒に金の細かな刺繍が入っていて。それが遥か彼方まで連なっている。部屋の終わりが見えない。
「あっ」
少し離れたところに私の鞄が落ちている。慌てて拾い上げた時、自分がパジャマ姿であるということを思い出した。
「マズったなぁ」
こんな格好で見知らぬ場所に来ちゃったなんて。
改めて辺りを見回すと、朱色の立派な柱が等間隔に並んでいる。それらは垂れ込める雲に突き刺さるように高く伸びていた。
「遅い」
いきなり背後から声がかかり、ビクッとなってしまう。
「ああッ!
そこにいたのは、病院に現れたのと同じ人物。真紅の着物を着流した男が立っていたのだった。
「礼儀を知らぬ奴め。指を差すな」
小野篁は、不快そうに切れ長の目を吊り上げる。そこへ、
「その辺にしとけよ、
耳に心地良いバリトンボイス。小野篁の肩に手を掛け、姿を現したのは──。
「キミが緑川紗那ちゃんだね。冥界へようこそ」
全身黒のスーツで決めたホスト系。篁の肩に寄りかかって手を振っている。いつの間に出てきたんだろう。
「え……綺っ麗……」
思わず声が漏れちゃうほど整った顔面。おまけに、常に目を吊り上げている篁とは対照的にとっても気さくな感じだ。
篁がうんざりしたように腕組みした。
「閻魔か。仕事はどうした」
「
その人は篁に寄りかかったまま、懐から手鏡を取り出した。角度を変えながら自分の姿をチェック。
そして視線をこちら戻すと、
「リーダーの閻魔でーす。一応、こいつの上司ね」
親指で篁を指す。
私はといえば、その妖艶な目力に魅せられて開いた口が塞がらない。
ミディアムに流したダークブラウンの髪と同じ色の瞳。カッコ良すぎ! 少しチャラいけど。
……っていうか。
「ええぇっ! 閻魔ぁっ!?」
これが!?
あの、嘘ついたら舌を引っこ抜かれるっていう……。
閻魔さま!?
「ぶふっ! 口がアワアワしちゃってるじゃーん。紗那ちゃんはかわいーねぇ」
閻魔が破顔した。