真っ暗な遺跡の中を進むアッシュ、シュウ、ユウ、ヒトリ。
今、歩いている通路が果たして出口につながっているのかは先頭を歩くアッシュにもわからない。
それでも前に進むしかなかった。
「……にしても、ちょっと不自然だな……」
アッシュがぼそりとつぶやく。
後ろで歩いていたシュウはアッシュのつぶやきに対して質問をする。
「何が不自然なんですか?」
「おっと、聞こえていたか……いやな、こういう古い遺跡には様々なモンスターが住み着いているもんなんだ。スライム、様々な蟲、ゾンビ、スケルトンとかな……だが……」
アッシュは視線を目の前の暗闇へと向ける。
「今のところ出てきもしないし、モンスターのいる気配がない……だから不自然だと思ったのさ」
「なるほど……」
「別にいない方が楽でいいじゃないですか」
ユウのあっけらかんとした態度にアッシュが小さくため息をついた。
「確かにそうだが、冒険を甘く見るなよ……」
しばらく歩くと広いホールへと出た。
アッシュはランプを左右に振り、周辺の状況を確認する。
「これまたおかしな場所に出たな」
ホールは石柱が等間隔で立っており、それぞれの石柱の一番上の部分には羊の様な頭部に人の体、背中には大きな蝙蝠の翼が生えた石像が4体ずつ鎮座していた。
「柱の陰からモンスターが襲ってくる場合もあるから、より注意して進むぞ」
「「はい」」
「あっ……はい……」
双子とヒトリが頷き、慎重にアッシュの後をついて行く。
ホールに入り、数m進んだところでヒトリが足を止めて辺りを見わたした。
「……ん? どうかしたんですか?」
それに気づいたユウがヒトリに声をかける。
「ひゃっ!」
突然声をかけられて、ヒトリが小さな悲鳴をあげてしまった。
「なっなんだなんだ!?」
「どうかしたんですか!?」
その悲鳴にアッシュとシュウが慌てて振り返る。
「そ、そんなに驚かなくても……」
「あっ……す、すみません……」
アッシュは剣の柄を握りしめつつ後ろへと下がって来た。
「おい! 一体なにがあったんだ?」
詰め寄られたヒトリがオドオドしつつ口を開く。
「あっ……えと……お、音がしたんです……何か動く様な……」
「音だって?」
アッシュ、ユウ、シュウは耳を澄ました。
しかし、物音はせずホールは静寂が広がっていた。
「……………………んー? とくに何も聞こえ――」
アッシュの言葉を遮るかのように、カンッと小石が床に落ちて来た。
咄嗟にアッシュはランプを上に掲げる。
すると石柱に鎮座していた石像達の顔が4人の方を向いていた。
「っしまった! ガーゴイルか!」
ガーゴイル。
石像に魂が宿り動き出す謎多きモンスターだ。
「くるぞ!」
アッシュは剣を抜くと同時に、ガーゴイル達の口が一斉に開く。
すると口の中から赤い光が漏れだした。
「あれは……っ全員その場から避けろ!」
アッシュの叫びに3人は立っている場所から飛び退く。
次の瞬間、ガーゴイルの口から火の玉が発射され4人がいた場所が爆発して燃え上がる。
「あっぶねぇ……火を吹いてくるタイプなんて初めて見たぜ」
「アッシュさん! 後ろ!」
ヒトリの声にアッシュが振り向く。
ガーゴイルの鋭い足の爪が、アッシュに向かって襲い掛かって来ていた。
「おっとっ!」
アッシュは剣で爪を受け止める。
そしてガーゴイルの頭に蹴りを入れ込み、地面に叩き落とした。
「いってぇ! なんて硬さだ!」
地面に落とされたガーゴイルは痛みを感じている様子もなくすぐに立ち上がり、空中に飛び上がった。
「くそっ、全く効いてない様だな。ヒトリちゃんは無理せず双子を守っ……」
アッシュが振り向くと、ヒトリは双子を石柱の陰に身を潜ませていた。
「お2人はこの柱の陰に隠れていてくださいね――っ!」
ヒトリはドクロの仮面を顔につけ、その場から勢いよく駆け出した。
突然の行動に双子とアッシュが一瞬呆気にとられるが、すぐに1本の石柱に向かって走っている事に気付いた。
「なっ! ヒトリちゃん!?」
「えっ!? 何を!」
「ちょっ危ないですよ!!」
ヒトリはスピードを緩める事無く走り続ける。
石柱との距離が近づきヒトリの体が激突…………せずに、石柱を駆け登り始めた。
「「……ええ……」」
「……嘘だろ……」
ヒトリの行動にアッシュと双子は目を丸くする。
石柱の頂点付近まで駆け登ったヒトリはタンッと石柱を蹴り、飛んでいる1体のガーゴイルの背中に飛び移った。
「ここっ!」
ヒトリは、ガーゴイルの背中にあったヒビの入っている箇所に向かってナイフを勢いよく突き立てた。
ナイフの刺さった箇所からヒビが広がり、ガーゴイルの胴体は真っ二つに割れ落ちた。
ガーゴイルを倒したと同時にヒトリは地面に着地し、すぐさま石柱を駆け登り2体目に向かって飛んだ。
「…………」
ヒトリの動きにアッシュは只々無言で見つめていた。
「あ、あたしも戦う!」
ヒトリの行動に居ても立ってもいられなくなったユウが石柱の陰から飛び出そうとする。
シュウはユウの腕を掴み必死に止めた。
「だっ駄目だ! このまま大人しく隠れているんだ!」
ユウは不満そうにシュウの腕を振り払った。
「はあ!? そんな事出来ないわ! あんな奴等、あたしの魔法で……」
「何言っているんだ! これは試験じゃなくて本当の命懸けの戦いなんだぞ! 僕達の力じゃ――」
「――2人とも逃げてえええ!」
ヒトリの叫びにユウとシュウが頭を上げる。
頭上には4体のガーゴイルが双子に向かって口を大きく開けていた。
「しまった!」
「このっフレア……きゃっ!」
攻撃も回避できないと判断したシュウがユウを押し倒し、上に覆いかぶさる。
「シュウッ! あんた何してるの!!」
ジタバタともがくユウ。
「ユウは僕が守るから!」
シュウはユウを必死に押さえつけた。
「アッシュさん! 何をしているんですか!」
「…………はっ!!」
呆けていたアッシュが我に返り、双子に向かって走り出す。
しかし時すでに遅く、ガーゴイル達は一斉に双子に向かって火の玉を吐き出した。
「シュウウウウ!」
「っ!!」
ユウとシュウは恐怖で目をギュッと強く目を瞑る。
直後、双子のいる場所が爆発し炎が燃え上がった。
「くそっ!!」
アッシュは道具袋からマントを取り出し、そのマントに水筒の水をかけ始めた。
濡れたマントで火を叩いて消そうと考えたのだ。
それを見たガーゴイル達がアッシュに向かって口を開く。
「させるかああああ!」
ヒトリはアッシュに攻撃しようとしているガーゴイル達に向かって小型ナイフを投げつけ、自分にヘイトを向ける様に立ち回った。
準備が出来たアッシュはマントを両手で広げて振り上げる
「今すぐその火を消してやるからなっ! …………ん?」
アッシュが濡れたマントで炎を叩いた瞬間、まるで壁を叩いた様な変な感触が伝わってくる。
不思議に思いつつ叩き続けると炎は弱まり、出て来たの白く光るドーム状の膜だった。
その膜の中に双子の姿があった。
「な、なんだこれ? おい! 2人とも大丈夫か!?」
アッシュがドームの天井部分を叩く。
その音で双子は恐る恐る目を開けて辺りを見わたし、同時に口を開いた。
「「…………なにこれ?」」