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2・双子の旅立ち

 夜、バーンズ家。

 カミラはテーブルに置いてある冒険者について書かれた紙をじっと眺めていた。


「……」


 そこに青い髪、青い瞳の夫のラクム・バーンズが両手にホットミルクの入ったコップを持ってやってきた。


「何を悩んでいるんだい?」


「あっ、あなた」


 ラクムは手に持っていたコップをカミラの前に置いた。


「ありがとう」


 カミラはコップを手に持ち、口へと運ぶ。


「Sランク冒険者、大魔術師カミラでも眉間にシワを寄せる事があるんだな」


「……そんなの関係ないし、元だし、15年以上前の事だし。そもそも、組んでいたパーティーが良かったからSランクに行けたようなものよ……」


 ラクムがカミラの隣に座った。


「何言っているんだい。君の魔法能力に長けているから大魔術師の異名が付くし、あの子達もそれを受け継いだんじゃないか」


「……はあ~……その受け継ぎで悩んでいたわけなんだけどね」


 カミラはテーブルの上に置いてある紙をラクムに手渡した。

 受け取ったラクムは内容に目を通す。


「…………あの子達に冒険者を勧めるかどうか悩んでいたわけか」


「そういう事。あなたはどう思う?」


「俺はあの子達がやりたいというのなら、かまわないと思うけど……ただ未熟な所が気にはなるかな」


 ラクムの言葉に、カミラは困った顔をしつつ頭を縦に振った。


「そこなのよ。冒険者は常に危険と隣り合わせ……1歩間違えれば命に関わるわ……」


 カミラの手に持っているホットミルクが少し波打つ。

 それを見たラクムは、自分の手でカミラの手を優しく包んだ。


「……でも、実戦だからこそ鍛えられる事もある。カミラがまさにそうだろ? あの子達と同じくらいの歳で冒険者になっているんだから」


「……」


「だったら、俺達の子供を信用してやろうじゃないか。っと言っても、まだあの子達がやると言ったわけじゃないけどな」


「……確かにそうね。うん、決めたわ」


 カミラはホットミルクを一気に飲み干し、2人は寝室へと向かった。



 翌朝、カミラが朝食の準備をしているとユウとシュウが同じ寝癖を付け、同じ様に右目を擦りながら子供部屋から出て来た。


「おはよう、2人とも」


 コーヒーを入れていたラクムが2人に気付き、朝の挨拶をかわす。


「「おはよう~……」」


 双子は寝ぼけながらも挨拶を返す。

 そして、ふわふわしつつ椅子に座った。


「おはよう。もうすぐ出来るからね」


 カミラは焼けた目玉焼きをフライパンから皿へと移す。


「うん、わかった……ん? 何だこれ?」


 シュウがテーブルの上に置かれていた紙を手に取る。


「なにそれ?」


 ユウが横から覗き込む。

 そして内容を読んだ瞬間、2人は一瞬で目を覚ました。


「「こ、これって冒険者の!」」


 双子が驚いている所に、カミラが目玉焼きとパンをテーブルの上に置いた。


「お母さん! これってどういう事なの!?」


 ユウがシュウから紙を奪い取り、カミラに見せる。

 カミラは微笑みながら口を開いた。


「見ての通り、私はあなた達に冒険者を勧めたいと思っているわ。でも、それは強制じゃない……どうするかはあなた達自身で決めなさい」


 ユウとシュウはお互いの顔を見合わせる。

 そして、少しの間を開けてからユウが口を開いた。


「……なりたい! あたし、お母さんの冒険者時代の話を聞いてからずっと、ずっと、ず~~っとお母さんみたいな強い冒険者になりたいと思ってたの!」


 ユウに続きシュウも口を開く。


「……僕もお母さんみたいに強くなりたい!」


 その言葉を聞いたラクムが、笑いながらそれぞれの前にコーヒーを置き椅子に座った。


「はっはっは、何とも嬉しい言葉だな。カミラ」


 そのカミラは両手で顔を抑えて涙声で答える。


「……うう~! まさかそう思われていたなんて~!」


「これは相当効いているな。母さんが落ち着くまで待っていると、朝ご飯が冷めそうだからさっさと食べてしまおう」


 ラクムがナイフとフォークを手に持つ。


「「は~い」」


 ユウとシュウもナイフとフォークを持ち食べ始めた。

 予想通り、カミラが落ち着く頃には目玉焼きとコーヒーはすっかり冷めてしまうのだった




「こほん……じゃあ改めて……」


 朝ご飯を食べ終わった4人は話し合いを再開。

 カミラが真っ直ぐな視線で双子を見る。


「……かなり危険なのは理解しているわよね?」


「「うん」」


 双子は同時に頷いた。


「自分達の能力はちゃんと理解してる?」


 その言葉を聞いた瞬間、双子は一瞬口ごもる。

 が、すぐに答えた。


「あたしは魔力が高いけど、魔法の扱いが下手!」


「僕は魔法を操れるけど、持っている魔力が低い!」


 それを聞いたカミラは満足そうに頷いた。


「安心したわ、ちゃんと自分の欠点を言える事に……旅に出た頃の身の程知らずだった私とは大違い…………冒険者になって腕を磨いていらっしゃい!」


「「うん!」」


「あ、でも最低でも1種間に1回は手紙を出す事。これは絶対だからね」


「「は~い!」」


 双子が返事をすると同時に、黙って話を聞いていたラクムが椅子から立ち上がった。


「よし! そうと決まれば色々と準備をしないとな! えーと……昔使ったキャンプ道具は何処にしまったかな?」


「キャンプ道具? 確か物置に……」


 2人の会話を聞いたユウが椅子から立ち上がり、2人に抗議をした。


「ええ! お古!? 新しいのが欲しい!」


 カミラはその抗議を真っ向から否定をする。


「新しいのがほしい!? 何言っているの! 旅の軍資金は少しでも多い方がいいの! だから、まだ使える物はとことん使う! これは冒険者の常識よ!」


「常識って……そうなの?」


 ユウがシュウの方に顔を向ける。

 シュウは困った様子で首を傾げた。


「さあ? 僕に聞かれても……」


 それを聞いたユウが疑いの目でカミラの方を見る。

 カミラは誤魔化すように続けた。


「とにかく! つべこべ言わずあんた達も準備を始めなさい! じゃないと魔法がまともに使えるまで、このまま修業しててもいいのよ!?」


「「はああああああい!!」」


 双子は慌てて自分達の部屋へと入り、旅支度を始めた。



 あれこれと準備をしているうちに1週間たった。

 この日、ようやく双子が旅に出る。


 村の入り口でカミラはユウとシュウを抱き寄せていた。


「体には気を付けるんだよ」


「「はい」」


「絶対に無理だけはしちゃ駄目だからね」


「「はい」」


「…………じゃあ……いってらっしゃい……」


 カミラは名残惜しそうに双子から離れる。


「「はい! いってきます!」」


 それを合図にユウとシュウが歩み出した。

 冒険者ギルドのあるルノシラ王国へと……。

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