気を失っている【影】達を縛っていると、壊れた入り口からフロイツがギルド内に入って来た。
「こっこれは! 皆さん、ご無事ですか!?」
荒れ果てたギルドの中を見たフロイツが、ツバメに駆け寄る。
「あ、フロイツさん! はい、私達は無事ですが……今フランクさんが、ジャックと外で戦っています」
「ジャック? ジャックいえば【影】の幹部じゃないですか! なら、すぐ援護に向かわないと! 何処で戦っているのですか」
フロイツの言葉に、【影】を縛り終えたツバメが立ち上がる。
「フランクさんは後の事は頼んだと言っていました。ですので、ジャックは彼に任せて私達が出来る事をします」
「……その方は、お強いのですか?」
「ジャックに1度負けていますが……ダークエルフの秘薬を飲んでいますし、リベンジに燃えていますので強いですよ」
ツバメは笑顔で答えた。
その様子を見て、フロイツは小さく肩をすくめる。
「そういった感情論はどうかと思います……が、私もリベンジを邪魔されると非常に腹が立ちますので、お任せする事にしましょう」
「フロイツ、まだ話は終わりませんの?」
パロマがフロイツに声をかけて来た。
「おっと、そうでした! すみません! ツバメ殿、避難者をお連れしたのですが……ここは安全と判断してもよろしいでしょうか?」
ツバメが壊れた入り口の方を見ると、人だかりができていた。
見慣れた冒険者が8名、ルノシラ王国の兵が5名、ルノシラ王国の住民が約20名、ほとんどの人が怪我をして血を流していた。
「大変! 今すぐ治癒ポーションをかき集めてきます!」
ツバメはギルドの倉庫に向かって駆け出した。
治癒ポーションを避難者に渡し終えた後、ツバメは受付のカウンターの下にもぐり、雑に詰め込んであった書類の束を手荒にどけ始めた。
「ああっ! ちゃんと整理しとけばよかったわ!」
「ツ、ツバメちゃん……何してるの?」
ぶつくさと文句を垂れているツバメに、ヒトリが不思議そうにカウンター内を覗き込んだ。
「ここにスイッチがあるの」
「スイッチ?」
「そう…………よし、これで引っ張れる。よっと!」
床から飛び出していた鉄の鎖をツバメが思いっきり引っ張った。
するとガコンと音が鳴り、カタカタと歯車が回る音がギルド内に鳴り響く。
「まさか、これを引っ張る時が来るなんて思いもしなかったわ……」
受付のカウンターがガタガタと揺れ始めると、カウンターの真ん中から左右に割れて動き始めた。
「ツ、ツバメちゃん……これって……」
驚くヒトリ達を横目に、ツバメはランタンを手に取り灯をともした。
カウンターの動きが止まり、空いた場所には地下へ降りていく螺旋階段が出て来た。
「これは、いざという時の為に作られた地下シェルターです。頑丈な作りなので、安心して中に入ってください」
ツバメの言葉に住民たちが不安そうに顔を見合う。
それを見たアルヴィンが1歩前に出た。
「俺は戦力にならないから、シェルターの中に避難するよ。カラ、俺の護衛はいいから、みんなのサポートにまわってくれないか?」
「承知いたしました」
「頼んだぜ」
アルヴィンはツバメからランタンを受けとり、階段を降りて行った。
町人達もアルヴィンの後を追い、地下シェルターに入って行った。
「さて……今王国に起きている事を知りたいので、色々と話してもらえますか?」
ツバメは倒れていたテーブルを起こし、その上にルノシラ王国の地図が描かれた紙を広げた。
「では、私が説明いたします」
フロイツが地図に指をさし、ぐるりと円を描いた。
「城下町ですが、下水にいた化け物が地面から地上へと出てきました。1カ所ではなく何ヶ所もです」
「……地面から……」
「はい。そして城ですが、化け物含め【影】と思わしき者達が攻めておりました。ですので、城に避難するのは危険だと判断してギルドに来たわけです」
「城も【影】に……? ああっ!! そういう事か! やられた!!」
ツバメは両手でテーブルを強く叩いた。
「ど、どうしましたの?」
驚いたパロマが恐る恐るツバメに声をかける。
「この状況は【影】が作り出したんです! 冒険者と王国騎士がルノシラ王国から離れて、手薄になるこの時を!!」
「え? えっ? どういう事なの?」
ユウがシュウに顔を向ける。
「わ、わかんない……」
シュウが困った様子で顔を左右に振った。
「簡単に言ってしまえば、【影】がルノシラ王国を乗っ取る為に起こした戦争という訳です……」
「「ええっ!?」」
フロイツの言葉にユウとシュウが同時に驚き声をあげた。
「…………私達が取るべき行動は4つです」
ツバメが親指を除く、右手の指を4本あげた。
その行動に全員の視線がツバメに向く。
まず人差し指を折る。
「1つ、城の援護」
次に中指を折る。
「2つ、城下町に残っている化け物の討伐及び人命救助」
そして薬指を折る。
「3つ、王国が【影】に襲撃されている事を、東部のクルーズ地方に行っているギルド長と騎士団に報告」
最後に小指を折る。
「4つ、避難者がいるこのギルドを死守する事……以上です」
『……』
ツバメの言葉に、その場にいた全員が沈黙する。
「………………では、私が城下町を周りましょう」
その沈黙を破ったのはフロイツだった。
「私は素早く動けますし、化け物の対処も出来ますからな」
「で、ではわたくしも!」
パロマが手を上げる。
だが、フロイツは首を振りパロマの腕を降ろさせた。
「駄目です。お嬢様はギルドの守護に当たってください」
「ですが!」
「適材適所という言葉があります。わがままを言ってはいけません」
「………………わかり、ましたわ」
今までにないフロイツの真剣な表情に、パロマは頷くしかなかった。
「あの! 俺達も行かせてください! 城下町を守りたいんだ!」
「ああ! その通りだ!」
「戦うぞ!」
「ここで引けるか!」
1人の兵の言葉に、他の兵達も声をあげた。
それを見たフロイツが口角を上げる。
「わかりました。私と行く者は、共に戦いましょう!」
『おおっ!!』
フロイツの言葉に兵達が沸き上がった。
「わかりました、城下町をお願い致します。トーマくん、あなたには伝令を頼みたいの」
ツバメがトーマの方を見る。
「え? い、いいですけど……どうして俺なんですか?」
「ある程度実力があり、トーマくんは各地を回っているから道にも詳しい。この中だと、確実に届けられると思ったからよ」
トーマはしばらく考え、力強く頷いた。
「わかりました! 行きます!」
「ありがとう、すぐに書状を書くわ。そして、城の方なんだけど……ヒトリとカラの2人にお願いしたいんだけど……」
「あっ……う、うん……わかった……」
「了解いたしました」
「待ってくれ、俺も城に!」
「私も行かせてください!」
ヒトリとカラは即答し、2人の兵が名乗り出る。
「では4人は城へ……残った人はギルドの死守をお願いします!」
「おうよ、ここは俺たちの職場だしな!」
「タダ働きか……」
「文句言わないの!」
8人の冒険者は武器を取り出し、戦闘の準備にとかかった。
「これでよし…………すぅう……皆さん!! 反撃を開始しましょう!!」
ツバメは大声を出して、ギルド内を奮い立たせた。
各々返事を返し、城下町へと駆け出して行った。
それぞれの役目を、その身に背負って――。