リトーレス大陸西部、ヴァーリ地方にあるカイナ村。
村人は100人余りの小さくのどか村だ。
そんな村で、お揃いのタボダボの黒いローブを着た子供が2人走り回っていた。
「ほら、シュウ! はやくはやく!」
両耳の下で結んだ青紫色の髪を揺らしながら、自分の後ろを走る少年に向かって少女が声をかける。
「まっまってっよーユウー!」
青紫色の髪を頭の後ろで結んで動物の尻尾の様に揺らしながら、少年は前を走る少女を追いかける。
少女はユウ・バーンズ、少年はシュウ・バーンズ。
2人は同じ青紫色の髪で、同じ水色の瞳を持ち、同じ顔をしている姉弟……双子だ。
見分け方として性別を除けば、ユウは右目の下に泣きボクロ、シュウは左目の下に泣きボクロがある。
しかし、それでもよく間違えられてしまうのが2人の困っている点だった。
「ついた! ここ!」
ユウが村の外れにある森の奥に向かって指をさした。
遅れてやってきたシュウは息を整え、森の奥を見る。
「……まっくらで、なにもみえないよ? ほんとうにみたの?」
シュウはユウの方へ顔を向ける。
「ほんとうにみたんだもん! もりのおくから、みどりいろのちっちゃなひかりを! あれはぜったいにホタルだもん!」
「でも、ホタルってよるにひかるんじゃ……」
「だから、すごいホタルなんだって! つかまえておとうさん、おかあさんにみせるんの!」
シュウは困った顔をしつつ、もう一度森の奥を見る。
すると、森の奥で緑色の光がぽっと現れた。
「「あっ!」」
2人が同時に声を出すと、緑色の光は森の奥に向かって動き出した。
「あっ! まって!」
ユウが森の中へ入ろうと駆け出す。
それをシュウが手を掴み慌てて止めた。
「おかあさんが、もりのなかにはいっちゃだめっていってたでしょ!」
「そうだけど、このままだとにげちゃう! ちょっとくらいだいじょうぶだよ!」
「でも……」
「おかあさんとおとうさんのよろこぶかお、みたくないの!?」
「う……それは……みたい……」
「だったらてをはなして!」
ユウはシュウの手を振り払い、森の中へと入って行く。
「ううう……まってよー」
その後をシュウが追いかけた。
2人は薄暗い森の中を進んだ。
「む~……みあたらないな~……」
「ホタルって、そんなにはやくうごいたっけ?」
「だからすごいホタルなんだってば…………あっ! みつけた!」
ユウが緑色の光に向かって駆け出した。
が、その足はすぐに止まる。
「……へ……?」
森の暗闇から浮かんだ、ユウの倍以上の大きさがある猫の様なシルエット。
全身が漆黒の豹種モンスター、ブラックパンサーがユウを睨みつけていた。
ホタルの光だと思っていたのはブラックパンサーの目だった。
「――きゃああああああああああああああ!」
ブラックパンサーの姿を見たユウが悲鳴をあげる。
『シャアアアアア!』
ユウの悲鳴に反応したのか、獲物を見つけたからなのか。
ブラックパンサーが鳴きながらユウに向かって牙を向ける。
「ユウ!」
シュウがユウを押し倒し、ブラックパンサーの牙を回避する。
しかしブラックパンサーはすぐに体勢を立て直し、身を低くして襲うタイミングをうかがう。
「あ……あわわ……」
ユウとシュウは怯えながら後退りをする。
『グルルルル……』
「っ! あ、あっちいけ!!」
ユウが小石を拾い、ブラックパンサーに向かって投げつけた。
小石はこつんとブラックパンサーの頭に当たる。
『グルルルル!』
ブラックパンサーは小石が当たっても、うなり声を出し続け威嚇する。
「ユ、ユウなにしてるの!!」
「だって! だってええ!」
2人は抱き合いながら、恐怖のあまり大粒の涙を流した。
『……シャアアアアアアアアアア!』
ブラックパンサーが2人に向かって飛び掛かる。
「「わあああああああああああああ!」」
2人が叫び声を上げる。
その瞬間、ブラックパンサーの目の前に火の玉が現れ爆発した。
『ギャンッ!』
ブラックパンサーは爆発で後ろへと吹き飛び、木に体を打ち付けて動かなくなった。
「……なに……いまの……?」
「……わ、わかんない……」
突然の事に2人が茫然とする。
すると、茂みからもう1匹のブラックパンサーが顔を出した。
「ユ、ユウ! まだいる!」
「そ、そんな……」
『シャアアアアアアアアアアア!』
ブラックパンサーが飛び掛かる。
今度こそ駄目だと2人は目を強く瞑った。
「グランドウォール!!」
女性の声と共に、ユウとシュウの前の地面が盛り上がり壁が出来る。
ブラックパンサーはその壁に弾き飛ばされた。
「「……え?」」
「ユウ! シュウ! 怪我はない!?」
2人は声のした方を見る。
そこには肩より長い、濃い紫色の髪の女性が木の杖を持ち立っていた。
「「おかあさん!!」
「2人とも動かないで! サンダーストライク!!」
2人の母親カミラ・バーンズの目の前に、青く光る電気の球が出現する。
そして、電気の球はブラックパンサーに向かって高速で撃ち放たれた。
『――ギャンッ!』
ブラックパンサーの全身に閃光が走り、短い悲鳴と共にその場に倒れ込んだ。
「「……」」
「ふぅ……もう大丈夫よ」
「「うわああああああん!!! おかあさあああああああん!」」
2人はカミラに向かって走り出す。
そして、足にしがみ付いて泣きじゃくった。
「まったく……あれほど森の中に入っちゃ駄目って言ったじゃないの!」
「「ご、ごめんんあざいいい!!」」
「……でも、無事で良かったわ。ところで、さっき大きな爆発音が聞こえたけど……」
「わっ……わかんない……いきなりめのまえで、ばくはつしたの……」
「爆発?」
ユウの言葉にカミラが眉を顰める。
「あっ……あれ……」
シュウが爆発で吹き飛ばされたブラックパンサーに指をさした。
「あれは、爆裂魔法の跡……え、この子たちがやったの!? まだ3歳なのに……いえ、蛙の子は蛙……か。仕方ない、かなり早いけど魔法の特訓をしなくちゃいけないみたいだね」
カミラは2人の頭をポンポンと軽く叩き、村へと戻った。
そして、10年の月日が経った。
「フレアボム!」
ユウが叫ぶと、的にしていた石の上の空中で大爆発が起きる。
「もうなんでぇ!? また外れた!」
「……ユウは持っている魔力が高いけど、魔力の扱いが下手……そして」
「フレアボム!」
シュウが叫ぶと、的にしていた石で小さな爆発が起き小さな破片が飛び散った。
「……シュウは魔力の扱いがうまいけど、持っている魔力が低い。綺麗に2人で能力を分け合っちゃったわね」
カミラは頭をポリポリとかきながら、ポケットから紙を取り出す。
「う~ん……これはどうしたもんか……」
カミラが持っていた紙。
そこには冒険者についての詳細が書かれていた。