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5・得たもの

 ある日の晴天の朝。

 身支度を終えたヒトリが、宿屋から出て来た。


「ん~……! ……さてと……」


 大きくひと伸びをした後、彼女は冒険者ギルドに向かって歩き始めた。




「ヒトリさん、おはようございます」


 声をかけられ、ヒトリが立ち止まる。

 城下町を見回っているメレディスだ。


「あっ……お、おはようございます……」


「その姿、今日から復帰ですか?」


「あっ……は、はい……そのつもりで……」


「おい! メレディス! 何をしている! 早くこんか!」


 2人の会話に、少し離れた場所にいたガガーが大声を上げて割って入って来た。


「あっ、はい! 今行きます! まったく……【影】の襲撃以降、ずっとあんな感じで気合入れっぱなしなんですよ。別に悪い事じゃないですけど、こっちまで肩の力が入っちゃって大変なんですよね……」


 メレディスはうんざりした顔を見せる。


「メレディス!」


「わかってますって! はぁ……それじゃあ行きますね。ヒトリさんもお気をつけて」


 メレディスは小さく手を上げ、ガガーの元へと走って行った。


「あっ……はい……また……」


 その姿にヒトリは苦笑いをし、歩き始めた。




「よう、あれから魔石の調子はどうだ?」


「おはようございます」


 朝市を通りがかると、買い物に来ていたアルヴィンとカラが声をかけて来た。

 ヒトリは立ち止まり、小さくお辞儀をする。


「あっ……お、おはようございます……お、おかげさまで……何ともないです……」


「そっか、なら良かった。もし魔石の調子が悪くなったら、いつでも言ってくれよな」


「あっ……は、はい……わかり…………?」


 ヒトリが視線を感じ、カラの方を見る。

 カラはヒトリの顔をじっと見つめていた。


「……あ、あの……ボ、ボクの顔に、何かついて……って、ふえっ!?」


 突然カラがヒトリの右手を取り、自分の胸元にある魔石に押しつけた。


「………………魔力の流れ、消費量に異常無し。嘘はついていないようです」


 そう言うと、ヒトリの手を離しす。


「え? カラって、そんな事がわかるのか?」


「はい。言っていませんでしたか?」


「聞いてねぇよ! そんな便利な機能があるのなら、もっと早く言ってほしかったっての! こうしちゃいられない、ゴアゴ博士の研究所に行くぞ!」


「今からでございますか?」


「その能力があれば、やれる事がかなり増えるからな! ヒトリさん、またな!」


「では、失礼します」


 カラはアルヴィンに手を引っ張られ、人混みの中に消えて行った。

 残されたヒトリは呆気にとられた後、気を取り直し歩き始めた。




「わっ!?」


 歩いていたヒトリの顔に、突然何かが覆いかぶさった。


「なっなに!? なに!?」


 ヒトリは慌てふためきながら、顔に覆いかぶさったものを引っぺがした。

 それはよく知るレッドワイバーンの赤ちゃんだった。


「……え? シェリー?」


『ピィ!』


 シェリーが元気よく返事をする。


「すみません! ヒトリさん」


 シェリーの後追いかけて、トーマが走って来る。


「突然飛んで行ったと思ったら、何しているんだ」


 トーマはシェリーを受けとり、自分の右肩へと乗せた。


「まったく……ミシェルみたいに、わんぱくな奴だな。あ、その格好……もう体の方は良いんですか?」


「あっ……はい……」


「それは良かった。俺達も今日発つんです」


「あっ……つ、次は何処に?」


「満月の夜に咲く、月美花を見に行きます」


「月美花……ですか……み、見れるといいですね」


「はい! それでは、また!」


『ピィ!』


「あっ……はい……また……」


 トーマは軽く頭を下げ、歩いて行った。

 ヒトリもトーマと逆の道を歩き始めた。




「ヒトリさン! おはようございまス!」


「……よう」


 納品に来ていたサクとハナに話しかけられ、ヒトリは足を止める。


「あっ……お、おはようございます……あれ? えと、今日はサクさんと一緒……なんですね……」


「今日はじゃなくて、今日も、なんでス。【影】の件から、毎回ついて来るようになったんですヨ」


「あっ……そ、そうなんですか」


「……当たり前だ。また何が起きるかわからんしな」


 サクが大顎をカタカタと鳴らす。


「もう心配性だナ~。あっそうだ、新しい解毒のポーションが完成したので、使ったら使用感をギルドに報告して頂けますカ?」


「あっ……はい……わかりました」


「よろしくお願いしまス。それじゃあサク、行コ!」


 ハナがサクの右手を握った。


「……ああ。またな」


 サクも握り返し、2人は歩いて行った。


「あっ……はい……また……」


 まるで親子の様だ、そう思いつつヒトリは歩き始めた。




「お、ヒトリじゃねぇか」


「今からギルドに行くのかい?」


 薄汚れたフランクとシーラと鉢合わせし、ヒトリが足を止める。


「あっ……えと、そうですけど……お、お2人は今帰り……ですか?」


「ああ、徹夜したからな。宿に戻って一眠りするところだ」


「今回は中々いい稼ぎになったんだ。また夜にでも……って、ヒトリはそういうのは苦手だったねぇ」


 シーラの言葉にヒトリが少し悩み、恐る恐る口を開いた。


「あっ……あの……その……じ、時間が合えば……ご一緒しても……いいですか……?」


「「えっ!?」」


 予想外の返答にフランクとシーラが驚き、お互いの顔を見合う。

 そして同時に頷いた。


「もちろんだ! なら、さっさと寝ないとな!」


「だねぇ。引き留めて悪かったね、それじゃっ」


 ヒトリの右肩をフランクが、左肩をシーラがポンポンと軽く叩いて宿屋へと戻って行った。


「あっ……はい……」


 ヒトリは口角を少し上げつつ、歩き始めた。




「あっヒトリさん、ごきげんようですわ」


「おはようございます。ヒトリ殿」


 武具屋の前を通りかかると、パロマとフロイツに声をかけられてヒトリの足が止まった。


「あっ……お、おはようございます……こ、こんな所でどうしたんですか?」


「将来、冒険者になった時に身に付ける、わたくしの防具を品定めしていましたの」


「チャック様がご用意した、一式があるんですが……」


「あんな金ぴかの武具なんてつけれませんわ! 悪趣味すぎますわよ!」


「との事で、拒否されました……チャック様は泣いておられましたよ」


 フロイツが肩をすくめた。


「お父様の話はもういいですから、その話はこれでおしまい! さっこの店に入りますわよ。では、ヒトリさん、ごきげんよう」


 パロマが武具屋の中へと入って行った。


「やれやれ…………もしかしたら、またお世話になるかもしれませんので、その時はよろしくお願い致します」


 フランクは一礼をし、パロマの後を追いかけて店の中へと入って行った。


「……またか……下水じゃないといいな……」


 ヒトリは苦笑をしつつ、歩き始めた。




「わっ!」


「きゃっ!」


 ギルドの中から外に飛び出して来たユウとヒトリがぶつかってしまう。


「ご、ごめんなさい! ヒトリさん」


 ユウがヒトリに頭を下げた。


「もうーユウったら……すみません、ヒトリさん」


 シュウもギルドの中から外へと出て来た。


「あっ……いえ、気にせずに……と、ところで、どうしたんですか? そんなに慌てて……」


「ツバメさんが、護衛の依頼を紹介してくれたんです! しかも、成功すればランクアップを考えても良いって言ってくれたんですよ!」


 ユウが目を輝かせながら嬉しそうに答えた。


「で、その依頼者がもうすぐ出発するらしいので……」


「あっ……そ、それで急いでいたんですか……」


「です。けどさユウ、飛行魔法で行けばすぐにつくじゃん」


「何言っているの、自分の足で行くから焦っているんじゃない」


「はあ?」


 ユウの言葉にシュウが目を丸くした。


「楽は厳禁よ! そもそも、今から魔力を使っちゃってどうするのよ」


「走って体力を消耗する方が効率悪い様な……」


「…………と、とにかく! グダグダ言ってないで行くわよ! それじゃあ行ってきます!」


 ユウがシュウの首根っこを掴み、駆け出した。


「ちょっ! わかった! わかったから手を離してぇええええ!」


 シュウの叫びがどんどんと遠くなっていく。

 双子の姿が消えたのち、ヒトリはギルドの扉に手を置き、ゆっくりと開けた。

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