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4・試験開始

 奥の席で笑みを浮かべながらナイフを布で磨いているヒトリにツバメが近づく。


「ヒトリっ!」


「ニヒヒヒ……」


 声をかけられてもヒトリの手と笑みは止まらない。

 その様子を見ていたアッシュは、足早にツバメに近づき声をかける。


「ほら、ヒトリちゃんは集中しているみたいだし、ここはやっぱりオレ様1人で……」


「いつもの事なのでご心配なく」


 ツバメはアッシュに笑顔で答えながら手に持っていた紙を巻いて筒状にした。

 そして、大きく振りかぶり……。


「そろそろ声をかけた時くらいは気付けぇええええええええええええええ!!」


 ヒトリの頭の上に向かって筒を勢いよく振り降ろした。

 スパーンと小気味良い音がギルド内に響き渡る。


「――ふえっ!? 何!? 何が起こったの!?」


 ヒトリは両手で頭の上を擦りながらキョロキョロと見わたし、笑顔で睨みつけているツバメと目が合う。


「……えと……お、怒って……る?」


「ううん、全然怒ってないよ」


 ツバメはニコニコしながらヒトリの隣の椅子にドカっと座った。

 そんなツバメにヒトリはびくつき、少しだけ距離をとってしまうのだった。


「あたしには怒ってる様に見えるんだけど……」


「うん……僕も……」


「たまりにたまってたもんが爆破した感じだな……」


 小声で話す3人の方にツバメの頭が向いた。


「ほら、3人共。つっ立ってないでこっちに座ってください」


 不気味なほど優しい声で3人を呼ぶツバメ。


「「「はいっ!」」」


 双子とアッシュは慌てて席に座った。

 ツバメは手に持っていた筒状にした紙を広げ、テーブルの上に置く。


「さて、じゃあ説明するわね」


 ツバメは先ほどのいきさつをヒトリに全て話した。


「…………というわけで引き受けてほしんだけど、質問はある?」


 ヒトリは右手をフルフルと震わせながら小さく上げた。


「何?」


「……えと、拒否け――」


「無いわよ」


 ヒトリが質問を言い終わる前にツバメに即答され、悲しそうに右手を降ろした。

 だが、すぐさまもう一度小さく右手を上げた。


「何?」


「……あ、あのさぁ……どうして、ボクなの? まだ他の人もいるよね?」


「あ、それはオレ様も気になった」


 ずっと暇そうに聞いていたアッシュがヒトリの質問に反応する。

 ヒトリとアッシュがジッとツバメを見つめた。

 そんな2人に対してツバメはあっけらかんと答えた。


「理由? ただ何となくよ」


「「「「ええっ!?」」」」


 ヒトリ、アッシュ、双子の4人の声が重なる。


「ツ、ツバメちゃん……ただ何となくで済ませて良い事じゃないと思うぜ?」


 アッシュの言葉にヒトリと双子が頷く。

 それを見たツバメは少し考え……。


「じゃあ、ヒトリが適任だと判断しました」


 と、またあっけらかんと答えた。

 そんなツバメに対して双子が不安そうな表情を見せる。


「いやさ、言い直すとしてもちゃんとした理由を……」


 アッシュの言葉を遮るようにツバメが勢いよく立ち上がった。


「これはギルドの決定です! 変更はありませんのでよろしくお願いしますね!」


「……わ、わかったよ」


 ツバメの強い口調にアッシュは折れ。


「ううう……なんでいつもいつも……」


 ツバメは半泣きになり。


「ギルドの人って怖いね……」


「うん……怒らせない様にしないとね……」


 双子はツバメに対して恐怖を覚えるのだった。



 ギルドを出発したアッシュ、ヒトリ、ユウ、シュウの4人は試験の山のふもとに到着した。

 3人の先頭を歩いていたアッシュが振り返る。


「よーし、ここからお前たちの試験開始だ。基本、試験中は一切手を出さないが、オレ様かヒトリちゃんが危険と判断した場合は即助けに入るから安心しろ。ただ、その場合は試験は不合格になるからな」


「「はい!」」


 双子は元気よく返事をし、アッシュの前に出る。


「ふぅ~……さあ、行くわよ! シュウ!」


「うん! 絶対に2人で合格しようね、ユウ!」


 双子は杖を取り出し、山を登り始めた。




『キュッ!』


『キュ!』


 道中、双子の前に2匹のツノウサギが威嚇していた。

 ツノウサギ、この山に生息するシカの様な角が生えている白いウサギ型モンスター。

 縄張り意識がとても強く、侵入者に対して持ち前の脚力と角で突進をしてくる。

 この山に生息しているモンスターの中で最も獰猛な種に入る。


「よ~し、先手必勝! フレアボム!」


 ユウが魔法を撃ちこみ爆発が起きる。


「ほおー、威力は相当なもんだ。ただ……当たらないと意味ないけどな」


 爆発した場所は2匹のツノウサギではなく真横の茂み。


「あ~も~! どうしてよ!」


 ユウは悔しそうに杖を振り回た。

 ツノウサギ達は爆発で一瞬たじろぐも、すぐに双子に向かって駆け出して来た。


「今度は僕が! フレアボム!」


 向かって来たツノウサギにシュウが魔法を撃ちこんだ。

 すると、ツノウサギの角付近でバンッと爆発が起きる。


『ギャッ!』


「ほおー、ちゃんと当たったな。ただ……威力が無さ過ぎる」


 ツノウサギの角には焦げた跡がついているだけで、折れるどころかヒビも入ってはいなかった。

 爆発を食らったツノウサギは何が起きたのかわからず、キョトンとした様子で周辺をキョロキョロと見渡す。


「くっ……やっぱり駄目か」


 そんな双子にアッシュは呆れた様子で双子に声をかけた。


「低級モンスターとはいえ、その角をまともに食らうと怪我しちまうぞ。まじめにやれー」


 アッシュの言葉にユウが喚き散らす。


「やってますよ! このフレアボム! フレアボム! フレアボムウウウウ!」


 ユウが連続で魔法を撃ちこむが、向かって来るツノウサギとは別の場所で爆発が起きる。


「当たってよおおおお!」


 喚くユウに対し、シュウは必死に考える。

 そして、何かを思いついたと同時にしゃがみこみ右手を地面につけた。


「これならどうだ……グランドウォール!」


 地面が盛り上がり、ツノウサギの目の前に小さな土の壁が出て来る。

 高さ的には人の膝くらいだがツノウサギにとっては大きな壁。

 突然出て来た土の壁にツノウサギは反応できず、そのまま壁にぶち当たり角が刺さってしまった。


『キュッキュッ!』


 ツノウサギは刺さった角を引き抜こうと必死にもがく。

 シュウは動けなくなったツノウサギの傍へと寄る。

 そして、手に持っていた杖を強く握りしめた。


「…………ごめんねっ!」


 杖を大きく振り上げ、ツノウサギに向かって勢いよく降り下ろした。


『ギャンッ!』


 杖に叩かれたツノウサギはその場でのびてしまう。

 アッシュは手を叩きながらシュウに声をかけた。


「おめでとう、モンスター1種以上の討伐は達成だ」


「っやった!」


 アッシュの言葉に、シュウが嬉しそうに小さくガッツポーズを決める。

 それを見ていたユウは口を尖らせた。


「む~先を越された……」


「あっ……えと……そ、そうでも……ないと思います。あれを見て下さい……」


 ヒトリが指をさす。

 その先には真っ黒に焦げ、気を失って倒れているツノウサギの姿があった。


「あっ……さ、さっきユウさんが連続で放った魔法が当たったんです……」


「えっ……当たってたんだ……」


「おいおい、そんな偶然を討伐にカウントしてもいいのか?」


 ヒトリはアッシュの言葉にビクリと体を震わせる。


「あっ……すみません! で、でも……倒した事にはかわりないと……思うんです……」


「んー……」


 アッシュは困った様子で右手で頭をかきながら考え込む。

 ユウは両手を合わせて祈るようにアッシュを見つめた。


「……まあヒトリちゃんも目付け役の1人だから、それでいいなら討伐達成と認めよう」


「「やったあああああ!」」


 双子は嬉しそう抱き合った。


「オレ様は甘い思うが……ほれ、まだ試験は続いているんだから気を緩めるなよ」


「「はい!」」


 双子は元気のいい返事をし、山道を登り始めた。

 その後を肩をすくめたアッシュと、申し訳なさそうな表情をしたヒトリがついて行った。

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