夜、バーンズ家。
カミラはテーブルに置いてある冒険者について書かれた紙をじっと眺めていた。
「……」
そこに青い髪、青い瞳の夫のラクム・バーンズが両手にホットミルクの入ったコップを持ってやってきた。
「何を悩んでいるんだい?」
「あっ、あなた」
ラクムは手に持っていたコップをカミラの前に置いた。
「ありがとう」
カミラはコップを手に持ち、口へと運ぶ。
「Sランク冒険者、大魔術師カミラでも眉間にシワを寄せる事があるんだな」
「……そんなの関係ないし、元だし、15年以上前の事だし。そもそも、組んでいたパーティーが良かったからSランクに行けたようなものよ……」
ラクムがカミラの隣に座った。
「何言っているんだい。君の魔法能力に長けているから大魔術師の異名が付くし、あの子達もそれを受け継いだんじゃないか」
「……はあ~……その受け継ぎで悩んでいたわけなんだけどね」
カミラはテーブルの上に置いてある紙をラクムに手渡した。
受け取ったラクムは内容に目を通す。
「…………あの子達に冒険者を勧めるかどうか悩んでいたわけか」
「そういう事。あなたはどう思う?」
「俺はあの子達がやりたいというのなら、かまわないと思うけど……ただ未熟な所が気にはなるかな」
ラクムの言葉に、カミラは困った顔をしつつ頭を縦に振った。
「そこなのよ。冒険者は常に危険と隣り合わせ……1歩間違えれば命に関わるわ……」
カミラの手に持っているホットミルクが少し波打つ。
それを見たラクムは、自分の手でカミラの手を優しく包んだ。
「……でも、実戦だからこそ鍛えられる事もある。カミラがまさにそうだろ? あの子達と同じくらいの歳で冒険者になっているんだから」
「……」
「だったら、俺達の子供を信用してやろうじゃないか。っと言っても、まだあの子達がやると言ったわけじゃないけどな」
「……確かにそうね。うん、決めたわ」
カミラはホットミルクを一気に飲み干し、2人は寝室へと向かった。
※
翌朝、カミラが朝食の準備をしているとユウとシュウが同じ寝癖を付け、同じ様に右目を擦りながら子供部屋から出て来た。
「おはよう、2人とも」
コーヒーを入れていたラクムが2人に気付き、朝の挨拶をかわす。
「「おはよう~……」」
双子は寝ぼけながらも挨拶を返す。
そして、ふわふわしつつ椅子に座った。
「おはよう。もうすぐ出来るからね」
カミラは焼けた目玉焼きをフライパンから皿へと移す。
「うん、わかった……ん? 何だこれ?」
シュウがテーブルの上に置かれていた紙を手に取る。
「なにそれ?」
ユウが横から覗き込む。
そして内容を読んだ瞬間、2人は一瞬で目を覚ました。
「「こ、これって冒険者の!」」
双子が驚いている所に、カミラが目玉焼きとパンをテーブルの上に置いた。
「お母さん! これってどういう事なの!?」
ユウがシュウから紙を奪い取り、カミラに見せる。
カミラは微笑みながら口を開いた。
「見ての通り、私はあなた達に冒険者を勧めたいと思っているわ。でも、それは強制じゃない……どうするかはあなた達自身で決めなさい」
ユウとシュウはお互いの顔を見合わせる。
そして、少しの間を開けてからユウが口を開いた。
「……なりたい! あたし、お母さんの冒険者時代の話を聞いてからずっと、ずっと、ず~~っとお母さんみたいな強い冒険者になりたいと思ってたの!」
ユウに続きシュウも口を開く。
「……僕もお母さんみたいに強くなりたい!」
その言葉を聞いたラクムが、笑いながらそれぞれの前にコーヒーを置き椅子に座った。
「はっはっは、何とも嬉しい言葉だな。カミラ」
そのカミラは両手で顔を抑えて涙声で答える。
「……うう~! まさかそう思われていたなんて~!」
「これは相当効いているな。母さんが落ち着くまで待っていると、朝ご飯が冷めそうだからさっさと食べてしまおう」
ラクムがナイフとフォークを手に持つ。
「「は~い」」
ユウとシュウもナイフとフォークを持ち食べ始めた。
予想通り、カミラが落ち着く頃には目玉焼きとコーヒーはすっかり冷めてしまうのだった
「こほん……じゃあ改めて……」
朝ご飯を食べ終わった4人は話し合いを再開。
カミラが真っ直ぐな視線で双子を見る。
「……かなり危険なのは理解しているわよね?」
「「うん」」
双子は同時に頷いた。
「自分達の能力はちゃんと理解してる?」
その言葉を聞いた瞬間、双子は一瞬口ごもる。
が、すぐに答えた。
「あたしは魔力が高いけど、魔法の扱いが下手!」
「僕は魔法を操れるけど、持っている魔力が低い!」
それを聞いたカミラは満足そうに頷いた。
「安心したわ、ちゃんと自分の欠点を言える事に……旅に出た頃の身の程知らずだった私とは大違い…………冒険者になって腕を磨いていらっしゃい!」
「「うん!」」
「あ、でも最低でも1種間に1回は手紙を出す事。これは絶対だからね」
「「は~い!」」
双子が返事をすると同時に、黙って話を聞いていたラクムが椅子から立ち上がった。
「よし! そうと決まれば色々と準備をしないとな! えーと……昔使ったキャンプ道具は何処にしまったかな?」
「キャンプ道具? 確か物置に……」
2人の会話を聞いたユウが椅子から立ち上がり、2人に抗議をした。
「ええ! お古!? 新しいのが欲しい!」
カミラはその抗議を真っ向から否定をする。
「新しいのがほしい!? 何言っているの! 旅の軍資金は少しでも多い方がいいの! だから、まだ使える物はとことん使う! これは冒険者の常識よ!」
「常識って……そうなの?」
ユウがシュウの方に顔を向ける。
シュウは困った様子で首を傾げた。
「さあ? 僕に聞かれても……」
それを聞いたユウが疑いの目でカミラの方を見る。
カミラは誤魔化すように続けた。
「とにかく! つべこべ言わずあんた達も準備を始めなさい! じゃないと魔法がまともに使えるまで、このまま修業しててもいいのよ!?」
「「はああああああい!!」」
双子は慌てて自分達の部屋へと入り、旅支度を始めた。
※
あれこれと準備をしているうちに1週間たった。
この日、ようやく双子が旅に出る。
村の入り口でカミラはユウとシュウを抱き寄せていた。
「体には気を付けるんだよ」
「「はい」」
「絶対に無理だけはしちゃ駄目だからね」
「「はい」」
「…………じゃあ……いってらっしゃい……」
カミラは名残惜しそうに双子から離れる。
「「はい! いってきます!」」
それを合図にユウとシュウが歩み出した。
冒険者ギルドのあるルノシラ王国へと……。