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6・【影】として

 ゲドゥは脂汗を流しながら必死に【影】達に対してヒストリアの事を説明をした。


「…………と、言う訳なんじゃあ」


「なるほど、ヒトのゴーレム……ねぇ」


 ゲドゥの話をしゃがんで聞いていた【影】は、床で寝ているヒストリアを見つめた。

 その様子を見て、後ろにいたハルバードを持った背の高い【影】の1人が呆れた様子で声をかける。


「そんな話をお前は信じるのか?」


「信じるも何もお前も見ただろう? 素手で2人がやられた上に、あの異常な動きをさ」


 背の高い【影】は黙ってヒストリアを見つめる。

 仮面で表情が見えない為、背の高い【影】が何を思ったのかはわからないが、それ以上口を開く事は無かった。


「じゃあよ! 魔石を埋め込んで強くなるんだったら、俺にもしてくれよ!」


 今度は鎌を持っていた【影】が茶化すように割って入って来た。


「そっそれは無理じゃぁ、どういう訳かその小娘以外じゃと、魔石との拒絶反応を起こし死んでしまうんじゃよぉ」


「なんじゃそりゃ、役に立たねぇな。おい、もうそいつを始末しようぜ」


 【影】が鎌を構えて、1歩前に出る。


「ひいいいいいいいいい!」


 ゲドゥは身の危険を感じ、その場でうずくまってしまう。


「まあ待て」


 ゲドゥの前にいる【影】が右手を上げて制止をする。


「……どうして止める?」


 鎌を持っている【影】が、不服そうにゲドゥの前にいる【影】に対して鎌を向けた。

 ゲドゥの前にいる【影】は振り向きもせず、落ち付いた様子で話を続ける。


「そういきり立つな、ちょっと聞きたい事があるんだよ」


「あん? どういう事だ?」


 【影】はうずくまっているゲドゥの顔を持ち上げ、視線を無理やり合わせる。


「おい、あのガキはオレの言う事を聞く様に出来るのか?」


「へっ?」


「だーかーらー、オレの言う事を聞く様に出来るのかって聞いているんだよ」


「あ、ああ! 出来るぅ! 出来るぞぉ!」


「じゃあ、今すぐやるんだ」


 2人のやり取りに、鎌を持った【影】が首をひねる。


「ああ? ……あっ! まさか、このガキを持って帰るつもりか? ヒトを持ち帰るのはルール違反だろうが!」


「ヒト? いや、あれはゴーレムだから『物』だぜ? 物ならルール上持ち帰るのは何の問題はないはずだが?」


「はあ!? そんなのただの屁理屈じゃないか! お前等はどう思う!?」


 鎌を持った【影】は後ろを振り返り、2人の【影】に問いかける。


「……我は戦闘以外の事はどうでもいい。ただ物好きで変な奴だとは思うがな」


 背の高い【影】は、呆れた様子で壁にもたれかかる。


「ん~……アタシはゴーレムとして見てもいいと思うから~問題無し」


 声質的に女性と思われるもう1人の【影】も答える。

 自分以外、問題無しと言われた【影】は不機嫌そうに舌打ちをして鎌を懐にしまう。


「チッ! 好きにしやがれ!」


 そして、研究室から出て行ってしまった。


「……さてうるさい奴は行ったし、それじゃあさっさとやってもらおうか?」


「はっはいいいいい!」


 ゲドゥは小走りでヒストリアに近づき、右手を仮面にあて呪文を唱え始める。

 すると仮面が一瞬だけ光り輝いた。


「こ、これであなたの言う事を聞きますぅ!」


「よし、ご苦労さん」


 【影】は立ち上がり、ヒストリアの傍に近づいた。


「こ、これでワシの命は助かるんですよねぇ!」


 ゲドゥが安堵した様で【影】を見つめる。

 【影】はそんなゲドゥの言葉に首を傾げた。


「何言ってんだ? そんな事をすると報酬金が貰えないじゃないか」


「なっ!? なんでじゃあ!? 貴様の言う事は全て聞いたではないかぁ!!」


「それはオレが個人的にやった事。仕事とは無関係だ」


 そう言うと【影】は手に持っていた剣を振り上げ……。


「そん――」


 素早くゲドゥの首元に振り下ろした。

 次の瞬間、ゲドゥの首と胴体が切り離される。

 とんだゲドゥの頭は女性の【影】がキャッチし、胴体は力なくその場に倒れ込んだ。


「これで任務完了ね」


「そうだな。ただ……気になる事がある」


 【影】は剣を納刀し、ヒストリアを担ぎ上げる。


「気になる事?」


「お前だよ。持っている頭が話している間、お前は何も聞かずその辺りにある紙きれを見ては何枚か懐に入れていただろ?」


「……クス、バレてたか」


 女性の【影】は懐から数枚の書類を取り出してヒラヒラと揺らす。


「それは価値がある物なのか?」


「残念ながら価値はないわ、ワタシ個人以外は……だけどね……それでも聞きたい?」


「……いや、価値が無いのならいい」


「……我も戦闘と関係ないのなら興味はない」


「そっかぁ~残念」


 3人はそれ以上会話をすることなく、研究所から出て行った。



 ベッドの上で横になっているヒストリアが目を覚ました。

 辺りを見わたすと、小さな窓とドアが1つしかない質素な部屋だった。


「…………お、目覚めたか」


 ヒストリアが目覚めた事に気付き、椅子に座って本を読んでいた【影】が雑に本を床へと投げて立ち上がる。


「よう、気分はどうだ?」


「……特に異常はありません……」


 起き上がらず、淡々と答えるヒストリア。

 【影】は腕を組みながらベッドの隣へと近づいて来た。


「んー、本当にオレの言う事を聞くようになっているのかな? 試しに……おい、ベッドから降りて右手を上げてみろ」


「……はい……」


 ヒストリアは体を起こしてベッドから降り、右手を上げた。


「じゃあ次は左手を上げて、右手を下げろ」


「……はい……」


 ヒストリアは言われた通り、左手を上げてから右手を下げた。

 その行動に【影】は満足そうに頷く。


「うんうん、ちゃんとオレの言う事を聞くな。よーし! それじゃあ、さっそくオレが直々に鍛えてやるから……えーと、152号だっけ?」


「……はい……」


 ヒストリアの返事に【影】は右手で頭をポリポリとかいた。


「なーんか、数字で呼ぶのは変な感じだな。オレが所有者だし名付けるか……ふーむ、なにがいいかな……」


 【影】はヒストリアをジッと見つめる。

 そして、閃いたとばかりに手を叩いた。


「その仮面、ピエロっぽいからジョーカーってのはどうだ?」


「……ジョー……カー……?」


「そうだ、今日からお前の名前は152号じゃなくてジョーカーな」


 【影】の言葉にヒストリアは小さく頷いた。


「……はい、わかりました……マスター」


「チッチッチ、マスターの響きもいいけどオレの事はキングと呼べ!」


「……キング……?」


「ああ、オレはいつかこの国の王になる男だ! だからキングと呼べ!」


 【影】、キングは胸を張り高らかに宣言をした。




 それから3年後、左の下に赤いダイヤマークが入った金色の仮面をつけたキングは【影】のトップになっていた。

 幹部には、目の下に黒いクラブマークが入った銀のアイマスクをつけている科学者【クイーン】。

 左目の下に黒いスペードマークの入った銅色の鉄仮面をつけている武人【ジャック】。

 左目の下に赤いハートマークが入った目と口の部分が三日月状の白い仮面をつけた死神【ジョーカー】。


 奇しくもあの日、研究所にいた4人が【影】の主力となり暗躍していた。

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