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2・決戦

「そ……んな……どうして……?」


 目の前の信じられない光景に、戦闘中にもかかわらずヒトリは茫然としてしまう。


「ん? そんなに驚く事か? 【影】のメンバーってのは、身近に存在する……それは知り合いかもしれないし、家族かもしれない……オレ様以外の冒険者も何人がメンバーなんだろうなぁ?」


 アッシュは額から流れてきた血を拭いながら、ケタケタと笑う。


「つかよ、驚きなら――」


 アッシュが踏み込み、一気にヒトリの懐まで入り込みブロードソードを振り下ろした。

 一瞬反応に遅れてしまったヒトリは、右手のナイフで受け止めて鍔迫り合い状態になる。


「オレ様もなんだぜ? なにせジョーカーが生きていた事に加え、そのジョーカーがヒトリちゃんなんだもんな……ギルドでお前を見ても、全く、一切、微塵もそんな事は思わなかったぜ」


 アッシュはジリジリとヒトリを押し込む。

 ヒトリも負けじと、体全体に力を入れた。


「もっと早く、お前の戦い方を見とけばよかったぜ!!」


 アッシュがヒトリの顔めがけて右足を上げた。

 その一瞬、鍔迫り合いの均衡が崩れ、ヒトリはブロードソードの刃を受け流した。

 そして、サッとしゃがんでアッシュの蹴りを避け、立ち上がると同時にナイフを振り上げた。


「チッ!」


 アッシュはナイフを紙一重でかわし、ヒトリとの距離をとった。

 ヒトリはアッシュに向かって、小型ナイフを投げつける。


「っ流石に、同じ手は通用しないぜ!」


 アッシュは小型ナイフをかわし、的を絞らせないように玉座の間を目まぐるしく動いた。


「……っ!」


 このままでは小型ナイフを投げても当たらないと判断したヒトリは、息を整え冷静にアッシュの姿を目で追いかけた。


「……………………そこっ!」


 ヒトリが1本の柱に向かって、小型ナイフを投げつける。

 丁度その瞬間、アッシュが柱の前に着地した。


「っおいおい! マジかよ!」


 とっさに体を捻り、小型ナイフを回避するアッシュ。

 だが小型ナイフの後ろには、もう1本の小型ナイフではなくヒトリの姿があった。

 ヒトリはバランスを崩しているアッシュの脇腹にナイフを突き立てる。


「ぐっ! ――痛ってねぇな!」


 アッシュはヒトリの右腕を掴み、体を回してヒトリを柱へとぶつける。


「がはっ!」


 叩きつけられた衝撃で、握っていたナイフの手が緩んでしまう。

 アッシュは腕を掴んだままもう1度体を回して勢いをつけ、壁に向かってヒトリを投げ飛ばした。

 受け身が取れず、ヒトリは壁に激突しそのまま床へと倒れ込む。


「いてて……やってくれたな……」


 アッシュは脇腹に刺さったナイフを抜きな、道具袋の中に手を入れる。


「…………しまったな。最後の1本じゃないか」


 1本の治癒ポーションを取り出し、一気に飲み干した。

 脇腹の傷がみるみると塞がって行く。


「ふう……いつも、冒険者割引があるギルドで補充してたからな。ここ数日忙しくて、顔を出さなかったのが失敗だったぜ」


「……事を……」


 倒れているヒトリの声が聞こえ、アッシュが顔を向ける。


「ん? なんだって?」


「……ど……どうして、こんな事を……?」


 ヒトリも道具袋から治癒ポーションを取り出し、口へと運ぶ。

 その行為を止めようとせず、アッシュが話しを始める。


「どうしてって、お前は知っているだろ? オレはいつかこの国の王になる男だ! だからキングと呼べ! って、言ったじゃないか。それが今日ってわけだ」


 治癒ポーションを飲み終えたヒトリが、ヨロヨロと立ち上がる。


「どうだい、ヒトリちゃ……いやジョーカー。今からでも【影】に戻ってくる気はないか? やっぱり、その力を失うのが惜しくなったぜ」


「……お、お断りします。ボクはジョーカーじゃなくて……ヒトリですから!」


 ヒトリは両手にナイフを持ち、強く握りしめる。

 その姿を見たアッシュは、残念そうに肩を落とした。


「そうか……なら、降りかかる火の粉は払うのみだ!」


 ブロードソードを構え直し、ヒトリに向かって突進するアッシュ。

 ヒトリはそれを迎え撃つ。


「お前も大した女だが、ツバメちゃんも相当だ! 何せ、オレ様に見向きもしなかったんだからな!」


 アッシュが斬りこみ、ヒトリが避けて反撃をする。


「あれだけ粘着していれば! そうなりますよ!」


 ヒトリの突きを、アッシュは刃で受け止める。


「情報収集の為だ! そりゃあ粘着もするさっ!」


 受け止めたナイフを弾き、懐へと飛び込む。

 ヒトリは真横に飛び、柱を駆け上がった。


「だが! あの目、間違いなくオレ様に対して疑惑を持っていた!」


 アッシュがヒトリの後を追いかけ、同様に柱を駆け上る。

 2人は空中で剣を打ち合いながら床へと着地した。


「流石にキングとまでは思わないだろうが、【影】の1人かもとは思っていたかもなっ!」


 床を走り、壁を走り、柱を走る。

 どんな足場だろうと、体勢だろうと、傷つき血が流れても2人は打ち合い続けた。


「はぁ……はぁ…………うっ!」


 ヒトリのまぶたが急に重たくなり、一瞬ふらついてしまう。

 そこを狙い、アッシュがヒトリの腹部を蹴り飛ばした。


「がはっ!」


 吹き飛んだヒトリが柱に激突する。


「……うぐっ……ここに来て……」


 柱で体を支えながら、ヒトリがゆっくりと立ち上がる。


「ぜぇ……ぜぇ……ようやくおねんねタイムか? 全力だと1分くらいしか持たなかったのに……恐ろしい奴め」


「……」


 もうこれ以上、戦えないと悟ったヒトリは仮面を外して床へと置いた。


「……降参……って、わけでもなさそうだな」


 アッシュの言う通り、降参の為に仮面を外したわけではない。

 ヒトリは長い前髪をかき分けて両耳にかけ、滅多に見れない顔を現す。

 そして、目をそらさず真紅の瞳でアッシュ……キングをジッと見つめた。


「キング!! 1人の冒険者として、あなたの野望は絶対に止めます!!」


 そう叫ぶと、身を低くして構えをとった。

 ヒトリの姿を見たアッシュが口角を上げる。


「いいだろう! 止められるものなら止めてみな! このEランク冒険者がよおおおおおお!!」


 にらみ合うヒトリとキング。

 2人の戦いに決着の時が迫る。

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