双子はツノウサギ他、様々な生息するモンスターに苦労しつつも勝利し、ようやく山の頂上へとたどり着いた。
その頃には太陽も真上から傾き、双子の服は泥まみれになっていた。
「はあ~……はあ~……つ、疲れた……」
ユウが大き目の岩に腰掛ける。
その隣にシュウも腰掛けた。
「だね……ふぅー、修業してた時よりもきつい感じがするよ……」
そんな双子の様子を見てアッシュがケタケタと笑った。
「これで疲れている様じゃあ冒険者になった時に体が持たねぇぞ?」
「「うえぇ……」」
双子は苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。
「ほれほれ、休憩は終わりだ。クルルア草を探せ」
「「……は~い」」
双子は重い腰を上げ、クルルア草を探し始めた。
「……ん~と……あっ! あった!」
「こっちもあった……けど……」
双子はクルルア草に疑問を感じ、お互いを見合う。
「すごく簡単に見つかったわね」
「そうだね……しかも量も多い……」
アッシュは双子の傍へと近づき、疑問に答える。
「そりゃそうさ、クルルア草は別に珍しくない植物だからな」
「「えっ!?」」
「治癒ポーションほどの即効性はないが傷によく効く薬草だから、覚えておいても損はない。そういった知識を頭に入れる為に試験内容に入っているわけだ」
「なるほど……」
シュウは手に持ったクルルア草をジッと見つめた。
「ちなみに、治癒ポーションを買う余裕のない新米冒険者がクルルア草を持ち歩いているのはよくある話だ」
「って事は、これを持って帰っても良いんですか?」
ユウの質問にアッシュが頷く。
「ああ、ただし生態系が壊れるから大量に採らない事。量しだいでは罰せられるからな。後、採るなら小さいのじゃなく成長した大きい葉っぱの方が効果は強いぞ」
「シュウ! 出来る限り大きいのを選んで採って行こう!」
「うん!」
双子はそれぞれ歩き回り、クルルア草をつみ始める。
その姿にアッシュが腕を組みながらニヤニヤと笑う。
「いやー懐かしいなー、オレ様も最初はとったもんだ。ヒトリちゃんはどうだったんだ?」
「えっ!?」
突然話をふられ、ヒトリは慌てふためく。
「あっ……その……あの……え~と……」
「……ふったオレ様が悪かったよ。さ、後輩共! これで試練終了だ! ギルドに帰るぞ!」
「は~い! ……ん?」
ユウが何かを見つけ、地面にしゃがみこんだ。
その様子を見たシュウがユウに不思議そうに駆け寄る。
「どうしたの? ユウ」
「ここ、魔法陣っぽいのが埋まってる」
「魔法陣?」
シュウがユウの見ている場所を覗き込んだ。
「本当だ……魔法陣の一部っぽいのが土から出てる」
「これは何の魔法陣なんだろう?」
ユウはクルルア草をカバンの中へとしまう。
そして、土を退かす為に地面に手を置いた……その瞬間――。
「――えっ!?」
突如、埋まっていた魔法陣が光り出した。
「これは何!? ユウ! 何をしたの!?」
「あたしは何もしてないよ! ただ手を置いただけ……って、あわわわわ!」
魔法陣から光の柱が上り、その光の柱が双子を飲み込んだ。
「ん? はあっ!? なんだありゃ!?」
光の柱を見たアッシュは驚きの声をあげ、ヒトリは大声で叫ぶ。
「2人とも! そこから早く離れて!」
「た、助け――」
シュウが助けを求めて手を伸ばすと同時に、双子の姿が陽炎の様に消えてしまった。
「嘘だろ! 消えた!?」
「――っ!」
ヒトリは躊躇せず駆け出し、魔法陣が出す光の柱に飛び込んだ。
飛び込んだヒトリの姿も双子同様に一瞬で消えてしまう。
「ちょっ! ヒトリちゃん!? ……ああ、どうしよう! 追いかけるべきか、戻って救援を頼むべきか……」
アッシュが悩んでいると、魔法陣の光が弱まり光の柱も徐々に小さくなり始めた。
「うげっ! 制限時間があるのかよ! えーと……えーとお…………ええい! ままよ!!」
アッシュは駆け出し、頭からダイブする形で光の柱の中へと飛び込む。
アッシュの姿が消えたと同時に魔法陣の光も消え、光の柱は無くなってしまった。
※
目の前は真っ暗だった。
あまりにも暗すぎて自分自身の手さえ見えない。
「……いてて……頭打っちまったよ……おい、みんないるか?」
アッシュの言葉にそれぞれが答える。
「あっ……は、はい……います」
「あたしはここです」
「僕はここに居ます」
アッシュの傍から声が聞こえた。
4人一緒の場所にいる様で、それぞれが安堵する。
「よかった、全員いるみたいだな……にしても、ここは何処だ? 真っ暗で何も見ないぞ」
「あっ……ちょ、ちょっと待って下さいねぇ……今、灯りの準備をします……」
カチャカチャと暗闇の中で作業のする音が響く。
そして、しばらくしたのちランプの灯かりがついた。
灯りのおかげでヒトリ、アッシュ、ユウ、シュウの4人の姿が見えた。
「サンキュー、ヒトリちゃん。ちょっとそのランプを借りてもいいか?」
「あっ……はい……ど、どうぞぉ……」
アッシュはヒトリからランプを受けとり、辺りをぐるりと照らす。
照らされたのは古ぼけたレンガで作られた天井、壁、床。
小さな四角い部屋のようだった。
「うーん……どうやら、ここは何処かの遺跡の部屋みたいだが……何で、こんな場所にオレ様達はいるんだ?」
「恐らくこれは転移魔法陣……だと思います」
シュウはしゃがみこみ、床に掘られた魔法陣に手を添える。
「転移魔法陣? なんだぞりゃ」
「昔使われていた、魔法陣から別の魔法陣まで一瞬で行き来できる術式です。ただあまりにも公式が複雑な上に、魔力消費量も多かったので今では使われなくなった……本にはそう書いてありました」
「なるほど、便利だけど使い勝手が悪くて消えて行った物の1つってわけか……まっ行き来できるならさっさと戻ろうぜ、ここはかび臭くてたまらん」
「……」
アッシュの言葉にシュウが困った表情を見せる。
「ん? どうしたんだ?」
「……すみません……起動のさせ方がわかりません……」
「はあ!? さっきピカーって光っていたじゃねぇか!」
「それも、どうして起動したのかわからないんです……すみません」
「マジかよ……あ、ユウちゃんは……」
ユウは無言で頭を横に振る。
シュウと同じ様にわからない様子だった。
「くそっ!」
アッシュは悪態をつき、うなだれてしまう。
そんなアッシュに対してヒトリは恐る恐る口を開いた。
「あっ……となると……こ、この遺跡から自力で脱出するしか……ないかと……」
アッシュは少し考えのち、ため息をつきつつ背筋を伸ばした。
「はあー……それしかなさそうだな。じゃあオレ様がランプを持って先頭を歩き、双子を挟んでヒトリちゃんが最後尾を歩く。これでどうだ?」
アッシュの提案にヒトリは小さく頷いた。
「あっ……はい……わかりましたぁ」
「うし、決まりだな。それじゃあ行くぞ。何が出るかわからんから、常に注意しつつオレ様の後についてこい」
「「はいっ」」
アッシュはいつでも剣を抜ける様にランプを左手に持ち、慎重に歩き始めた。
その後をユウとシュウが続き、ヒトリは背後を警戒しつつ付いて行く。
ヒトリの左手にはナイフではなく、デフォルメされたドクロの仮面が握られていた。