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9・クイーンとの決着

 ミノタウロスに破壊された壁の穴を通り、メレディスが後追いかける。


「……いたっ!」


 城の中央にある庭園の前で、メレディスの足が止まる。

 ミノタウロスが何故か庭園の中で暴れていた。


「だ~か~ら~! さっさと進みなさいってば~!」


 クイーンの言葉を無視し、両手を振り回して花壇やグリフォンの彫刻が置かれている噴水を手あたりしだいに破壊している。


「あ~も~! 何でこんな所に赤い花なんて咲いているのよ~!」


 庭園で咲いていた、赤い花の花びらが辺り一面に宙を舞っている。

 ミノタウロスは、そのヒラヒラと舞う花びらに対して攻撃している様だった。


「……あ~……なるほどね……」


 それを見たメレディスは、納得と同時に好機だと剣を構えた。

 そして、一直線にクイーンのに向かって駆け出し斬りかかった。


「覚悟!」


「――っ!」


 ミノタウロスは、赤い花に反応している為に迎撃できない。

 そう判断したクイーンは、とっさに触手の絡まった右手を無理やり上に上げて、メレディスの剣を受け止めた。


「っ!? なにこれっ!」


 メレディスの放った斬撃は、クイーンに届く事は無かった。

 柔軟性の高い触手の束に阻まれてしまい、刃は束の半分ぐらいまでしか到達できなかったためだ。


「ふ~危ない危ない~…………こらっ!! いつまで花と戯れているの! さっさとこいつを始末しなさい!」


 クイーンがミノタウロスに向かって叫ぶ。


『グモッ?』


 その声にミノタウロスが振り返り、ようやく反応する。

 そして花びらを追いかけていた両手を、メレディスに向かって勢いよく伸ばした。


「ちっ!」


 メレディスはクイーンを斬る事を諦め、その場から離れる。

 だが、ヘビのように追いかけて来る両手に追いつかれてしまった。


「はやいっ!」


 近距離まで迫ってきた右手を剣で弾き飛ばすが、同時に迫っていた左手には対処できず、腹部に拳がめり込む。


「ぐふっ!!」


 その衝撃でメレディスは体勢を崩してしまう。

 弾き飛ばされた右手が方向を変え、メレディスに向かって襲い掛かって来た。

 もはや回避も防御も出来ない状態に、メレディスは諦めかけた瞬間、カラが目の前に現れる。


「騎士様、まだ諦めるのは早いです」


 カラは左手を蹴り飛ばし、右手を拳で上に弾き飛ばした。

 そしてメレディスの胴体に右腕をまわし、ユウとシュウの傍へ着地する。


「大丈夫ですか? これを飲んでください」


 シュウは道具袋から治癒ポーションを取り出す。

 メレディスは治癒ポーションを受けとり、1口で飲みほした。


「――ぷはっ! ……あ、ありが――」


「固まってるとマトよ~!!」


『モオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 クイーンの叫びと共に、ミノタウロスは両手を振り回して4人の集まっている場所へと降り下ろしてきた。


「シュウ! 早く!」


 ユウがシュウに向かって手を伸ばす。

 シュウは慌ててその手を握った。


「「プロテクションシールド!」」


 防御壁魔法を張り、ミノタウロスの攻撃を防いだ。


「またその魔法~!? いい加減うざったいわねぇ~! じゃあこれならどう~?」


 クイーンが触手に魔力を込めた。

 その魔力がミノタウロスの両手に帯び、プロテクションシールドを殴りつける。

 するとプロテクションシールドに少しだけヒビが入ってしまう。


「「えっ!?」」


 今までそんな事が起きなかった為、双子は驚きの顔を見せる。

 クイーンは口角を上げ、ミノタウロスの攻撃が苛烈になる。


「くっ! このままだとシールドが破壊されます!」


「……早く核を破壊しないと……」


 メレディスがヨロヨロト立ち上がる。


「体内にはあの触手で埋め尽くされている為、核を破壊するのは難しいです」


「えっ! あの触手が!? では、どうすれば……」


「っ……もう……これ以上……維持が……!」


 シールドのヒビが大きくなり、これ以上持たないのが明白だった。


「と、とにかく攻めるしかありません! シールドが消えた瞬間、アタシは化け物に魔力を送っているクイーンに集中攻撃してみます! もしかしたら、それで弱体化するかもしれませんから」


「わかりました。では、カラは核があると思われる箇所を狙います」


 メレディスとカラが構えた。

 と同時にシールドが砕け散り、4人の居た場所がにミノタウロスの拳によって破壊される。

 ユウとシュウは衝撃で吹き飛ばされ、メレディスとカラはそれぞれの対象に向かって飛び出した。


「はあっ!」


「あんたもしつっこいわね~!」


 メレディスが斬りかかり、クイーンはミノタウロスの手で応戦させる。

 その隙にカラはあちらこちらから胴体に攻撃するが、やはり触手に阻まれてしまう。


「いたた……シュウ、大丈夫?」


 瓦礫の中からユウが起き上がる。


「うん……なんとか……」


 シュウも同様に立ち上がり、2人の激しい戦闘を茫然としながら見る。


「ちょっと、シュウ! ボケッとしていないで援護するわよ!」


 ユウがシュウの手を握った。


「……あっ。う、うん! フレアボム!」


 2人に当たらない様に、ミノタウロスの胴体に攻撃魔法を撃ち込む。

 だが、ミノタウロスはダメージを食らった様子もなく攻撃を続けた。


「っなら! フレアボム! フレアボム!」


 シュウは、ミノタウロスの両手の触手に攻撃魔法を撃ちこんだ。

 しかし、こちらも傷一つどころか焦げ目もつかない。


「ど、どうなっての? 全然効いてないじゃない」


「……クイーンの魔力で、化け物の魔法防御が高くなってる……」


「魔法防御が高く? じゃあ、あたし達は何もできないの……? そんな……2人は命懸けで戦ってるのに……」


 ユウがその場で膝をついてしまう。

 シュウもまた、無力な自分に苛立ちながらも俯いてしまう。


「……ううっ…………ん?」


 シュウは地面に水たまりが出来ている事に気付く。

 辺りを見わたすと、ミノタウロスに破壊された噴水の水が大量に辺り一面に吹き出していた。

 ミノタウロスの体も水びたし状態だ。


「…………そうだ! これなら、いけるかもしれない!」


 シュウはユウを立ち上がらせ、手を強く掴んだ。


「ユウ! 全魔力を消費するかもだけどいい!?」


 一瞬茫然とするユウだったが、すぐに笑顔を見せる。


「何を思いついたのか分からないけど、いいわよ! ぶちかましちゃえ!!」


「うん! 食らえ! 僕達の全魔力のブリザードオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 シュウが冷気魔法を唱えると、庭園一帯に猛吹雪が吹き荒れ始めた。


「な、なぁに~!? 吹雪!?」


 みるみると噴水の水が凍っていき、その周辺も凍って行く。

 無論、大量に水をかぶっていたミノタウロスの体も凍り初め、クイーンの両手両足の触手もどんどんと凍り付いて行く。


「えっ!? えっ!? ちょっ!」


 クイーンが手足を動かそうとするが、まったく動かない。

 魔力を送っても、ただの水で凍った状態では無意味だ。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 至る所に氷をつけた状態のメレディスが、凍った触手に向かって剣を振り下ろした。

 柔軟性が無くなった触手は、あっさりと斬られてしまう。


『ブモオオオオオオ!!』


「今!」


 カラはドラゴンの体内へと入り込む。

 触手は硬くなり、魔力も途切れているので簡単に核の場所まで辿り着いた。

 そして、青白く光っていた核を手に取り……力を込めて握りつぶした。


『ブモオオオオ……オオ…………オ…………』


 ミノタウロスは雄たけびを上げたのち動かなくなり、氷像とかした。


「サーロイン!」


「ここまでだ! クイーン!」


 メレディスがクイーンの首元に剣先を当てた。

 凍って動けない両手両足、もはや逃げることが出来ないと判断したクイーンが敗北を認めた。


「……はあ~……負けちゃったかぁ。降参よぉ」


 クイーンの言葉と共にマスクが外れて地面に落ちる。

 ゴアゴ博士の助手、エルフのケイアが素顔を見せた。

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