戦士たちを見送った後、ツバメは地図を丸めてギルドの外へと飛び出した。
「ツバメさん、どこに行くのですか?」
パロマが声をかけ、ツバメはその場で足踏みをしながら答える。
「シーラさん達のところです! 状況確認と、まだ動ける様なら町か城に向かってもらおうかと思いまして!」
「なるほど」
「なのでちょっとギルドから離れますけど、パロマさんとハナちゃん、ユウちゃんとシュウくんは…………あれ?」
ツバメがある事に気付き、その場で足を止めた。
「ユウちゃん? シュウくん?」
先ほどまでいたユウとシュウの姿が見当たらなかった。
パロマとハナ、冒険者達が辺りを見わたす。
「……いませン」
「……いませんわね」
他の冒険者も姿が見えないと首を振る。
ツバメの顔がみるみる青くなっていった。
「嘘でしょ!? あの2人、どこ行っちゃったのよおおおおお!?」
※
ルノシラ王国に残っていた戦力は、近衛兵を除くと王国騎士団の第16分隊から第20分隊の騎士が47名と兵が104名。
だが、城門の門番をしていた第16分隊の8名と兵10名が【影】の奇襲により全滅。
王国外部の見回りに行っている第18分隊と第19分隊の計20名、兵20名不明。
城下町の見回りに行っている兵15名不明。
ルノシラ城の固く閉ざされた城門前には第17分隊の9名と第20分隊の9名。
そして兵50名が【影】と戦闘をしていた。
だが【影】、特に化け物10体の猛攻はすさまじく、騎士と兵は半数近くまで死傷していた。
「いいかあ! 絶対に門を守り切れえええええええ!!」
『おおっ!』
第17分隊の分隊長シパルが大声を上げる。
その言葉に所属する残った5人の騎士達が大声を上げた。
「17分隊に後れを取るなあああ! 第20分隊の力を見せてやれえええええ!!」
『おおっ!』
シパルの声に同調するかのように、第20分隊の分隊長ガガーも大声を上げた。
所属するメレディスを含んだ6人の騎士達が返事をする。
『うおおおおおおお!』
騎士達に続けとばかり兵達も雄叫びを上げ、【影】や化け物に怯まず剣や槍を振った。
そんな戦場から少し離れた場所に、ドラゴンの胴体にミノタウロスの上半身がついている化け物が立っていた。
他の個体とは違い、体中つぎはぎだらけで触るとパズルみたいに崩れ落ちそうな見た目をしている。
そんなミノタウロスの肩の上に真黒なマントを羽織り、フードを深々と被った1人の【影】が座っていた。
顔には左目の下に黒いクラブマークのある銀のアイマスクをつけている。
【影】の幹部の1人、クイーンだ。
「ん~……まだ完璧とは言えないとはいえ、キメラドラゴンたち相手にやるわねぇ~。本当なら、あそこに攻撃を仕掛けたい所なんだけど~……」
クイーンが後ろを振り返る。
背後には両手が大砲になっている2体の化け物……キメラドラゴンが静かに待機していた。
「この子達に攻撃させると、さっきみたいに流れ弾が城までいっちゃうのよね~」
クイーンが困った様子で右手で自分の頬を掻く。
大砲の威力は上々だったが、問題はエイミングの精度がかなり低い事。
キメラドラゴンの知能が相当低い為に、何度言っても変な方向に飛ばしてしまう。
「あの城はわらわ達が住むから、ボロボロになるのは勘弁だわ~。はあ~……しょうがないか~」
クイーンはミノタウロスの方から飛び降り、地面に着地する。
「戦闘は苦手なんだけどな~……おい、弓」
クイーンの言葉に、【影】の1人が派手に装飾された弓を取り出した。
クイーンはその弓を掴み構える。
そして、矢をセットしていない状態にもかかわらず弦を引き始めた。
「マジックアロー……」
魔法を唱えると、弓と弦の間に光り輝く1本の矢が出現した。
魔法の矢が完成すると、クイーンは弓を斜め上に向け……。
「……レイン!」
魔法の矢を空に向かって放った。
空に放たれた魔法の矢は弧を描きながら分裂し、100本もの矢の雨となって城門前に降り注いだ。
「ぐあっ!!」
「ぎゃっ!」
『ガアア!』
城門前で戦っていた王国の騎士や兵、そして【影】とキメラドラゴン達に魔法の矢が突き刺さる。
「うっ!」
ガガーの太ももに魔法の矢が突き刺さり、その場に膝をついてしまう。
「分隊長!」
何とか魔法の矢をかいくぐったメレディスがガガーに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「っこの程度、何ともない! くそっ敵味方見境なしに攻撃してくるとは!」
ガガーがクイーンを睨みつける。
その視線に気付いているのかいないのか、クイーンはもう一度弦を引き始めた。
「まずい! またあの矢を放つ気だ! メレディス、俺に構わず避難をするんだ!」
「そんな事出来ません!」
メレディスはガガーを自分の肩につかまらせて起き上がる。
「馬鹿者が!」
「マジックアロー…………レイン!」」
クイーンは先ほどと同様に、魔法の矢を空へと放った。
空に放たれた魔法の矢は、弧を描きながら分裂し始める。
「くっ!」
メレディスはガガーを担ぎながらヨタヨタと必死に逃げる。
だが、それでは到底逃げられるわけでもなく、あっという間に矢の雨が迫りくる。
「っ! 駄目かっ!」
メレディス他、ガガーや周辺にいた騎士と兵が諦めた……次の瞬間――。
「「プロテクションシールド!!」」
少年少女の声が響き渡り、城門前に白く光るドーム状の膜が広がった。
そして降り注ぐ魔法の矢を防ぎ、スッと消えさった。
「……え? 助かった……の?」
メレディスとガガーがその場で座り込んでしまう。
すると、空中から手をつないだユウとシュウが地面に着地した。
「ほら、言った通り飛行魔法で直線的に飛ん出来た方が早かったでしょ?」
「そ、そうだけど……黙って出てきてよかったのかな……後で怒られないかな?」
「大丈夫よ! こうしてみんなを守ったんだから!」
いきなり空から現れた双子の姿にクイーンが一瞬呆気にとられるが、すぐに頭を振り正気に戻る。
「なっなんなのあいつ等~! ガキのくせに、わらわの攻撃を防ぐだなんて生意――っ!!」
殺気を感じ背後を向いた瞬間、黒い影がクイーンに迫って来ていた。
クイーンはとっさに弓でガード体勢に入る。
ガキンと金属音が鳴り響き、弓と短剣で鍔迫り合いが起きる。
襲って来た黒い影は全身真っ黒で、デフォルメされたドクロの仮面が顔につけられていた。
「……っっ……久々の再会なのに、随分なご挨拶ね~ジョーカー!! ――っライトニングボルト!」
クイーンがヒトリに向かって雷撃魔法を撃ちこむ。
ヒトリは後ろにジャンプをして回避し、カラの横に着地をする。
「ガキ共に気を取られ過ぎてたみたいね~」
その彼女らの背後には、4人の【影】と核を破壊され倒れている大砲のキメラドラゴン達の姿があった。
「ジョーカーにゴーレム~……流石にこれは分が悪すぎるわね~……仕方ないっ!」
クイーンがミノタウロスのドラゴンの背中に飛び乗る。
「めちゃくちゃになっちゃうから、本当はやりたくなかったんだけど~……暴れなさい! サーロイン!!」
ミノタウロスの鼻輪に向かって、クイーンは魔法の矢を放つ。
魔法の矢は鼻輪に当たり弾け飛んだ。
『――ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
直後ミノタウロスは雄叫びを上げ、赤い目で2人を睨みつけた。
「っ!」
「……」
ヒトリとカラが身構える。
『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
ミノタウロスは角を突きだし、ヒトリとカラに向かって突進していった。