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6・反撃

 気を失っている【影】達を縛っていると、壊れた入り口からフロイツがギルド内に入って来た。


「こっこれは! 皆さん、ご無事ですか!?」


 荒れ果てたギルドの中を見たフロイツが、ツバメに駆け寄る。


「あ、フロイツさん! はい、私達は無事ですが……今フランクさんが、ジャックと外で戦っています」


「ジャック? ジャックいえば【影】の幹部じゃないですか! なら、すぐ援護に向かわないと! 何処で戦っているのですか」


 フロイツの言葉に、【影】を縛り終えたツバメが立ち上がる。


「フランクさんは後の事は頼んだと言っていました。ですので、ジャックは彼に任せて私達が出来る事をします」


「……その方は、お強いのですか?」


「ジャックに1度負けていますが……ダークエルフの秘薬を飲んでいますし、リベンジに燃えていますので強いですよ」


 ツバメは笑顔で答えた。

 その様子を見て、フロイツは小さく肩をすくめる。


「そういった感情論はどうかと思います……が、私もリベンジを邪魔されると非常に腹が立ちますので、お任せする事にしましょう」


「フロイツ、まだ話は終わりませんの?」


 パロマがフロイツに声をかけて来た。


「おっと、そうでした! すみません! ツバメ殿、避難者をお連れしたのですが……ここは安全と判断してもよろしいでしょうか?」


 ツバメが壊れた入り口の方を見ると、人だかりができていた。

 見慣れた冒険者が8名、ルノシラ王国の兵が5名、ルノシラ王国の住民が約20名、ほとんどの人が怪我をして血を流していた。


「大変! 今すぐ治癒ポーションをかき集めてきます!」


 ツバメはギルドの倉庫に向かって駆け出した。




 治癒ポーションを避難者に渡し終えた後、ツバメは受付のカウンターの下にもぐり、雑に詰め込んであった書類の束を手荒にどけ始めた。


「ああっ! ちゃんと整理しとけばよかったわ!」


「ツ、ツバメちゃん……何してるの?」


 ぶつくさと文句を垂れているツバメに、ヒトリが不思議そうにカウンター内を覗き込んだ。


「ここにスイッチがあるの」


「スイッチ?」


「そう…………よし、これで引っ張れる。よっと!」


 床から飛び出していた鉄の鎖をツバメが思いっきり引っ張った。

 するとガコンと音が鳴り、カタカタと歯車が回る音がギルド内に鳴り響く。


「まさか、これを引っ張る時が来るなんて思いもしなかったわ……」


 受付のカウンターがガタガタと揺れ始めると、カウンターの真ん中から左右に割れて動き始めた。


「ツ、ツバメちゃん……これって……」


 驚くヒトリ達を横目に、ツバメはランタンを手に取り灯をともした。

 カウンターの動きが止まり、空いた場所には地下へ降りていく螺旋階段が出て来た。


「これは、いざという時の為に作られた地下シェルターです。頑丈な作りなので、安心して中に入ってください」


 ツバメの言葉に住民たちが不安そうに顔を見合う。

 それを見たアルヴィンが1歩前に出た。


「俺は戦力にならないから、シェルターの中に避難するよ。カラ、俺の護衛はいいから、みんなのサポートにまわってくれないか?」


「承知いたしました」


「頼んだぜ」


 アルヴィンはツバメからランタンを受けとり、階段を降りて行った。

 町人達もアルヴィンの後を追い、地下シェルターに入って行った。


「さて……今王国に起きている事を知りたいので、色々と話してもらえますか?」


 ツバメは倒れていたテーブルを起こし、その上にルノシラ王国の地図が描かれた紙を広げた。


「では、私が説明いたします」


 フロイツが地図に指をさし、ぐるりと円を描いた。


「城下町ですが、下水にいた化け物が地面から地上へと出てきました。1カ所ではなく何ヶ所もです」


「……地面から……」


「はい。そして城ですが、化け物含め【影】と思わしき者達が攻めておりました。ですので、城に避難するのは危険だと判断してギルドに来たわけです」


「城も【影】に……? ああっ!! そういう事か! やられた!!」


 ツバメは両手でテーブルを強く叩いた。


「ど、どうしましたの?」


 驚いたパロマが恐る恐るツバメに声をかける。


「この状況は【影】が作り出したんです! 冒険者と王国騎士がルノシラ王国から離れて、手薄になるこの時を!!」


「え? えっ? どういう事なの?」


 ユウがシュウに顔を向ける。


「わ、わかんない……」


 シュウが困った様子で顔を左右に振った。


「簡単に言ってしまえば、【影】がルノシラ王国を乗っ取る為に起こした戦争という訳です……」


「「ええっ!?」」


 フロイツの言葉にユウとシュウが同時に驚き声をあげた。


「…………私達が取るべき行動は4つです」


 ツバメが親指を除く、右手の指を4本あげた。

 その行動に全員の視線がツバメに向く。

 まず人差し指を折る。


「1つ、城の援護」


 次に中指を折る。


「2つ、城下町に残っている化け物の討伐及び人命救助」


 そして薬指を折る。


「3つ、王国が【影】に襲撃されている事を、東部のクルーズ地方に行っているギルド長と騎士団に報告」


 最後に小指を折る。


「4つ、避難者がいるこのギルドを死守する事……以上です」


『……』


 ツバメの言葉に、その場にいた全員が沈黙する。


「………………では、私が城下町を周りましょう」


 その沈黙を破ったのはフロイツだった。


「私は素早く動けますし、化け物の対処も出来ますからな」


「で、ではわたくしも!」


 パロマが手を上げる。

 だが、フロイツは首を振りパロマの腕を降ろさせた。


「駄目です。お嬢様はギルドの守護に当たってください」


「ですが!」


「適材適所という言葉があります。わがままを言ってはいけません」


「………………わかり、ましたわ」


 今までにないフロイツの真剣な表情に、パロマは頷くしかなかった。


「あの! 俺達も行かせてください! 城下町を守りたいんだ!」


「ああ! その通りだ!」

「戦うぞ!」

「ここで引けるか!」


 1人の兵の言葉に、他の兵達も声をあげた。

 それを見たフロイツが口角を上げる。


「わかりました。私と行く者は、共に戦いましょう!」


『おおっ!!』


 フロイツの言葉に兵達が沸き上がった。


「わかりました、城下町をお願い致します。トーマくん、あなたには伝令を頼みたいの」


 ツバメがトーマの方を見る。


「え? い、いいですけど……どうして俺なんですか?」


「ある程度実力があり、トーマくんは各地を回っているから道にも詳しい。この中だと、確実に届けられると思ったからよ」


 トーマはしばらく考え、力強く頷いた。


「わかりました! 行きます!」


「ありがとう、すぐに書状を書くわ。そして、城の方なんだけど……ヒトリとカラの2人にお願いしたいんだけど……」


「あっ……う、うん……わかった……」


「了解いたしました」


「待ってくれ、俺も城に!」

「私も行かせてください!」


 ヒトリとカラは即答し、2人の兵が名乗り出る。


「では4人は城へ……残った人はギルドの死守をお願いします!」


「おうよ、ここは俺たちの職場だしな!」

「タダ働きか……」

「文句言わないの!」


 8人の冒険者は武器を取り出し、戦闘の準備にとかかった。


「これでよし…………すぅう……皆さん!! 反撃を開始しましょう!!」


 ツバメは大声を出して、ギルド内を奮い立たせた。

 各々返事を返し、城下町へと駆け出して行った。


 それぞれの役目を、その身に背負って――。

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