「はあっ!」
フロイツの手刀が、化け物のドラゴンの胴体に突き刺さる。
そして核を掴み取り、握りつぶした。
『ガッ……ガガ……ア』
化け物は動きを止め、ズシンとその場に倒れ込んだ。
フロイツは腕を抜き取り、懐からハンカチを取り出して手をふき取る。
「ふぅ……」
「じいさん……あんたすげぇな……」
アルヴィンが茫然としつつフロイツを見る。
「いやいや、核の場所さえ知っていれば誰にでも出来る事です」
フロイツは笑いながら答えた。
その姿にアルヴィンは若干引いてしまうのだった。
「流石に誰でもは無理だろ……」
「あ、あの……! 助けて頂き、ありがとうございます!」
赤ちゃんを抱いた女性がフロイツの元へと駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。
「あなたを助けたのはそこの少年ですので、少年にお礼を言ってあげてください」
「えっ俺ですか!?」
「あ、ありがとうございます!」
女性はトーマの方に振り向き、ぺこりと頭を下げた。
「そんな、当然のことをしたまでで……」
トーマが両手を振った瞬間、破壊音と戦闘音が鳴り響いて来た。
「町にいた王国の兵と冒険者達が私達同様に戦っている様ですな」
「フロイツ、これからどうしますの?」
パロマ、アルヴィン、カラ、ーマの視線がフロイツへと向く。
この辺りは安全だと判断した数名の町人も近くに寄って来る。
「…………この場合、城に避難するのが定石ですが……」
フロイツがルノシラ王国の城を見る。
城はあちらこちらから煙が上がり、城門付近では騎士と兵達が化け物と戦闘していた。
「……あの状態では避難は出来ませんな……となれば、冒険者ギルドに行ってみましょう」
「わかりましたわ」
「俺はそれでいいぜ」
「坊ちゃまが良いと言うのなら」
「俺も問題ありません」
数名の町人も頷いた。
「では、戦える者を先頭にギルドへと向かいます! 道中、出来る限り救助も行うよう皆さんお願い致します!」
フロイツの言葉にその場にいた全員が返事をし、ギルドへと向かった。
※
ギルドに襲撃してきた【影】達は、一斉に散らばりそれぞれに襲い掛かる。
「ハナちゃん! 身を伏せて!」
ハナはヒトリの言われた通り、即座に床に身を伏せる。
ヒトリは回し蹴りで襲って来た【影】の顔にヒットさせた。
手加減は一切無く、一撃で仮面が粉々に砕け散る。
「――がっ!!」
そして【影】は蹴り飛ばされ、ツバメを襲おうとしていた【影】の腹部辺りにぶつかった。
「げふっ!?」
2人の【影】は飛ばされた勢いのまま壁に叩きつけられて気を失った。
「ナイス! ヒトリ!」
ツバメはヒトリに向かって親指を立てた。
「くそっ! 今【影】が襲撃してくるとは思いもしなかった……ぜっ!!」
フランクが愚痴をこぼしつつ、【影】の攻撃をかわしてから頭を掴み、床へと叩きつけた。
「うぎゃっ!」
「――っフランク! 後ろ!」
【影】と戦っているシーラが叫ぶ。
その言葉にフランクが背後を振りかえると、プロテクションシールドを張っているユウとシュウの前にこん棒で何回も叩いている【影】の姿があった。
「「ぐぬううう!」」
「このっ! このっ! くそっ! なんて頑丈なシールドなんだ!!」
「そいつはぁオレのこん棒でも割れなかったんだ。お前如きが割れるわけねぇよ」
背後から聞こえたフランクの言葉に【影】が振り返る。
「……うるっせ――げぼっ!!」
振り返ると同時にフランクの右拳が影の顔面にめり込む。
仮面が粉々に割れ、【影】は鼻血を出しながら床に倒れた。
シーラと【影】の戦いはシーラが押され気味だった。
「おらおらっ!」
「くそっ! 弓があればお前なんか……!」
愛用している弓と矢筒はシーラが泊っている部屋の中。
今の状態ではとても取りに行く暇などない。
「シーラさん! 安物ですが!」
ツバメの声にシーラは横目でチラリと見る。
ツバメの両手には弓と矢筒が持たれていた。
「ツバメ! こっちに投げな!」
「はいっ!」
ツバメがシーラに向かって弓と矢筒を投げた。
同時にシーラも弓と矢筒の方へとジャンプする。
「なっ!?」
突然なシーラの奇行に【影】の動きが一瞬止まってしまった。
シーラは空中で弓をキャッチし、矢筒から1本の矢を抜き取る。
そして、無理やりな体勢で【影】に向かって弓を引いた。
「ぐおっ!?」
放たれえた矢は【影】の右太ももに突き刺さり、その場で膝をついた。
「馬鹿なっ!」
シーラは華麗に着地し、動けなくなった【影】に近づいて行く。
「言ったろ? 弓があれば……」
弓をバットの様にもって振りかぶり。
「そ、それは弓なんて関係――」
「――っさ!」
【影】の頭に向かってフルスイングを叩き込む。
カコーンと小気味い音と共に【影】が吹っ飛んで行った。
「ナイスショット! 姐さんがこん棒を持ってもいいかもな」
「馬鹿言ってんじゃないよ、まったく。……とりあえず、襲って来た【影】はこれで全員倒し……」
「手柄を焦り、我を待たず先走ってこの有り様とは……情けない」
地を這うようなぞっとするほどの低い威圧感のある声がギルド内に重く響く。
その場にいた全員が声のする破壊された入り口に視線を向けた。
そこにはハルバードを持ったジャックの姿があった。
「チッ、やっぱり生きていたか……化け物め」
ジャックの姿を見てフランクが悪態をつきつつ、ジャックに向かって歩き始めた。
「お前の相手はオレだ。リベンジさせてもらうぜ」
フランクの言葉にジャックは嘲笑う。
「フッ、リベンジだと? 笑わせるな弱者が!」
「そう慌てるなって。今日はこれがあるからよ」
フランクは腰に下げていた道具袋から紫色の液体が入った1本の瓶を取り出した。
「フランク……やっぱり使うのかい……」
その瓶を見たシーラは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「ジャック! こいつは姐さんが作ったダークエルフの秘薬だ! 知ってんだろ?」
ジャックはピクリと体を動かして反応する。
「あ……あの、ダークエルフの秘薬って何ですか?」
シュウが小声でシーラに問いかけた。
「一時的にだけど、飲んだ者の身体能力を大幅に強化させる薬さ……」
「それじゃあフランクさんが飲めば、まさに百人力じゃないですか!」
ユウの言葉にシーラは首を振る。
「薬で無理やり身体能力を上げているんだ、そんな大な力に体が耐え切れず崩壊して死ぬ場合もある……あれは秘薬という名の劇薬さ」
「「ええっ!」」
「本気なのだな?」
ジャックの問い掛けにフランクは豪快に笑った。
「はっははははあ! 当たり前だろ! これでお前を叩き潰してやるぜ!」
フランクは瓶の蓋を開け、一気に秘薬を飲み干した。
「ぷはあ…………来たぜ来たぜぇええ!」
全身の筋肉が盛り上がり、着ていた服がビリビリに破れる。
赤色の肌はどす黒い赤色に変貌し、まるで血を浴びた様だった。
「おっしゃああああああ! 行くぜえええええええ!」
フランクがジャックに襲い掛かる。
「来いっ!」
ジャックはハルバードを構え、戦闘態勢へと入った。
フランクとジャック、2度目の戦いの火蓋が切られた。