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3.えらいところに来ちゃいました。


 あおむけに倒れた。なのに全然痛くない。そして、目に映る光景に驚愕した。



 一面、黄金こがね色の雲がもくもくと垂れ込めている。



 雲、だよね?

 こんなの、日本画とかでしか見たことがない。



 「そういえば私、鞄に……」



 鞄に手を入れたら引っ張られたんだ。



 ゆっくりと体を起こせば、うろうろと動き回るたくさんの人たちが目に入った。お年寄りが多いみたい。迷ったようにキョロキョロしていたり、畳に寝転がったりしている。



 床一面の畳は一枚一枚が大きい。畳の縁は漆黒に金の細かな刺繍が入っていて。それが遥か彼方まで連なっている。部屋の終わりが見えない。



 「あっ」



 少し離れたところに私の鞄が落ちている。慌てて拾い上げた時、自分がパジャマ姿であるということを思い出した。



 「マズったなぁ」



 こんな格好で見知らぬ場所に来ちゃったなんて。



 改めて辺りを見回すと、朱色の立派な柱が等間隔に並んでいる。それらは垂れ込める雲に突き刺さるように高く伸びていた。





 「遅い」





 いきなり背後から声がかかり、ビクッとなってしまう。





 「ああッ! 小野篁おののたかむら!」



 そこにいたのは、病院に現れたのと同じ人物。真紅の着物を着流した男が立っていたのだった。



 「礼儀を知らぬ奴め。指を差すな」



 小野篁は、不快そうに切れ長の目を吊り上げる。そこへ、



 「その辺にしとけよ、たかむら。面白そうなコじゃん」



 耳に心地良いバリトンボイス。小野篁の肩に手を掛け、姿を現したのは──。



 「キミが緑川紗那ちゃんだね。冥界へようこそ」



 全身黒のスーツで決めたホスト系。篁の肩に寄りかかって手を振っている。いつの間に出てきたんだろう。



 「え……綺っ麗……」



 思わず声が漏れちゃうほど整った顔面。おまけに、常に目を吊り上げている篁とは対照的にとっても気さくな感じだ。



 篁がうんざりしたように腕組みした。



 「閻魔か。仕事はどうした」



 「秦広王しんこうおうに説教しに行ったついで。どんなコか見たくてさ」



 その人は篁に寄りかかったまま、懐から手鏡を取り出した。角度を変えながら自分の姿をチェック。


 そして視線をこちら戻すと、



 「リーダーの閻魔でーす。一応、こいつの上司ね」



 親指で篁を指す。



 私はといえば、その妖艶な目力に魅せられて開いた口が塞がらない。


 ミディアムに流したダークブラウンの髪と同じ色の瞳。カッコ良すぎ! 少しチャラいけど。




 ……っていうか。




 「ええぇっ! 閻魔ぁっ!?」




 これが!?

 あの、嘘ついたら舌を引っこ抜かれるっていう……。




 閻魔さま!?




 「ぶふっ! 口がアワアワしちゃってるじゃーん。紗那ちゃんはかわいーねぇ」



 閻魔が破顔した。






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