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7・2人で1人

 双子を包んでいた白く光るドーム状の膜がスッと消える。

 困惑しつつもシュウが立ち上がり、ユウの手を取って起こした。


「2人とも怪我はしていないか?」


 アッシュの言葉に双子は自分の体を見わたした。


「どこも……怪我はしていないようです」


「……あたしも」


「そうか、なら良かったが……今のは何だ?」


「えと……」


 シュウが考えこんでいると、戦闘音が聞こえて来た。

 ヒトリが複数のガーゴイル相手に孤軍奮闘状態で戦っていた。


「っと、その話は後だ! 2人はちゃんと隠れてろよ!」


 アッシュはヒトリの元へと走って行った。


「ねぇ……今のって……」


「……うん」


 ユウとシュウは幼い頃に襲われたブラックパンサーの事を思い出していた。


「あの時は怖くて気が付かなかったけど、さっきあたしの魔力がシュウの中へスーッと入って行く感じがした」


「僕も、ユウの魔力が体の中に流れ込んでくるのを感じた……」


「「もしかして……」」


 ユウとシュウは手をつなぐ。

 そして、静かに目を閉じた。


「シュウにあたしの魔力を流す……」


 つないだ手が光りはじめた。


「そして、その魔力を僕が操作する……」


 シュウが右手をかざした。


「「フレアボム!」」


 双子の叫びと同時に、1体のガーゴイルが爆発し粉々に砕け散った。


「えっ!?」


「な、なんだ!?」


 ヒトリとアッシュが突然の事に驚く。


「……出来た……完璧な魔法が!」


 シュウが翳していた右手を見る。


「やったね! シュウ! どんどん行くわよ!」


「ああっ! アッシュさん! ヒトリさん! 援護は任せて下さい!」


「「フレアボム!」」


 双子が魔法を唱えるたびにガーゴイルが爆発し粉々に砕けていく。

 それが双子だと気付いたガーゴイ達は、双子に向かって火の玉を吐いた。


「「プロテクションシールド!」」


 双子の前に白く光るドーム状の膜が出現し、火の玉の爆発を防ぐ。


「なんで、あいつ等急に魔法が使えるんだ!?」


 双子の突然の行動にアッシュが困惑をする。


「わ、わかりません……ですが今はっ!」


 ヒトリはガーゴイルのヒビにナイフを突き立て破壊する。


「そうだな! 後輩にいい恰好ばかりされてたまるか!」


 連携が乱れ始めるガーゴイル達。

 双子は魔法で、アッシュは地上戦で、ヒトリは空中戦で各々の力で戦い続けた。


 そして……。


「こいつでラストだっ!」


 アッシュが渾身の力でガーゴイルの首を刎ねる。


「ふいー……流石に疲れたぜ……」


 アッシュがその場に腰を下ろす。


「はあ~……はあ~……あたし……もう駄目……」


「僕も……」


 双子も腰を下ろした。


「あっ……ね、念の為にこれを……」


 ヒトリは仮面を外し、治癒ポーションを3人にわたした。


「お、サンキュー」


「ありがとうございます」


「ど、どうも……」


 3人は治癒ポーションを受けとり飲み干す。

 その間ヒトリは辺りをキョロキョロ見渡し、警戒を続けた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だって、他のモンスターのいる気配なんてないからな」


 アッシュの言葉を聞いても、ヒトリは警戒を止める事は無かった。


「あっ……も、もしもの可能性がありますから……」


「はあー真面目だな……………………なあ、ヒトリちゃん」


 普段とは違うアッシュの真剣な口調に、ヒトリがビクリと体を震わせた。


「ふえっ! は、はい! な、何か怒らせる事しちゃいましたか!? だとしたらすみません! すみません!」


 ヒトリがペコペコとアッシュに頭を下げる。

 アッシュはその様子をジッと見つめ、口を開いた。


「…………いや、これは後でいいや。よっと」


 アッシュが立ち上がる。


「?」


 叱られると思っていたヒトリは恐る恐る頭を上げた。


「さて、後輩たち、休憩は終わりだ。先に進むぞ」


 シュウがアッシュの言葉で立ち上がる。

 しかし、ユウは立ち上がろうとしなかった。


「えっもうですか? もうちょっと休みません? ……あたっ」


 アッシュが立ち上がろうとしないユウの頭を軽く小突く。


「さっさと脱出するのが先決だっての。文句を言うな」


「は~い……」


 口を尖らせつつユウが立ち上がる。

 4人は遺跡内を進み始めた。


 ところがすぐに足が止まる事になる。

 行き止まりにぶつかったためだ。


「マジかよ、ここまで1本道だったのにな」


 アッシュが困った表情で自分の頭をポリポリとかく。

 ヒトリは辺りを見わたした後、行き止まりの壁へと近づき耳を当てた。


「ヒトリちゃん、何してんだ?」


「………やっぱり……あっ……あの、この先から水が流れる音が聞こえます」


「水の流れる音だって?」


 アッシュも壁に近付き耳を当てる。


「……本当だ。もしかして……」


 アッシュが剣を抜き、柄で壁のレンガをコンコンと叩いた。


「やっぱり、この先は空洞になっているな。後輩達、この壁を爆破してくれ」


「えっ! そんな事しちゃっていいんですか!?」


「大丈夫大丈夫。ただ、壁に穴を空ける程度の威力で頼むぜ」


「わ、わかりました……ユウ」


「うん」


 ユウとシュウが手をつなぐ。


「「フレアボム」」


 壁の一部が爆発し、人一人が通れるほどの穴が開いた。

 アッシュはその穴に近づき頭を突っ込む。


「……おいおい、ここは王国の下水道じゃないか!」


 ヒトリも穴に近づきそっと覗き込む。

 穴の先はアッシュの言う通り、見覚えのある下水道が広がっていた。


「あっ……ほ、本当だ……」


 穴から出た4人は、ヒトリの道案内ですぐに地上へと出ることが出来た。

 そして、その足でギルドへと向かう事にした。

 日も落ちかけ、辺りは赤く染まっていた。



「やっと戻って来た! 遅くて心配したんですよ!」


 4人がギルド内に入った早々、ツバメが入り口へと飛んで来た。


「えっ? オレ様の事を心配してくれたの? いやー嬉し――」


 アッシュを無視し、ツバメはヒトリに問いかけた。


「何があったのか話してくれる?」


「あっ……う、うん……わかった……」


 ツバメの態度にアッシュはかくりと肩を落とした。


「……予想通りの反応だぜ……まったく……」




「そんな事が……ふ~む……」


 奥の席で4人の話を聞いたツバメが顎に右手を当てて考える。


「…………多分、そこは王族の秘密通路だと思います」


「秘密通路だって?」


「本来なら城から下水道に降り、魔法陣を使って北の山へと脱出する物ですが、誤作動で山から下水道に飛んでしまった。ガーゴイルがいたのは守護者として設置されていたのではないでしょうか?」


 ツバメの推理にアッシュは右手で左手の手のひらをポンと叩く。


「なるほど、妙な構造だとは思ってはいたが納得……って、もしそれが本当ならオレ様達やばくね!? 秘密通路は見つけるし、ガーゴイルは倒しちゃったし!」


「あ~多分大丈夫だと思います……秘密通路は何ヶ所もあるそうですし、もし何かあってもパパ……じゃなくてギルド長と掛け合いますから」


「頼むぜ……」


「あ、あのーお話し中すみません……」


 シュウが恐る恐る右手を小さく上げた。


「この状況で聞くのはとは思ったんですけど……僕達の試験の結果は……」


「ああ! そうでした! もちろん合格です、おめでとうございます!」


 ツバメが拍手をしつつ笑顔で答えた。

 それを聞いた瞬間、どちらからともなく双子は勢いよく立ち上がり……。


「「っやったああああああああああああ!」」


 大声をあげつつ、パアンっと大きなハイタッチの音がギルド内に鳴り響くのだった。




 ―了―

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